第52話 死霊の王、目覚める 〜やるか、てめえ 闇に捕まる 小さなLight 爆音裂いて Devils ride〜
陽が沈みかけた13番街の港。
いつものように地べたに座って、円陣を作るフリークス。
シャクールが立ち上がった。
「よーし、みんな。今日も気合い入れていくぞ! 解散だ!」
少し離れたところでぼんやりと海を見つめていたロベルトは、鼻をピクピクと動かした。
「くせえ。くせえぞぉ」
シャクールとウィーニーは足を止めた。
「ロベルト?」
「ブラックゲートの方だ」
シャクールとウィーニーは顔を見合わせた。
「たしか──」
「アンデッドが増えてたって……」
ロベルトは立ち上がった。
「おい、ガキィ。お前、見て来いやぁ」
「え……一人で?」
そう言うとロベルトはいつものようにフラフラとクラブに向かって歩き出した。
「あたりめえだぁ。お前、ランナーだろうがぁ」
シャクールはウィーニーの顔を覗き込んだ。
「大丈夫か、ウィーニー? あぶねえ時は逃げろよ。ランナーは、何があってもつかまっちゃならねえぞ」
「う、うん」
ウィーニーは、一人ブラックゲートのある10番街へ向かった。
10番街──
足を踏み入れた瞬間、ウィーニーの足が止まった。
「臭い。ここまで来たら、流石にオレにもわかる……」
物陰に隠れながら、ブラックゲートに近づくウィーニー。
錆びたコンテナの横から、そっと顔を出してブラックゲートを覗いた。
「なっ、なんだあれ!?」
無数のアンデッドで埋め尽くされた広場。
ブラックゲートから、黒い霧のようなものが湧き出ていた。
ゴゴゴ……
微かに地響きが聞こえ、小石が振動で揺れていた。
「何が……起きてるんだ? あいつは?」
ブラックゲートの正面に、赤いローブを着たアンデッドが見えた。
「もしかして、あれが、ネクロマンサー?」
やがて、ネクロマンサーは手にした杖を大きく回し始めた。
ブラックゲートから漏れる黒い霧がみるみる濃くなっていく。
ドン! ドン!
アンデッド達が足を踏み鳴らし始めた。
「一体、何が始ま──」
言いかけた時──
ブラックゲートからゆっくりと大きな影が姿を現した。
漆黒の鎧。
禍々しいドクロの装飾。
ふわりと靡いた赤いマント。
右手にはカマのように反り返った大剣。
左手には、黒いオーラを纏った錫杖。
──死霊の王が、目を覚ました。
「な……な……なんだアイツは……!?」
ウィーニーは、反射的にコンテナに身を隠した。
「や……やばいやつってのは、わかるけど……。とにかく、ほ、報告をしなきゃ……」
しかし、すぐに足を動かすことが出来なかった。
ウィーニーは、もう一度、ゆっくりとコンテナから顔を覗かせた。
「ギィ……」
「え」
ウィーニーの眼前に、フワリと揺れる赤いローブ。
「ネクロ……。バレてる!?」
ウィーニーの顔を至近距離で覗き込むガイコツの顔。
「ひぃぃぃーっ!」
思わず声をあげて、尻もちをついたウィーニー。
その瞬間、全てのアンデッドがウィーニーに向いた。
「ぎやぁぁぁ!!」
恐怖に逃げ出そうとするも、ウィーニーは落ちていた小石に躓いた。
「うっ! ヤバい!」
立ち上がり、走り出そうとしたその瞬間──
ズン!
「足が……重い……」
ウィーニーの足には、ネクロマンサーの杖から漏れる黒いオーラが巻き付いていた。
「離せ!」
黒いオーラは、ウィーニーの首元まで巻き付いた。
「ぐぐぐ……動け……ない」
「美味ソウナ、タマシイダ」
「しゃ……喋った……」
黒いオーラが、ウィーニーの体を締め付ける。
「ぐ、ぐわぁぁ……!」
頭にシャクールの声が過ぎった。
──ランナーは、何があっても捕まっちゃならねえぞ。
ウィーニーは、拳を握り締めた。
「は……離し……やがれ!」
その時、ウィーニーの体から光が漏れた。
「コノ光……」
ネクロマンサーが、顔を顰めた。
パァン!
その瞬間、光が弾け、黒いオーラが霧散した。
その場に、倒れ込むウィーニー。
「う、う……」
モルドレクの顔が、ゆっくりとこちらに向いた。
ネクロマンサーは、再び杖をウィーニーに向けた。
「コノガキハ、マサカ」
遠のく意識の中、ウィーニーの耳に微かに音が聞こえた。
「この音……エンジン、音……?」
ブオン! ブオン! ブオオオオン!
闇を割るように、炎の轍が向かってくる。
ウィーニーは、うっすらと目を開けた。
「フ……フロイド……?」
「ハッハー!! 楽しそうなことしてんじゃねぇかぁ!!」
ブオオオオン!!
突っ込んできたバイクを、フワリと後ろに飛んでかわしたネクロマンサー。
「ストリートデビルズ……」
ウィーニーは、目を見開いた。
「ジェシー!!」
「ハハハハハハ! フロイドのバイクは、よく走るぜえ!」
ジェシーは、バイクをポンポンと叩いて、ケタケタと笑った。
「ところで、ガキ? お前、何してんだ?」
「あ、いや、このアンデッド達に見つかって……」
ジェシーは、ゆっくりと顔をあげた。
「おいおい、死に損ないどもの大将がいるじゃねえか!?」
「あの……ジェシー。よかったら、助けて……」
ジェシーは、ウィーニーの手を掴むと力ずくでバイクの後ろに引き上げた。
「ハハハ! なるほど、そういうことか!」
カチカチカチ。
爪を噛みながら、辺りを見渡すジェシー。
「あの……逃げないの、ジェシー?」
「あん?」
ジェシーは、ネクロマンサーとモルドレクを交互に見た。
「うーん、そうだなぁ……どうすっかなぁ……」
「いや……どうするって……」
「おい!」
ジェシーはそう言うと、突然ネクロマンサーを睨みつけた。
「やるか、てめえ?」
アンデッドの群れは一斉に身構えた。
沈黙が落ちる。
ジェシーは、大きく溜め息を吐いた。
「はあ。こいつは一旦、報告だな。ハハハハハハ!」
ブオオオオン!
ジェシーは、ケタケタと笑いながら、爆発音のような轟音を響かせ、ハンドルを返した。




