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第58話 震えない拳 〜夜空に落ちる一本角 赤いビートが戦場を叩く 震えたガキが拳を上げる〜

第58話


 月が地平線にかかる。

 夜空に舞い上がった、一本角。


「行くぜぇ!」


 ロベルトの体が、炎を纏った。


 ウィーニーは、空を見上げながら、シャクールの後を駆けた。


「おい、ウィーニー! よそ見すんな!」


「う、うん」


ゴオォォォォッ!


 燃える隕石となって、ロベルトがアンデッドの群れに落下した。


ズドオオォォォォン!!


 爆心地から、骨が吹き飛ぶ。


 周囲のアンデッドは、一瞬で塵になりパラパラと舞い落ちた。


「な……なんだ、あの悪魔は……」


 ラプター大佐は、目を見開いた。


「フン」


 ロベルトは、一本角にかかった灰を振り払った。


 その横を赤い閃光が駆け抜けて行った。


 今度はウィーニーが目を丸くした。


「マニー! はっ、速い! いつの間に!」


 その後ろを巨大なハンマーを抱えたヘルパニッシャーがついていく。


 マニーに向かってアンデッドが剣を振り上げる。


ズゴンッ!


 その剣を振り下ろすより先に、マニーのオーバーハンドフックがアンデッドの頭蓋骨を砕いた。


 同時に、後ろのヘルパニッシャーが、ハンマーを振り下ろした。


ドゴオォォン!


 その衝撃で数体のアンデッドが宙を舞った。


 フック。


ドゴオォォン!


 ストレート。


ドゴオォォン!


 マニーの拳がビートを刻む。

 ヘルパニッシャーのハンマーが、そのビートに合わせて戦場を叩いた。


ドゴオォォン!


 その度に、砕かれた骨が舞い上がる。


「シャクール、あれって……?」


「ああ、マニーの攻撃にヘルパニッシャーが連動してる」


「連動?」


「へっ。本当はマニーが指でリズムを刻むだけで、ヘルパニッシャーは動くんだ」


「すげえ……」


「でも、今夜のマニーは血が激っちまってるな」


 シャクールが振り返った。


「って、感心してる場合か! お前もちったあ力使えるようになっただろ! 殴れよ!」


「う、うん」


 ウィーニーとシャクールは背中を合わせた。


 ウィーニーが、拳を握ると、その手から微かに光が漏れた。


「ボクシング教えただろ! その通りやってみろ!」


「うん……」


 ウィーニーは、初めて自ら敵に拳を向けた。


「やれ、ウィーニー。今のお前ならやれる!」


 初めて地下でアンデッドに襲われたあの夜。

 震えていた体。

 涙が浮かんだ。

 怯えて目を瞑ることしかできなかった。


 シャクールが言った。


「信じろ、ウィーニー! お前は──」


 今宵、構えた拳はもう──


「──ストリートデビルズだ!」


 震えていなかった。


「ギシャァァァァ!」


ブンッ!


 振り下ろされたアンデッドの剣。


 その切先が、額に迫る。


 ウィーニーは、目を見開いた。

 ゆっくりと落ちて来る切先。

 世界が、遅い。

 なのに、自分の体だけが軽い。


「見える!」


フッ!


 躱した。


 拳はもう、振りかぶっていた。


「おおおおりゃあああぁぁぁ!」


 金色の閃光が、アンデッドを捉える。


ズゴンッ!


 その瞬間、アンデッドの顔が砕けた。


「あ、当たった……」


 ウィーニーは自分の拳を見た。

 怖かったあの夜。

 あの時と同じ手なのに、震えてない。

 怖くなかった。


 シャクールが、ニヤリと笑った。


「それでいい! やるじゃねえか!」


 その時。


ドンッ!


 シャクールの背中を何かが押した。


「なっ、なんだ!?」


 甘い香り。


「これ……」


「どけや! 邪魔やねん! アンタら」


シュンッ! シュンッ!


 シュガーは、銀髪を靡かせ、手を振りながらアンデッドに突っ込んでいく。


ガシャン! ガシャン!


 切り刻まれたアンデッド達が、時間差で崩れ落ちる。


 シャクールは顔を顰めた。


「怖えな、あの女……」


 デビルズの登場で一気に戦況が変わった。


 アンデッドに埋め尽くされた黒いフィールドを、炎と悪魔の赤が侵食していく。


 その時、ネクロマンサーが、ゆっくりと杖を掲げた。


「ギギギ……」


 杖の先から立ち昇ったオーラは、モルドレクの体に吸い込まれる。


「ちっ!」


 マニーは舌打ちすると、ロベルトを振り返った。


「ロベルト! ネクロマンサーだ!! あいつが、親玉に力を送ってる!」


「あいよぉ!」


 ロベルトは、ネクロマンサーに足を向けた。


「あれ?」


 マニーが叫ぶ。


「どうした!? 行け、ロベルト! 親玉が力を取り戻しちまう!」


「ああ。でもこいつら……」


ドガッ!


 ウィーニーのパンチで、崩れ落ちたアンデッド。


「あれ?……こいつさっき……」


 シャクールがウィーニーを振り返る。


「どした、ウィーニー?」


 ロベルトが顔を顰めた。


「なるほどこいつら……」


 崩れたはずの骨が、勝手に組み上がる。


「倒したハナから、復活してやがるっ!!」


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