第50話 神の落とし物 〜金色の光 眠る血のSign 神が落とした 欠片のLine 道は塞がれ 祈りもDead 森を裂く軍靴 始まるRed〜
「無茶しおって」
つぎはぎだらけのテントの中。
スヤスヤと眠るセラの顔を見下ろすワイザーは、小さく呟いた。
「ワイザー。この娘っ子は、一体……」
セラを担いでキャンプに戻ったファントムも、セラの顔を覗き込んだ。
「何があった?」
ワイザーは問い返した。
「トロールの拳が届く寸前、この子は……光った。目も開けてられないほど眩しく……金色に」
ワイザーは一瞬沈黙したあと、小さく息を吐いた。
「やはりウィーニーと同じ、か」
「ウィーニー?」
ワイザーは、セラの額に手を当てた。
「この子は、神に関わる血を持つ者の一人じゃ」
その言葉に、離れたところで聞いていたシルヴァーナの眉がぴくりと動いた。
「神に関わる血?」
ワイザーは、コクリと頷いた。
「神の落とし物、とでも言おうかの」
「なんの話だ?」
「う……う。私……ここは?」
セラは、うっすらと目を開けた。
「セラ。目が覚めたか?」
「ワイザー? ファントムさん……私」
ワイザーは、優しくセラの肩を叩いた。
「もう大丈夫じゃ。少し休みなさい」
そう言うと、ワイザーはテントを出て行った。
「ファントムさん……一体何が起きたの?」
不思議そうにセラの顔を見るファントム。
「覚えてないのか?」
「……トロールを見上げた時、明るい光が見えた。眩しくて、目を閉じた……そしたら、ここに……うっ、頭が、痛い」
ファントムは、セラの額に手を当てた。
「もう少し休むといい」
ファントムはそう言いながらテントの外に目をやった。
テントから出たワイザーは、焚き火の横に腰掛けるシルヴァーナと目が合った。
「ほほ」
ワイザーはシルヴァーナに微笑みかけた。
「気になるかね? セラのことが」
シルヴァーナは、焚き火の火を見つめながら短く言った。
「いや」
ワイザーは、笑顔を浮かべながらキャンプの外へ出て行った。
「ほほ、そうかの」
シルヴァーナは、静かにワイザーが消えて行った森の闇を振り返り、小さく呟いた。
「ワイザー。貴様、何者だ?」
一方、壱番街の司令室に戻ったラプター大佐は、頭を抱えた。
「メカの次は、アンデッドか……」
神父の言葉が頭をよぎる。
──ネクロマンサー。死霊の王を呼んでいる。
「急がねば。補給ラインを復旧させ、早急に備えを──」
コン。コン。
ドアを叩く音。
「なんだ?」
「はっ! ファルコン少佐、戻られました」
「少佐! 入れ!」
バン!
勢いよくドアが開いた。
「はあ、はあ。大佐!」
ファルコン少佐は転げるように司令室に飛び込んできた。
「少佐……どうした!? 何があった!?」
泥だらけの軍服。
ファルコン少佐は、その青ざめた顔を上げた。
「南の森! ワイルドブラッド!……トロールの強襲によりヴァンガード……」
「落ち着け、少佐! ヴァンガードがどうした!?」
「──全滅……」
「なっ……なんだと!?」
ラプター大佐は、ファルコンの襟を掴み力づくで立たせた。
「どういうことだ!? 正確に報告しろ! 少佐!」
ファルコン少佐は、項垂れた。
「森は……ワイルドブラッドは我々に明確な敵意を持ち、交渉は……出来ず」
「それで?」
「拘束されました。そのすぐあと、トロール3匹の急襲に遭い……ヴァンガードは全員……混乱に乗じて……逃げ帰って……きました。申し訳……ありません」
ファルコン少佐は唇を噛んだ。
その血がフロアに落ちた。
「そのトロールは、ワイルドブラッドの仲間か?」
「いえ……ワイルドブラッドと戦闘になっていることから、仲間ではありません。あの腐敗臭……アンデッドかと」
ラプター大佐の目が鋭くなった。
「アンデッド……南の森でもか」
ファルコン少佐は続けた。
「赤い髪の女が、リーダーかと思われます。そして……」
「なんだ?」
ファルコン少佐は、顔を上げた。
「反乱軍の中にファントム将軍がいます! 赤い髪の女と行動を共に」
「なんだと!? ファントム将軍は死んだはず!」
「間違いありません。言葉を交わしました」
ラプター大佐は背を向けた。
「なんと?」
「帝国軍を許さぬ、と……」
ラプター大佐は、目を閉じた。
「そうか」
「大佐。帝国軍とファントム将軍の間に何があるのですか?」
「それはお前の知るところではない。ご苦労だった。少し休め」
「……は」
ファルコン少佐が部屋を出ると、ラプター大佐は壱番街を見下ろした。
壱番街に辛うじて残る人々の営みを眺め、大きく息を吐いた。
「ふう。ブラックゲートはアンデッドに阻まれ、南の森はワイルドブラッドが拒絶……」
ラプター大佐は拳を握った。
「ファントム将軍……。消えた特殊部隊ゴースト……か」
トン。トン。
司令室に入った兵士が敬礼した。
「大佐、食料の残りが10日間分を切りました!」
ラプター大佐は振り返らず、ビルの間からわずかに見える6番街の教会の屋根を見つめた。
「神は……我々を見放すのか」
「大佐?」
大佐は兵士に背を向けたまま言った。
「全兵力を、6番街の教会に集めよ」
「そ、それは……?」
「──南の森を突破する」




