第49話 可能性のリリック 〜港に残る足跡 消えねえ魂の音 ガキが握るマイク 世界を変えるリリック〜
空が白み始めた13番街の港町。
地べたに座り談笑するフリークス達。
シャクールが手を上げた。
「おう、戻ったか、ウィーニー!」
5番街を回って戻ってきたウィーニーは頬を膨らませて、腕を組んだ。
「酷いよ、シャクール! 4番街で待ってるって言ってたじゃないか。探したんだぞ」
「あん? そんなこと言ってねー。オレは4番街をうろつくって言っただけだ」
「その言い方は、待ってるかと思うじゃないか!」
「うるせえ! 早く座って報告しろ!」
突っ立ったままのウィーニーを、下から見上げたロベルト。
「まあ、座れやぁ、ガキィ」
「あ……うん」
ウィーニーはシャクールを睨みながら、ロベルトの前に座った。
「で、ガキィ。報告事項はぁ?」
ウィーニーは、頷いた。
「うん。5番街のメインストリートにはもう要塞のような帝国軍の中継基地が出来てた。アークキャノン10機とメカの残骸を使ったバリケード……」
ロベルトは、血のような赤い液体が入ったジョッキを傾け、一気に飲み干した。
「ふーん。それで?」
「う、うん。鉄筋がかなり高いところまで組まれてた。多分……空からの攻撃も防げるように、屋根も作ろうとしてる気がする……」
「ふーん。それで──他にどこを見て来た?」
ロベルトの目が一瞬鋭くなる。
「え……」
ウィーニーの頭には、崩れたボロアパートが浮かんだ。
「……いや、他には……どこも」
一瞬の沈黙。
「──ふん。まあいい。他にランナーからの報告は?」
すると、シャクールの横に座るランナーが口を開いた。
「10番街。ブラックゲート。アンデッドの数が増えてる。ネクロマンサーの姿も」
「フン。どおりで最近くせえわけだ。死に損ないどもめ。報告は終わりか?」
「……」
「じゃあ、解散だぁ」
ロベルトは、フラッと立ち上がると、ウィーニーを見下ろした。
「おい、ガキィ。今聞いたこと、マイクに報告しとけやぁ」
そう言うと、ロベルトはフラフラと立ち去った。
「……マイク」
シャクールは、ウィーニーの肩を叩いた。
「ほら、行ってこいよ」
「あ……うん」
再び、一人で立ったクラブ666の巨大な入り口の前。
壁の窓がわずか開く。
「誰だ?」
「ウィーニー」
バン!
今度は勢いよく開いた。
「YO、ウィーニーか! どうした?」
「あ、あの……マイクに、報告が……」
「おう! ちょうど中にいるぜ! 扉開けるから、待ってろ!」
ゆっくりと開かれる禍々しい鉄扉。
ガランとしたホールの中心に、大きな悪魔の影が浮かんだ。
マイクは、一人、小さな丸テーブルの上で、何やら書き物をしていた。
「あの……マイク」
「なんだ?」
マイクはノートに視線を落としたままだった。
「報告……です」
「……」
何も答えないマイク。
ウィーニーは、テーブルの前に立った。
「えっと、5番街……帝国軍が要塞を築いています。アークキャノン10機配備。ドーム状に鉄筋が組まれ……おそらく上空からの攻撃を防ぐ意図かと……」
「……」
マイクは顔を上げることなく、手にした小さなノートにペンを走らせていた。
「あと……えっと、他のランナーより、ブラックゲート周辺のアンデッドが増加。ニクロマンサーの姿も見られた……そうです」
「……」
なんの反応もないマイク。
(お、怒ってるのかな……?)
ウィーニーは、たまらず頭を下げた。
「以上です……失礼しました!」
逃げ出すように背を向けたウィーニー。
その時──
「ネクロマンサーだ」
「え」
思わず振り返ったウィーニー。
マイクは、視線を落としたまま額を指で掻くと、再びペンを走らせながら口を開いた。
「ニクロマンサーじゃない。"ネ"クロマンサーだ」
「あ……はい! し……失礼しました!」
沈黙。
気まずい空気が流れる。
マイクは、ため息を吐いた。
「ふう」
ウィーニーの顔が強張る。
マイクは、ペンを置くと初めてウィーニーの顔を見た。
「どうだ、フリークスは?」
「あ、はい! とても居心地良く──」
マイクは、ウィーニーを遮るように手を振った。
「やめろ、その喋り方。今はオレしかいねえ。普通に話せ」
「……う、うん。……ロベルトはたまにちょっと怖いけど優しいし、シャクールもいろいろ教えてくれる……みんないい悪魔ばかりだよ」
マイクの口元が緩んだ。
「面白えこと言うなぁ。いい悪魔か、そうか」
「う、うん」
「フリークス。デビルズの中でも変わり者ばかりを集めたチームだ。お前には合ってるはずだ」
「うん」
ウィーニーは、マイクの書き物が気になった。
「マイク。……何を書いてるの?」
「これか? これはリリックだ」
「リリック……」
「オレ達デビルズは、いつ死んでもいい覚悟で生きている。だから普段からリリックを残す。オレが死んでも、仲間がこのリリックを受け取り、オレの魂と意思を繋いでくれる」
「魂と意思を……継ぐ」
マイクは小さなノートをテーブルにポンと置いた。
「遺書みてえなもんだな」
「遺書……」
マイクは立ち上がると、ウィーニーの前に立った。
改めて見上げたマイクは、大きかった。
ウィーニーの口が、無意識に動いた。
「マイク……ありがとう。オレを救ってくれて……。オレに、居場所をくれて……。オレ……頑張るよ」
ずっとマイクに言いたかった言葉が、ようやく伝えられた。
そう思った時、ウィーニーの瞳が揺れた。
マイクはゆっくり膝を折ると、ウィーニーの頭にその大きな手を乗せた。
「オレはお前を可能性と呼んだまで。ここまで来たのは、お前の意志。これからも歩め、お前の道」
「うん……」
マイクは、立ち上がるとウィーニーに背を向けて言った。
「ここまで上がってこい、ウィーニー。そん時ぁ──」
わずかに振り返ったマイク。
「──お前のラップが世界を変えちまうかもしれねえぞ」
「オレの……ラップが、世界を……」
「"可能性"だ。信じろ」
そう言うと、マイクはクラブの奥へと消えていった。




