第6話 ロッキーと鼓動 〜底で鳴るビート 止まらねえストリート〜
第6話
アンデッドは身を屈めて、錆びついた剣をウィーニーに向ける。
「やめろ……ッ!」
踏み込むアンデッド。
反応できない。
いや、反応の仕方を知らない。
喧嘩すらしたことがない。
「──ここで、終わりか」
ウィーニーは思わず目を瞑って叫んだ。
──来る、来る!
「うわあぁぁぁぁ!」
ガツンッ!
下水道に鈍い音が響く。
拳に痛み。
恐る恐る目を開けた。
無意識に出した拳。
表情のないアンデッドの顔面に刺さっている。
なぜか拳が、滲み出るように光っている。
「ギギ……」
アンデッドの顔に亀裂。
光がアンデッドの全身を網の目のように走った。
「人間……カ?」
そのままアンデッドは、バラバラと崩れ、形を失った。
「な……なんだ、今の?」
ウィーニーは、自分の拳を見つめた。
「倒したのか?……オレが?」
拳の内側が、じんわりと熱かった。
知らない感覚だった。
呆然と立ち尽くすウィーニー。
その時、闇の奥にさらに黒い影が動いた。
「一匹じゃない!?」
闇に蠢くアンデッドの気配。
ウィーニーは背を向けて走った。
視界の端。ハシゴを見つけた。
慌てて駆け上がる。
分厚いマンホールの蓋を押し上げて、地上に転がり出た。
走った。
後ろも見ず。
一心不乱に。
どこを走ったか。
覚えていない。
気付けばボロアパート。
扉を閉め、床に倒れ込んだ。
「……オレ、今……何した?」
息は整ったのに、鼓動だけが収まらない。
「なんだったんだ……今の。オレは、一体……」
カタッ。
「ひっ!」
小さな物音に過剰に反応する体。
「な……なんだ、お前か。無事だったか、お前も」
ネズミが穴から顔を出した。
心が少し軽くなった気がした。
「……そうだったな。お前の名前、まだだったな」
心臓の音が聞こえる。
まだ収まらない鼓動。
それに合わせるかのように、ネズミは尻尾で床を叩いた。
トン。トン。トン。
「こ、こんな時に……やれってか?」
トン。トン。
「わ……わかったよ……いくぞ?」
Hey……yo……
────────────────────
終わりかけた 下水の底
刃が迫って 目ぇ閉じたとこ
気づけば拳 光ってぶち抜き
骨は崩れて 理由は不明
でも奥にまだ 気配 群れ
逃げて戻って 鼓動だけ荒れ
……止まらねえビート
お前も叩く 同じリズム
ちっせえ体で 何回も生きる
そのしぶとさ マジでロック
……決めた
お前の名前は──
ロッキーだ
────────────────────
「ロッキー……どうだ?」
ネズミは、尻尾で一度だけ床を叩いた。
トン。
そして、穴の中に消えた。
カビたマットレスの上。
下水の臭いが、体にこびりついている。
「……最悪だ……」
窓の外。
「ハハ……くっせえな、お前」
あの猫だ。
片目だけ、緑に光る。
「なんだそのツラ。ゴミ溜めから這い出てきたみてえだな」
ウィーニーは何も言わない。
「便所掃除が似合ってると思ったら、下水までランクアップか? 順調じゃねえか」
喉が詰まる。
でも──
「……」
「どうした? 今日は睨み返さねえな。やっと現実見えたか?」
猫は鼻で笑う。
「お前は変わらねえよ。どこまで行っても底のまま」
ウィーニーの指が、わずかに動く。
トン。
気付いていない猫。
「夢見てんじゃねえ。お前はそのまま消える側だ。……そうだなあ……下水で這いずるそのライフ 変わる気ねえなら一生ストライクアウトってか、ギャハハハハ!」
猫は踵を返す。
「まあせいぜい、臭えまま生きてろ」
捨て台詞。
猫は吐き捨て、そのまま闇に消えた。
「……違う」
ウィーニーは小さく、呟いた。
「……違うんだよ」
指が、床を叩く。
トン。トン。
呼吸が、少しずつ整う。
「……言えなかっただけだ」
────────────────────
……っ、Yo……
ゴミでもいい 下水でもいい
それがオレでも 終わりじゃねえ
変わらねえ? ああそうかもな
でもまだ止まってねえ それが違うな
何もねえ? ゼロ? それでいい
ゼロから動く それがオレの意志
笑えよ まだ途中だ
終わり決めんのは オレだ
焦んな、デブ猫め……
────────────────────
窓から冷たい風が吹き込む。
「……遅えけどな」
ウィーニーの指が床を叩く音は、明け方まで響いた。
窓の外。
遠くで機械音。銃声、悲鳴が響いていた。
ウィーニーの耳には、何も聞こえていなかった。
朝。
目を開けた。
──銃口。
まだ夢の中だと思った。
黒い穴がいくつも、目の前にあった。
その奥で、赤い帝国軍の紋様が霞んでいる。
「動くな!」
「……え」
状況を理解する前に、腕を掴まれた。
引きずり起こされる。
「対象確認。確保する」
「え、待っ……!」
床に膝を打ちつける。
「抵抗するな」




