第56話 守りたいもの 〜跳ね返される希望 覗く絶望 その先に立つShadow➖
「もう、終わりだ……」
アンデッドの大群を前に、膝をついて項垂れる神父を振り返ったシルヴァーナ。
「破壊の限りを尽くし、死を前にあっさりと諦める、か。無責任な種族だ」
シルヴァーナは、吐き捨てるように言うと、ライオンを駆り、黒い波のように押し寄せるアンデッドの大軍に突っ込んだ。
「シルヴァーナに、続け」
その後ろを、剣を持ったウサギの群れが追う。
ファントムとその部下は、馬を駆りその後に続いた。
「神父! 立て! 隠れていろ!」
ラプター大佐は、神父を瓦礫の影に押しやった。
「ん? あれは……」
ラプター大佐は、横たわるアークキャノンを見つけた。
「ファルコン少佐! あれだ! アークキャノンを使え! 残った兵はV字に隊列を組むんだ! エネルギー装填まで、ファルコン少佐を守れ!」
「はっ!」
帝国軍は、迫り来るアンデッドに銃口を向けた。
セラは、ファントムの背中にしがみつき、馬上でアンデッドの大群をどこか遠い目で眺めていた。
「嘘みたい……。簡単に、人が死んでいく……」
セラの手にわずかに力が入った。
森を奪われたワイルドブラッド。
森を焼いた帝国軍。
その全てを呑み込もうとする、死の群れ。
誰もが、誰かを恨んでいた。
誰もが、自分の理由で戦っていた。
「……誰も、悪くないのに」
セラは、唇を噛んだ。
「こんな世界……」
ファントムは、前を見据えたまま、遮るように低く言った。
「憎むな」
「え……」
「憎しみは何一つ返してくれない」
ファントムの背中が揺れた。
「25年……。どれだけ憎んでも、何も返って来なかった」
「ファントムさん……」
「目の前のアンデッドを見ろ。彼らも元は人間だ」
ファントムに促され、アンデッドの群れに目をやった。
「元は……人間」
「この戦場に、悪者などいない」
セラは唇を噛んだ。
「じゃあ、なぜ……なぜ、みんな殺し合うの!?」
「殺すために戦うんじゃない」
ファントムは、アックスを握り直した。
「──守るために戦うんだ」
「守る……ため?」
わずかに振り返ったファントム。
「セラ。お前は、何を守りたい?」
「私が……守りたいもの……」
その時──
ファントムが叫んだ。
「掴まれ!」
「キシャアアアァァァ!!」
馬上のファントムに向かってアンデッドが飛んだ。
「きゃあ!」
ズシャッ!
アンデッドは空中で真っ二つに裂かれた。
馬の足が止まる。
アンデッドがファントムとセラを囲んだ。
「クソ! セラ、馬から降りるなよ!」
そう言うとファントムは馬から飛び降り、アンデッドにアックスを向けた。
ザンッ! ザンッ!
ファントムの後ろに立ったアンデッド達が倒れる。
「ボス!」
ファントムの部下、ゴースト達が、駆けつけた。
「とんでもない戦争ですなぁ、ボス!」
「見せてやりますよ! ボスに鍛えられた、我々ゴーストの力を!」
「お前たち……」
ゴーストの一人が笑った。
「ハハ! 死ぬときゃ一緒ですよ、ボス!」
ファントムはニヤリと笑った。
「死んではならん。夜明けまで、戦い抜くぞ!」
セラは馬上からファントム達を見下ろした。
「ファントムさん。あなたが守りたいものって……」
銃声が響く教会の前。
ファルコン少佐は、アークキャノンのトリガーに指をかけた。
「大佐! 撃てます!」
「よし! アークキャノンの前を空けろ!」
ファルコン少佐は、照準をモルドレクに当てた。
アークキャノンのコアが赤く光る。
キュイイィィィィン!
「くたばれ!」
ドォォォンッ!!
蒼白い閃光が、アンデッドの群れを突き抜ける。
閃光に触れ蒸発していくアンデッド。
ラプター大佐は目を見開いた。
「おお!」
ファルコン少佐は照準から目を外した。
「消し飛べ!」
モルドレクは、ゆっくりと閃光に視線を移した。
直撃。
その直前。
シュン──
「え?」
アークキャノンの閃光は、モルドレクに当たる直前、音もなく消えた。
「な……消え……」
ラプター大佐が、ファルコン少佐を振り返った。
「も、もう一発だ!」
「再充填には時間がかかります!」
「時間を稼げ! 撃て! 撃て!」
ラプター大佐は再び、拳銃を構えた。
パン、パン、パン!
「クソ! 敵の数が、多すぎる……」
アンデッド達は、教会の敷地を踏んだ。
一方。
ガオォォォォゥ!!
アンデッドの群れを蹴散らしながら、モルドレクに向かうシルヴァーナと黒いライオン。
「死臭。森には寄せぬ」
「ギィ……」
突き進むシルヴァーナを、目で追っていたネクロマンサーはゆっくりと杖を向けた。
「ギギィ」
ライオンから飛び降りた。
「あと10歩」
流れるような体捌きでアンデッドの錆びた剣を躱すシルヴァーナ。
「あと5歩」
ザンッ。ザンッ。
シルヴァーナの後ろに骨が積み上がっていく。
ザンッ。
「あと3歩」
モルドレクとの距離が縮まる。
「あと1歩──」
ザンッ。
シルヴァーナは、しゃがみ込んだ。
「届く!」
シルヴァーナが、飛んだ。
タンッ。
──同時に、ネクロマンサーの杖が怪しく紫に光った。
「死地へ、還れ」
シルヴァーナは空中で曲刀を振り上げた。
その時。
目の前に、紫の光の壁が現れた。
バチンッ!
激突。
「くっ!」
壁に弾きかえされたシルヴァーナは、体をくねらせて着地。
膝をついたシルヴァーナの口を、赤い雫が流れた。
シルヴァーナの目が鋭くなった。
「チッ。ネクロマンサー……」
馬上で震える手で手綱を持つセラが、小さく呟く。
「私が守りたいもの……。私なんかに一体何が……」
その時、セラの視界に何かが映った。
「ん? あれは?」
戦場の端の小高い丘。
月明かりにわずかに光る──赤い影。
「ほおら、主役の登場だぜえ」
丘の上から戦場を見下ろすマニー。
その横に二つの影が立った。
「アタシに任せてくれたら、ええやん。なんでフリークスも連れてくるのよ」
ガリッ。
シュガーは、飴を噛み砕いた。
「女なんか、信用出来るわけねえだろうがぁ」
月下に光る一本角。
ロベルトはニヤリと笑った。
ウィーニーは、戦場を覗き込んだ。
「セラ……いるのか?」
パシッ!
「痛え! 何すんだよ、シャクール!」
「集中しろ、バカ!」
マニーは、両手を広げた。
「オレ達は、ストリートデビルズ。悪魔より悪いやつは、許さねえ──」
マニーの目が赤く光った。
「お仕置きだぁ!!」
マニーの声が戦場に響き渡る。
その瞬間、全ての目が、デビルズに向いた。




