第36話 分岐点 〜変わった盤面 可能性の反面〜
ヘルエナの爪が、地面を裂いた。
土煙を蹴散らして駆け出す。
シャクールの後ろでウィーニーが呟く。
「始まった……けど、何すればいいんだ……」
シャクールはわずかに振り返った。
「作戦を知ってるのは、オスカーとロベルトだけだ。ついていけば分かるさ。でもこの場合……」
「この場合、何?」
「オレ達はただ暴れりゃいい。作戦のキモはオレ達じゃねえ」
(暴れりゃいいって言われても……)
シャクールは前を走るヘルエナを見た。
「なるほど、わざわざ街を迂回してメカの監視を交わしてる。奇襲作戦ってわけか」
(奇襲……)
街を見下ろしながら丘を走るフリークス。
五番街に煙が見えた。
「あ、あれは……」
ワイザーの寝床だった半壊したビルが見える。
「ワイザー、大丈夫かな?」
その時、シャクールが遠くを見ながら言った。
「おほ! 壱番街も燃えてやがる。メカどもは帝国軍を一気に壊滅させる気だなぁ」
「シャクールの目には、そんな遠くまで見えるの?」
「ああ。悪魔だからよ。おっと、ありゃ六番街か? おほほ〜、教会も真っ赤に燃えてらぁ! まるでお祭り騒ぎだな」
「え!? 教会!? 本当か!?」
「ああ、燃えてるぜぇ。なるほど、コイツはアジトを叩く大チャンスだ!」
ウィーニーが叫んだ。
「ダメだ! セラ! セラが危険だ! 助けなきゃ!」
「あん? 何言ってんだ? それどころじゃねえぞ、オレ達は」
「オレは教会に、セラに助けられたんだ! 今度は、オレが助けなきゃ! シャクール!」
シャクールは呆れたように天を仰いだ。
「お前、バカか! お前はデビルズだろ! くだらねえこと言ってないで、集中しろや!」
ウィーニーは、唇を噛んだ。
「シャクール、この戦いのキモはオレ達じゃないって言ったよね?」
「ああ、オレ達は暴れりゃいい。多分な」
(オレみたいなやつが暴れて何になるんだ……それより)
「だからってオレ達だけ寄り道なんて出来るわけねえだろ。助けたいなら、無事成功した後にオスカーに掛け合ってみるんだな」
「……」
「いきなり寝言ほざくなよ」
地面が砂地に変わる。
それと同時に、ヘルエナ達は歩みを止めた。
「あそこだ」
フリークス達は、眼下に西の遺跡を見下ろした。
ロベルトが、オスカーに並んだ。
「オスカー。あれが鉄塔か?」
「ああ。ドレッドウォーカー二体。犬が数匹。やはり本隊は地下だな」
「ガラクタどもは戦線を広げてる。そこまで数はいないんじゃねえのぉ?」
オスカーは首を振った。
「こんなもんじゃねえよ、奴らの戦力は」
「そうか」
オスカーは横目でロベルトを見るとニヤリと笑った。
「ヘルエナ3匹で、一気に鉄塔を倒す。奴らが湧き出たら──」
ロベルトは遮った。
「何度も言わなくても、わかってるよぉ。中に入ってコアをぶっ飛ばす、だろ」
「ワンチャンスだ」
ロベルトは、めんどくさそうに頷いた。
「わかってるってぇ」
「ならいい。行くぞ」
ロベルトは頷いて、一瞬後ろを振り返った。
オスカーがゆっくりと手を上げる。
静寂が落ちる。
フリークスの視線がその手に注がれた。
──その時。
「待て! オスカー」
「あん?」
「ガキが……いない」
オスカーが振り返る。
シャクールと目が合った。
「おい……あのガキは──どこ行った?」
「え?」
シャクールは慌てて後ろを振り返る。
「い、いない!? あの馬鹿野郎っ!!」
──同じ頃、六番街。
ウィーニーは一人走っていた。
細い路地だけを縫うように街を横断する。
「はあ、はあ、セラ!」
真っ直ぐに立ち昇る黒い煙。
「あそこだ!」
教会の屋根が見えた。
(もう少し……!)
その瞬間──
ドゴォォン!!
ドレッドウォーカーの砲撃が、教会の最上部を吹き飛ばした。
「セラー!!」
一方、西の遺跡群──
ロベルトの目が鋭くなる。
「シャクール! あのガキはどこだ!?」
シャクールは、六番街の方を見て言った。
「おそらく、六番街……教会を助けたいとか、なんとかって……すまねえ。まさかヘルエナから飛び降りるとは……」
オスカーは、静かに頭を抱えた。
「……分岐」
ロベルトは、オスカーに向き直った。
「オスカー、どうする?」
重い沈黙が続いた。
その時、フリークスの誰かが小さな声で言った。
「まあ、あんなガキいてもいなくても変わらねえだろ」
「……」
オスカーは、それを聞いてゆっくりと顔を上げた。
「なるほど」
ロベルトが呟く。
「計算が狂った、か?」
オスカーは、目を閉じて言った。
「いや。"可能性"だ」
ロベルトは、首を傾げた。
「あん?」
オスカーはヘルエナを翻した。
「六番街に向かう!」




