第66話 本能のフリーフォール 〜白い祈りが 街を縛る 倒れた老人 誰も見ぬフリ 弱さも優しさも 屋上に置け 落ちろウィーニー 本能のFree fall〜
シルヴァーナの予見した通り、帝国軍は勢いを増した。
神への信仰は、異様なほど濃くなり、なぜか冷たい空気が、街を覆い尽くしていた。
ウィーニーは、建物の影を伝って走っていた。
いつもの、偵察。
街の様子を、見て、報告する。それが、ランナーの、仕事だ。
「今日は、違うルートから……」
7番街。
セントラの西側にある、ビルが立ち並ぶ、かつてのオフィス街。
その広場の中央に、巨大な、神の像が、建っていた。
純白の、翼を広げた、神の像。
住民たちが、その前に、ひざまずき、一斉に、祈りを、捧げている。
その光景に、なぜか生気は、なかった。
誰もが、同じ言葉を、繰り返す。
「主に、感謝を」
「主に、感謝を」
ウィーニーは、ビルの屋上の縁に、しゃがみ込んだ。
「なんだ……これ」
その時。
祈りの輪の隅で、一人の老人がヨロヨロと立ち上がった。
「ひ、膝が痛くて……座っておれん……」
杖をついた痩せた老人。
「今日の配給は、まだもらえんかね……」
帝国軍の兵士が二人、歩み寄った。
「貴様、勝手に立つな! 祈りが足りん!」
「な……。まだ祈れと? 朝からずっと……」
「主を、疑うのか」
ガッ!
兵士のブーツが、老人を蹴り倒した。
「ぐっ……」
ウィーニーの体がビクッと動いた。
住民は、顔を背け祈りを続けていた。
「続けろ」
ウィーニーは、ビルの縁に手をかけ、拳を握った。
爪が、手にめり込む。
「クソ……あいつら、また……」
偵察して、報告する。
それがランナーの仕事だ。
「勝手なことしたらまた、デビルズに迷惑をかける。それに──オレ一人なんかじゃ、この状況を……」
ウィーニーは、唇を噛み、広場に背を向けた。
「──おい、ガキィ」
振り返ると、ロベルトがいた。
いつからそこに。
「今、何を見たぁ?」
「ロ、ロベルト……。あの、これはもちろん、報告するつもり──」
「そうじゃねえ。てめえは今、拳を握ったなぁ。なんで止めたぁ?」
「そっ、それは……勝手なことしたらまたデビルズに……フリークスに迷惑がかかるし……それに……オレ一人じゃ……何も……」
「フン。ガキィ、てめえ、まぁだ分かってねえようだなぁ?」
「え……」
ロベルトはそういうと、ビルの縁に手をかけて広場を見下ろした。
「"オレ一人じゃ何も"、その弱さに気を取られるんじゃねえ」
「……」
「その弱さが、てめえの本能を覆い隠す」
「本能を……?」
「"デビルズに迷惑をかけることになる"、その優しさに逃げるんじゃねえ。それが、てめえを迷いの淵に突き落とす」
「……」
「デビルズはなぁ、弱いてめえも、優しいてめえも求めてねえ。世界は、そんなてめえを必要としねえ」
ウィーニーは、押し黙った。
「強くなりてえんだろうがぁ?あぁん?」
「うん……」
ビルの屋上を、風が通り抜けた。
ロベルトの長髪がフワリと揺れた。
ロベルトは、大きく息を吐くと空を見上げて言った。
「ふう。てめえも、そろそろランナーを卒業しなきゃなぁ」
そう言うと、ロベルトはウィーニーの首を掴んだ。
「え」
「怒り。それは、本能だ」
「ロベルト……何を……」
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落ちろ ガキィ Free fall
弱えのは罪じゃねえ そこがStart
優しさに逃げんな 捨てろControl
弱さも優しさも 全部置いてけ
怒りの本能 それがお前のSoul
本能だけが お前のreal call
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ロベルトは、ウィーニーを見下ろし、ニタリと笑った。
「本能こそが──」
ロベルトは、ウィーニーを持ち上げた。
「うっ……」
「──お前だぁぁぁ!!」
ブンッ!!
ウィーニーの視界に、空が映った。
「本能を信じろ、ガキィ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




