第4話 何者でもねえウィーニー 〜未完成=可能性これが証明〜
マイクは兵士の額に、自分の額を押し付けて言った。
「返しだ。そう言ったろ」
「ひっ!」
その瞬間、兵士の顔にマイクの大きな拳がめり込む。
「グボォ!」
吹っ飛んだ兵士は、ウィーニーの目の前を通り過ぎ、そのまま壱番街のバリケードに激突した。
凄まじいパワーの前に、バリケードが倒れる。
駆けつけた兵士や警備兵達も、あっけなくデビルズに制圧された。
街中にサイレンが響き渡る。
バリケードの向こう側の兵士達は、銃を構えたまま、いまだ動くことができないでいた。
(メカの侵攻すら許さなかった、あの壱番街が……壊れた)
「バリケードが……破られた」
「侵入される……」
兵士の顔に絶望が浮かぶ。
誰もが死を覚悟した時、マイクはニヤリと笑った。
「人間がよ、ナメんな。格が違ぇんだ」
テレンスがボソッと呟く。
「……まだ分かってねえな、そのツラじゃな」
そう言うと、マイクとテレンスは壱番街に背を向けた。
「帰るぞ、お前ら」
その一言で悪魔達は皆背を向け、灯りが滲む雑踏の中へ溶けていく。
「ま……待って!」
ウィーニーは駆け出した。
小石に躓いて、派手に転ぶ。
「っく……!」
それでも、すぐに立ち上がる。
目の前に転がる、黒いサイコロ。
(あの時の……)
咄嗟に掴んだ。
(近づきたい……!)
走る。
(……彼らに……!)
ウィーニーは必死に走った。
気付けば、息を切らしながら、見慣れた路地に戻っていた。
「……くそ、見失った」
ウィーニーの手には、黒いサイコロ。
ずしりと、その重みが手に伝わる。
(重い……)
その時。
背後から大きな手がウィーニーの首を掴んだ。
「うっ……!」
足が地面から離れる。
「くっ……苦しい」
ブンッ!
視界が反転する。
投げられた。
「グハッ!」
地面に叩きつけられた。
全身が痺れる。
霞む視界に、大きな赤い顔が浮かぶ。
「マ……マイク」
天を突くような牙。
ゆっくりと、その口が開く。
「人間のガキ、なんで俺たちを追う」
マイクの横に立つ悪魔が、ウィーニーの顔を覗き込む。
「まさか、人間のスパイかぁ?」
(ちっ、違う……オレは……)
喉が動かない。
声が出ない、ウィーニー。
その代わりに、サイコロを差し出した。
「……これ」
「落としてた……」
呼吸が震える。
「……でも、それだけじゃねえ」
悪魔達の視線が、ウィーニーに突き刺さる。
「オレも……デビルズに……入りたい……」
悪魔達は一瞬、顔を見合わせた。
そして。
「ギャハハハハ! 何言ってんだ、このガキ!!」
「てめえは、そもそも悪魔じゃねえ!! バカかこいつ!!」
ウィーニーは、唇を噛んで黙った。
やがて笑いは、怒りに変わっていく。
「クソ弱ぇ人間のガキが! ジョークを通り越して、悪魔をバカにしてんのか!」
「今すぐ殺して、地獄に送ってやろうか、クソめぇ!!」
サイコロを差し出した手がプルプル震えた。
じわりと涙を浮かべるウィーニー。
「……分かってる」
でも。
「……このままじゃ、オレ、死んでるのも同然なんだ……」
その時。
ジャリッ。
一人の悪魔が、落ちていたガラスの破片を拾った。
「そうか。じゃあ死ね」
ウィーニーの髪を掴み、ガラスを首に押し当てた。
「ゴミめ」
ウィーニーの目から涙が溢れる。
だが一瞬、その瞳が金色に光る。
「待て」
静観していたマイクが、止めた。
「お前……昨日のガキか? 路地裏の」
ウィーニーは、コクンと頷いた。
「デビルズに入りたいって?」
もう一度頷く。
沈黙が落ちる。
マイクが再び口を開いた。
「それは無理だ。お前は人間、俺たちは悪魔。地獄も見たことねえやつが、俺たちとは歩めねえ」
ウィーニーは、両手を地面についた。
ボロボロと涙が溢れた。
とめどなく。
「そのサイコロはくれてやる。じゃあな」
悪魔達はウィーニーに背を向けた。
(……待て。待ってくれ)
ウィーニーはフラフラと立ち上がった。
泣きながら、声を絞り出す。
声が掠れる。
(……でも、今しかねえ)
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Yo……待て……デビルズ……
お前ら自由?
ならなんで今、線引いた
人間と悪魔は歩めねえ?
……それ、誰が決めた
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「あん?」
悪魔達が一瞬、足を止めた。
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Yo……止まれ
こっち見ろ……
Yo ラップは魂じゃねえのか
だったら種族なんて関係ねえだろ
昨日言ったよな
何者でもねえ
それが最強の位置
未完成? だから可能性
あれは嘘か
オレも隠してねえ
全部出してる
それでも今、ここにいる
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悪魔の群れが振り返った。
「このガキ……ラップのつもりか?」
「まともに韻も踏めてねえ」
マイクが振り返る。
「……」
わずかに口元が歪む。
「……クソダセえぞ、ガキ」
ウィーニーは、歯を食いしばった。
頭は真っ白。
それでも、足を踏み鳴らした。
トン。トン。トン。
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クソダセえでいい
隠してねえ、それが全部
それがオレ
人間でもねえ 悪魔でもねえ
何者でもねえ……ウィーニー……
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「……」
悪魔達が──黙った。
マイクの口元が、ほんの少しだけ上がる。
「……鳴ってやがる」
酸欠。
ウィーニーは再び倒れ込んだ。
朦朧とするウィーニーの顔を覗き込むマイク。
「ガキ。覚えておいてやる」
ウィーニーは意識を失った。




