第47話 交渉 〜口じゃ届かねえ 森のルール 神も軍も飲まれるスクール 牙を剥く このリアル 始まるぜ サバイバル〜
「……Mordrek」
神父がそう口にした瞬間、アンデッド達は一斉にこちらを振り返った。
「ま、まずい! 退け!」
小隊は、アンデッド達に背を向けて走った。
ラプター大佐達は、しばらく走ると崩れかけたビルの陰に身を隠した。
「はあ、はあ……。アンデッドどもは!?」
「……追ってきていません!」
「そうか……神父、大丈夫か!?」
「ああ。それより……もうブラックゲートは使えんぞ、大佐……」
大佐は、逃げて来た方角を見つめた。
「一体、何が起きてる……」
神父もビルの影から顔を出した。
「ネクロマンサーが、死霊の王を召喚している。……ブラックゲートの中からか、それとも……」
「それとも?」
「ブラックゲートの先の港町……オルダムも、落ちているのかもしれぬ……」
「くっ……オルダムが落ちたなら、もう救援物資は届かぬ……セントラは、終わりだ……」
神父はラプター大佐を振り返った。
「いや、それはまだ可能性に過ぎぬ。ともかく、オルダムまでの経路を確保せねば……」
「そうだな。残された道は……南の森と13番街の港からの迂回ルート……」
神父は視線を落とした。
「死霊の王が現れれば、奴らは街を侵食する。もう時間がない。急がねばならぬ……」
「となれば、時間がかかり過ぎる港は使えぬ……唯一の希望は、南の森……か」
ラプター大佐は、ぼんやりと空を見上げた。
一方、ファルコン少佐とヴァンガードの小隊がいる南の森では──
「突然の森への侵入……す、すまなかった……」
ファルコン少佐はうやうやしく頭を下げた。
ウサギは笑った。
「ギャハハハ、許してやる」
「え」
そして、ニヤリと笑った。
「だが、人間は信用出来ぬ。処刑、執行」
「な!?」
ウサギ達の弓が引き絞られる。
「……貴様……」
ファルコン少佐は、唇を噛んだ。
その時。
「待て」
その声に、ウサギ達の視線が一斉に向いた。
「シルヴァーナ。捕まえたぞ、我ら森の敵だ」
「ああ。だが、こいつらは私が殺す」
そういうとシルヴァーナは、腰に下げた曲刀を抜いた。
ファルコン少佐の顔に動揺が映る。
「ま、待て! 我らは、戦いに来たわけじゃない! 話がしたかっただけだ!」
シルヴァーナは、構わず歩み寄った。
「そうか。死ね」
ブン!
シルヴァーナが曲刀を振った瞬間──
「やめて!! 待って」
セラの叫び声が、森に響いた。
シルヴァーナが、小さくため息を吐いた。
「なんだ、小娘?」
「こっ、交渉に来たって……はっ、話を聞いてからでも……」
「必要ない」
そう言うと、シルヴァーナは再び曲刀を振り上げた。
その時、セラの背後に大きな人影が立った。
「シルヴァーナ。セラの言葉も一理ある。話を聞こう」
シルヴァーナは、大きなため息を吐いた。
「要らぬ。人間の言葉に、意味はない」
ファントムの顔を見たファルコン少佐の眉が、ピクリと動いた。
「あなたは……まさか」
ファントムはわずかに首を傾げた。
「なんだ?」
「ファ、ファントム将軍!? 生きていたのか!?」
シルヴァーナの目が鋭くなる。
「貴様ら、同胞か?」
ファントムが答える前に、シルヴァーナの刀が振られる。
ガキン!
その刀を、セラの牙が止めた。
「きゃっ!」
尻もちをついたセラは、シルヴァーナを見上げた。
「シッシルヴァーナさん! 待ってって……言ってるじゃない!」
その瞬間、ウサギ達の弓が再び引き絞られた。
「小娘。ファントム。森に刃を向けるか?」
ファントムは、手を伸ばしてシルヴァーナを制止した。
「シルヴァーナ。待て。奴らの狙いを知るだけだ。それからでも遅くはなかろう」
一瞬の沈黙。
そしてシルヴァーナは、ゆっくりと曲刀を下ろした。
「話せ」
ファルコン少佐は、小さく息を吐くと話し始めた。
「──ブラックゲートからの救援が止まった。このままでは街の人間が飢える。いつまたメカが動き出すとも知れぬ。地下ではアンデッド、街では悪魔の存在も確認されている──」
セラの瞳が揺れた。
「悪魔……ウィーニー……」
ファルコン少佐は続けた。
「このままでは街が死ぬ。この森を抜けた先、東の港町オルダムまで帝国軍の行き来を……許可してくれ……」
「フン。話は終わりか?」
シルヴァーナは再び、曲刀に手をかけた。
「帝国軍はブラックゲートを使っていたはず。なぜこの森を通る?」
ファントム将軍が割って入った。
「ブラックゲートからの供給が止まっています。周辺では地上でもアンデッドの影があり、今、ラプター大佐が調査に……」
「ラプター、か」
「将軍! 帝国軍にお戻りください! あなたが戻れば、ラプター大佐も喜ぶ! 再び特殊部隊ゴーストを率いて──」
ファントムは首を振った。
「私は帝国軍を許さぬ……ファルコン少佐、街へ帰れ。次会う時は──敵だ」
「しょ……将軍……」
シルヴァーナはニヤリと笑った。
「次はない。終わりだ」
蔦が、ファルコン少佐の首に絡みつく。
三度振り上げられたシルヴァーナの曲刀。
セラが叫んだ。
「シルヴァーナさん! ダメ!」
ズン!
その瞬間、大地が揺れた。
ウサギ達が、一斉に森の奥を振り返った。
ドン!
今度は、小隊の背後。
最後部にいた兵士が──
宙を舞った。
シルヴァーナの眉がピクリと動いた。
「トロール」




