第42話 現場主義 〜冠いらねえ 現場で上げる俺の格 口より拳 現場で刻むビートと覚悟〜
森の奥へ。
また奥へ。
ガサッ。ガサッ。
「ねえ、ワイザー。どこまで行くの?」
ワイザーは振り返らない。
「ねえったら!」
セラは足を止めた。
「ほほ、もうすぐじゃ」
ワイザーは杖で、さらに森の奥を指した。
(こんな森の奥に……何があるっていうの?)
セラは、仕方なくワイザーに続いた。
しばらく進んだ先、ワイザーが背丈ほどの草を掻き分けた。
セラは目を丸くした。
「こんな森の中に……」
深い森の中。
不自然に開けた空間に、粗末なテントが並んでいる。
その足元には、メカの一部も使われていた。
焚き火の煙が、細く空に上がっている。
「人が……いる」
武器を手入れする者。
地図を広げて話し合う者。
帝国軍ではなさそうだ。
テントの奥に聳える崖には、小さな旗が掲げられていた。
「ワイザー……ここは……?」
「ほほ。帝国軍に言わせれば、"反乱軍"のキャンプ、じゃな」
その時、焚き火の横にいた大男が立ち上がった。
傷だらけの腕。
白髪交じりの無精髭。
くたびれた厚手のコート。
でも──目だけが、異様に鋭かった。
「ワイザー。オレ達は、"解放軍"だ」
「ほほ。そうじゃったの。調和と自由を奪還する」
大男は、セラを見下ろした。
「シスター。子どもか」
「ほほ。セラじゃ」
セラは、慌てて頭を下げた。
「セラです! よろしくお願いします!」
大男は、何も言わず背を向けた。
「ほほ。数日邪魔してもよいかの?」
「自由だ。調和を乱さない限り」
大男はそれだけ言うと、再び焚き火の前に腰掛けた。
「ワイザー、あの人は……?」
「ファントムじゃったかな。昔は名のある帝国軍人だったそうじゃがの」
「そうなんだ。なんだか寂しそうな背中……」
セラは、ファントムと呼ばれた男の背中を見つめていた。
一方、13番街。
クラブ666では──
トップ6全員が、一斉に立ち上がった。
デヴィンの低い声が響く。
「満場一致だ。ロベルト"ワンホーン"。チャンピオンクラスに昇格だ」
ロベルトは椅子に座ったまま、デヴィンの顔を見上げた。
オスカーが、ロベルトを見下ろしながら言った。
「チャンピオンクラス。トップ6への挑戦が許される。フッ、お前に寝首をかかれないようにしなきゃな」
ロベルトは、何も言わず下を向いた。
マイクが、声をかける。
「ロベルト。どうした?」
ロベルトは、頭を掻きながら顔を顰めた。
「いやぁ、そりゃ光栄なんだが……オレは辞退させてもらうぜぇ」
沈黙が落ちる。
トップ6達が顔を見合わせる。
オスカーが、慌てて口を開いた。
「何言ってんだ、ロベルト!?」
ジェシーが笑った。
「ハハハハ! 辞退!? そいつぁ、デビルズの格にも関わる発言だぁ、なぁ!」
マイクは、表情を変えずロベルトの顔を見て言った。
「辞退の理由は?」
デヴィンも表情を変えず、ロベルトの顔を覗き込んだ。
ロベルトは、バツが悪そうに頭を掻きながら立ち上がった。
「半端もんだったオレをここまで面倒見てくれて、デヴィンにはどんだけ感謝しても仕切れねえ」
オスカーが返す。
「だからなんだ? お前は、オレを超えるんじゃねえのか? 腑抜けた野郎はデビルズにはいらねえ」
マイクがオスカーを制した。
「オスカー。まず聞こう」
ロベルトは笑った。
「はは、オスカー、勘違いすんじゃねえ。オレは腑抜けてねえ」
「だったらなんだ?」
「オレはただ──現場にいてえんだよぉ」
ロベルトは、卓に手をついた。
「これはディスリスペクトじゃねえ。オレは現場でフリークスどもと働きてえんだぁ。それがオレには一番似合ってる。オレの死に場所は、戦場と決めてる」
トップ6は、誰も喋らなかった。
ロベルトは、ジェシーをチラリと見て続けた。
「それに、オレをチャンピオンだと認めてくれてるなら、オレは他の奴らの壁になれる。オレを超えなきゃ、チャンピオンにはなれねえ。なあ、ジェシー。デビルズの格、オレが高められる。だろ?」
ジェシーは、ケタケタと笑いながら頷いた。
デヴィンは、しばらくロベルトの顔を見つめると口を開いた。
「十分だ。わかった」
ロベルトはニヤリと笑った。
「代わりと言っちゃあなんだが──」
デヴィンの眉がピクッと動いた。
「なんだ?」
「あのガキを……ランナーに格上げしてもらえねえか?」
今度はマイクの眉がピクリと動いた。
デヴィンの目がロベルトに刺さる。
「なんだと?」
再び、ホールに沈黙が落ちた。
その頃──クラブ666の外では。
シャクールが、はしゃいでいた。
「間違いねえ! これでロベルトは、チャンピオン昇格だ! シュガーの奴め、ざまぁみやがれ!」
「チャンピオンってことは──」
「そうだ! トップ6にも挑戦出来る! やべえだろ? ロベルトがトップ6になった日にゃ、オレァ、感動して泣いちまうぜ!」
「なるほど……」
その時、クラブ666から頭を掻きながらロベルトが出てきた。
シャクールとウィーニーが駆け寄った。
「ロベルト!」
「ん? あ、ああ。お前らか。なんだぁ?」
「なんだぁって、どうだった!? チャンピオン昇格は!?」
ロベルトは、めんどくさそうに空を見上げた。
「チャンピオン? ん、ああ……まだ早えってよ」
「そ、そんな……バカな……」
シャクールは項垂れた。
「ロベルトでも無理って……これ以上どうすりゃ……」
ロベルトは、シャクールの肩をポンと叩いた。
「シャクール。デビルズ舐めんじゃねえよぉ。オレなんか、まだまだってこったぁ」
「そうか……そんだけデビルズがすげえってことだもんな……」
「そういうこったぁ」
そう言うと、ロベルトは二人に背を向けて歩き出した。
歩き去っていくロベルトの背中を見つめながら、ウィーニーが小さく呟く。
「それだけ、デビルズがすげえってこと……」
その時、ロベルトの足が止まった。
ロベルトは振り向くことなく、指を立てて言った。
「そうだぁ、思い出したぁ」
「?」
「ガキィ、お前は今日からランナーに昇格だそうだぁ」
シャクールとウィーニーは顔を見合わせた。
「ウィーニー……お前が、ランナー……?」
ロベルトは、僅かに振り向いて言った。
「気張れやぁ、ガキィ」




