第43話 ランナー 〜無音 メカ停止 蠢く帝国軍の不安と不穏〜
壱番街。
ラプター大佐は、窓から街を眺めていた。
「メカが全停止……とは」
「大佐」
ラプター大佐はゆっくりと振り返った。
「ファルコン少佐。一体何が起きた?」
「は。西の遺跡群。その地下にメカのアジトと思われる場所がありました」
「なんだと?」
ファルコン少佐は、報告書を差し出した。
「全てのメカが停止していました。自壊したものも多く……中枢ごと潰されたような状態です」
「何者かがやったということか」
「おそらくは。ただ、何者かは……特定できていません」
ラプター大佐は報告書を閉じ、地図に視線を移した。
「まあ良い。調査は後だ。メカが消えた今が好機。5番街と6番街に中継基地を設ける。バリケードで街を分断し、補給ラインを確保する」
「はっ」
「同時にブラックゲートの調査だ。供給が届かない原因を探る。ブラックゲートを通って東の港街まで抜ける」
ファルコン少佐は、静かに頷いた。
「ヴァンガードを連れて行きます」
「ああ。急げ。ブラックゲートが使えぬのなら、南の森を切り開くか13番街の港から船を出す」
「はっ。直ちに」
ファルコン少佐が扉に手をかけた、その時。
ノックもなく、扉が開いた。
ファルコン少佐と、入れ違いに入ってきた人影。
黒いローブ。
フードを深く被り、顔が見えない。
ファルコン少佐は、一瞬足を止めた。
「……失礼します」
そのまま部屋を出た。
ラプター大佐は、表情を変えなかった。
「神父。無事だったか」
「なんとか。しかし教会は破壊され神の声が聞こえなくなりました」
ラプター大佐は、神父の顔を覗きこんだ。
「神、か」
神父が聞き返す。
「何か?」
「ふん。人間はメカに支配され、悪魔、アンデッドが暴れ回る。この世界、本当に神などがいるのか怪しくなってきたな」
神父の目が鋭くなる。
「気をつけなされ大佐。神への信仰を忘れた人間の末路は破滅。神は正しいタイミングで、正しい行動をなさる。決して信仰を忘れてはならぬ」
司令室に沈黙が落ちる。
「……よかろう」
ラプター大佐は神父に背を向けた。
「教会の修繕に兵士を向かわせる。教会を拠点に南の森の調査を開始する」
神父は小さく息を吐いた。
「それは助かる。シスターの一人が混乱の中南の森へ消えた。あの子を連れ戻さねば」
「シスター?」
「孤児院上がりのシスター、セラがホームレスと南の森へ逃げ込んだと聞いた」
大佐は窓の外を見つめて呟いた。
「孤児院上がり、か……」
ラプター大佐は、静かに続けた。
「便所掃除のガキも、孤児院育ちだったな」
──一方、13番街の港。
シャクールは顎に手を当てて空を見上げた。
「まあ、確かにお前は街に溶け込めるし、街にも詳しい。ランナーは、適任かもな」
「ねえ、シャクール。ランナーって何するの?」
シャクールは振り返り、ウィーニーに視線を落とした。
「ハハ、スパイだ!」
「スパイ?」
「ああ。デビルズの信条はなんだ?」
「デビルズの信条……デビルズより悪いやつは許さねえ……?」
「そうだ! デビルズより悪いやつを見つける。それが仕事だ」
ウィーニーは頭を掻いた。
「デビルズより、悪いやつ……」
シャクールがポンと手を叩いた。
「それと、情報収集。情報は大事だ。デビルズにとって美味しい話、他勢力の動き、危険察知、街のありとあらゆる情報を集める。戦争になりゃ、諜報活動もランナーの役目だ」
(むしろそっちがメインじゃないのかよ……)
「ランナーは単独行動が基本だ。だけどお前はまだ新米。そして弱ぇ。だからオレの元でランナーをやれ」
「シャクールの元でランナー……それって──」
シャクールはニタリと笑った。
「ハハハ、パシリだ!」
「パシリ!?」
ウィーニーの顔を覗き込んだシャクール。
「なんだ、ウィーニー。不満だって言うのか?」
「いや……そういうわけじゃ……」
「いいか、ウィーニー。ランナーはデビルズの目と耳だ。ガラクタどもとの戦争、基地を見つけたランナーがいかに大事だったかわかるだろ? 情報の扱いをミスれば、デビルズが一気にピンチになっちまうこともある」
「確かに……」
「ふん。ランナーに昇格させたってことは、デビルズはお前を信用してるってことでもある」
ウィーニーは拳を握った。
「デビルズが、オレを信用……」
「要は──」
シャクールは、ウィーニーの肩に手を置いて顔を覗き込んだ。
「──見たもの、聞いたもの、知ってること。全部伝えろ。前みたいな勝手な判断は許さない。いいな」
「うん。わかった」
シャクールは背を向けた。
「じゃあ、いくぞ」
「え、どこへ?」
「言っただろ。悪いやつを探しに行くんだよ」
シャクールとウィーニーは、駆け出した。




