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第45話 神は世界を救わない 〜ゴミみたいなやつが まだ走ってる 笑えねえ話 でも悪くねえ シーン〜

「はあ、はあ、シャクール……どこに向かってるの?」


 ウィーニーの声にシャクールはピタリと足を止めた。


「5番街だ。帝国軍がバリケードを張り始めてる。どんな規模か確認しなきゃな」


「5番街……」


「って、本当はこうやって考えながら動くんだぞ、ランナーは」


 そう言うとシャクールは空を見上げた。


「5番街はお前の方が詳しい、だろ?」


「う、うん」


「それにまだ少し明るい。オレの姿は目立ち過ぎる。お前見てこいよ、ウィーニー」


「え」


「オレはこの辺にいるからよ。じゃあな」


 そう言うとシャクールは4番街の路地裏に消えていった。


「見てこいよって……何を?」


 ウィーニーは一瞬肩をすくめると、5番街に足を向けた。


カン! カン! カン!


 5番街に足を踏み入れた瞬間、音が騒がしくなった。


 アークキャノンによって焼け野原になったメインストリート。

 ドレッドワーム出現の跡。地盤沈下でビルが傾いている。


 そんな中、帝国軍の中継地点復旧は急ピッチで進んでいた。さらに、堅牢なメカの残骸をバリケードに使い、10機のアークキャノンが四方に向かって設置されていた。


「もはや要塞、だな……」


 ウィーニーは小さく呟き、ビルの影に身を隠しながら、勝手知った5番街の暗闇を歩いた。


 一方、南の森。

 反乱軍のアジトで、小さな焚き火を遠い目で見つめるセラが呟いた。


「教会は軍の基地に、街は戦場に……。神様……私たちは一体どんな罪を犯したと言うの……」


パチッ。


 弾けた焚き火の音が小さく森に響いた。


「人は、どれだけ苦しんだら許されるのかな……」


 そう言うとセラは、讃美歌を口ずさんだ。


「主よ── 光よ──」


────────────────────

我らを導きたまえ

永遠の旗のもと

あなたと共に

Anthem......

Born......

────────────────────


「Etern──」


「やめろ」


「え」


 セラが背後を振り返ると、森の闇に赤い髪がフワリと浮かんだ。


「あなたは……シルヴァーナ……」


「その歌を歌うな。綺麗事だ」


 セラは視線を落とした。


「綺麗……事」


 シルヴァーナは、森の闇から静かに言った。


「慰めの歌は、人を救わない」


 シルヴァーナは、セラを見下ろした。


「飢えは祈りでは満たせない。血は歌では止まらない。神は──世界を救わない」


「……」


ザクッ。


 シルヴァーナは、セラの目の前で、何か地面に突き刺した。


「これは……?」


 大きな獣の牙。

 持ち手に革。

 僅かに弧を描いた剣のようなその牙は、鋭かった。


「その歌を最後まで歌うな。二度と、な」


 そう言うと、シルヴァーナはセラに背を向け、音もなく森の闇へと消えた。


 セラは顔を上げ、夜空を見上げた。


「……神は世界を救わない……」


 その夜空を、5番街で見上げたウィーニー。


「オレの……アパートが……」


 上半分が無惨に吹き飛んだボロアパートの角から星が覗いていた。


 その時。


「全くしぶとい奴だな、便所掃除」


 振り返ると、小さな包みを背中にくくりつけた猫が立っていた。


「お前は……猫」


「フン。見ての通り、5番街はもう終わりだ。いや……この街の終わりか」


 猫はウィーニーの顔を覗き込んだ。


「お前、何しにきた?」


「何しにって……別に、オレは……。お前こそ、どこ行くんだ?」


「ふん。こんな街にはもういられねえ。オレは森へ帰る。猫だしな」


 ウィーニーは、再び吹き飛んだアパートを見上げた。


「ロッキー……」


「ああ、あのネズミを探しにきたのか? 死んだぞ、あいつなら」


「え!?」


「ほらよ」


 猫はウィーニーの足元に何かを投げつけた。


「!?」


 ネズミの尻尾だった。


 ウィーニーは膝をついた。


「嘘だ……ロッキー……」


「アークキャノンにドレッドワーム。生きてる方がおかしいだろ。お前もすぐ死ぬぞ。じゃあな」


 猫は、ウィーニーに背を向け、6番街の方へ向かって歩き出した。


「……」


 ウィーニーは、ゆっくりと尻尾に手を伸ばした。


「ロッキー……」


 触れる寸前、ウィーニーは手を止めた。


「……違う」


 ウィーニーは、尻尾を見つめた。


「これは……ロッキーじゃない。

あいつは、生きてる。あいつが死ぬわけない」


 ウィーニーは立ち上がった。


「終わってない! まだ……希望は、ある!」


 そう叫ぶと、猫とは反対方向に駆け出した。


 足を止めた猫は、振り返った。


 走り去るウィーニーの背中を見つめながら、小さく呟いた。


「便所掃除……」


 猫は僅かに笑った。


「フッ。確かに……お前みたいなもんが生きてられる世界なら……」


 猫は、小包を背負い直して、再び歩き始めた。


────────────────────

Yo 終わってねえのかもな この街も

ゴミみたいなやつが まだ走ってる

笑えねえ話 でも悪くねえ シーン

じゃあな 便所掃除

────────────────────


 森の闇に向かって、猫の背中が消えた。


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