↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
路地裏のウィーニー  作者: みゃーじま
第壱章 何者でもねえ
PR
7/112

第6話 ロッキーと鼓動 〜底で鳴るビート 止まらねえストリート〜

第6話


 アンデッドは身を屈めて、錆びついた剣をウィーニーに向ける。


「やめろ……ッ!」


 踏み込むアンデッド。


 反応できない。

 いや、反応の仕方を知らない。

 喧嘩すらしたことがない。


「──ここで、終わりか」


 ウィーニーは思わず目を瞑って叫んだ。


 ──来る、来る!


「うわあぁぁぁぁ!」


ガツンッ!


 下水道に鈍い音が響く。


 拳に痛み。


 恐る恐る目を開けた。


 無意識に出した拳。

 表情のないアンデッドの顔面に刺さっている。


 なぜか拳が、滲み出るように光っている。


「ギギ……」


 アンデッドの顔に亀裂。

 光がアンデッドの全身を網の目のように走った。


「人間……カ?」


 そのままアンデッドは、バラバラと崩れ、形を失った。


「な……なんだ、今の?」


 ウィーニーは、自分の拳を見つめた。


「倒したのか?……オレが?」


 拳の内側が、じんわりと熱かった。

 知らない感覚だった。


 呆然と立ち尽くすウィーニー。


 その時、闇の奥にさらに黒い影が動いた。


「一匹じゃない!?」


 闇に蠢くアンデッドの気配。


 ウィーニーは背を向けて走った。


 視界の端。ハシゴを見つけた。


 慌てて駆け上がる。

 分厚いマンホールの蓋を押し上げて、地上に転がり出た。


 走った。

 後ろも見ず。

 一心不乱に。


 どこを走ったか。

 覚えていない。


 気付けばボロアパート。

 扉を閉め、床に倒れ込んだ。


「……オレ、今……何した?」


 息は整ったのに、鼓動だけが収まらない。


「なんだったんだ……今の。オレは、一体……」


カタッ。


「ひっ!」


 小さな物音に過剰に反応する体。


「な……なんだ、お前か。無事だったか、お前も」


 ネズミが穴から顔を出した。


 心が少し軽くなった気がした。


「……そうだったな。お前の名前、まだだったな」


 心臓の音が聞こえる。

 まだ収まらない鼓動。


 それに合わせるかのように、ネズミは尻尾で床を叩いた。


トン。トン。トン。


「こ、こんな時に……やれってか?」


トン。トン。


「わ……わかったよ……いくぞ?」


 Hey……yo……


────────────────────

終わりかけた 下水の底

刃が迫って 目ぇ閉じたとこ

気づけば拳 光ってぶち抜き

骨は崩れて 理由は不明


でも奥にまだ 気配 群れ

逃げて戻って 鼓動だけ荒れ

……止まらねえビート

お前も叩く 同じリズム


ちっせえ体で 何回も生きる

そのしぶとさ マジでロック


……決めた


お前の名前は──

ロッキーだ

────────────────────


「ロッキー……どうだ?」


 ネズミは、尻尾で一度だけ床を叩いた。


トン。


 そして、穴の中に消えた。


 カビたマットレスの上。


 下水の臭いが、体にこびりついている。


「……最悪だ……」


 窓の外。


「ハハ……くっせえな、お前」


 あの猫だ。

 片目だけ、緑に光る。


「なんだそのツラ。ゴミ溜めから這い出てきたみてえだな」


 ウィーニーは何も言わない。


「便所掃除が似合ってると思ったら、下水までランクアップか? 順調じゃねえか」


 喉が詰まる。


 でも──


「……」


「どうした? 今日は睨み返さねえな。やっと現実見えたか?」


 猫は鼻で笑う。


「お前は変わらねえよ。どこまで行っても底のまま」


 ウィーニーの指が、わずかに動く。


トン。


 気付いていない猫。


「夢見てんじゃねえ。お前はそのまま消える側だ。……そうだなあ……下水で這いずるそのライフ 変わる気ねえなら一生ストライクアウトってか、ギャハハハハ!」


 猫は踵を返す。


「まあせいぜい、臭えまま生きてろ」


 捨て台詞。

 猫は吐き捨て、そのまま闇に消えた。


「……違う」


 ウィーニーは小さく、呟いた。


「……違うんだよ」


 指が、床を叩く。


トン。トン。


 呼吸が、少しずつ整う。


「……言えなかっただけだ」


────────────────────

……っ、Yo……

ゴミでもいい 下水でもいい

それがオレでも 終わりじゃねえ


変わらねえ? ああそうかもな

でもまだ止まってねえ それが違うな


何もねえ? ゼロ? それでいい

ゼロから動く それがオレの意志


笑えよ まだ途中だ

終わり決めんのは オレだ


焦んな、デブ猫め……

────────────────────


 窓から冷たい風が吹き込む。


「……遅えけどな」


 ウィーニーの指が床を叩く音は、明け方まで響いた。


 窓の外。


 遠くで機械音。銃声、悲鳴が響いていた。


 ウィーニーの耳には、何も聞こえていなかった。


 朝。


 目を開けた。


 ──銃口。


 まだ夢の中だと思った。


 黒い穴がいくつも、目の前にあった。

 その奥で、赤い帝国軍の紋様が霞んでいる。


「動くな!」


「……え」


 状況を理解する前に、腕を掴まれた。


 引きずり起こされる。


「対象確認。確保する」


「え、待っ……!」


 床に膝を打ちつける。


「抵抗するな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。