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第34話 韻とフロウ 〜感情で隠す だから乱れるフロウ〜

 ランニングを終えた二人が、港の堤防に腰を下ろした。

 波の音だけが響いていた。


 シャクールは、息を整えながら言った。


「じゃあ、やってみろ。まずは"自己紹介"だ」


「自己紹介?」


「ラップで自分を名乗れ。それが全ての基本だ」


 ウィーニーは、立ち上がった。

 シャクールはニヤリと笑った。


「よし、便所掃除。お前は誰だ? 返してみろ」


トン。トン。


 指が膝を叩く。


「オレはウィーニー、路地裏の──」


「止まれ」


 シャクールが遮った。


「また繰り返そうとしてる。それは韻じゃねえって言ったろ」


「……う、うん」


「もう一回。今度は名前を最後に置け。お前の名前の意味はなんだ?」


 ウィーニーは、下を向いた。


トン。トン。トン。


「……ちっぽけ 弱虫 それが名前の意味」


「続けろ」


「笑えよ 無視……」


「韻は?」


「意味……無視……」


 シャクールは、小さく頷いた。


「とりあえず、続けろ」


トン。トン。


「相手にされたこともねえ でもそれが武器」


 シャクールの眉がピクリと動いた。


「……続けろ」


「何者でもねえ それがオレの位置」


「韻は?」


「武器……位置……」


「ああ、続けろ」


トン。トン。トン。


「でも消えねえ それがオレの意志」


 シャクールは、立ち上がった。


「武器、位置、意志。踏めてる」


「最後は──」


 ウィーニーは、一度だけ深呼吸した。


トン。


「路地裏のウィーニー、いくぜ」


 沈黙。


 波の音だけが戻ってきた。

 シャクールは、しばらく黙っていた。


「……OK。通してやってみろよ」


トン。トン。トン。


「ガキ、お前は誰だ?」


トン。トン。トン。


────────────────────

オレはウィーニー ちっぽけ 弱虫

それが名前の意味 笑えよ 無視

相手にされたこともねえ でもそれが武器

何者でもねえ それがオレの位置

でも消えねえ これがオレの意志

路地裏のウィーニー いくぜ

────────────────────


 再び沈黙。


 シャクールは頷いた。


「悪くねえ。悪くねえぞ、ウィーニー」


「え、本当?」


「ああ、お前の言葉だ」


 ウィーニーは、自分の手を見た。


「オレの……言葉」


 シャクールは、背を向けた。


「でも」


「でも?」


「フロウがまだダサい」


「えええ!?」


「韻は踏めた。でもビートに乗りきれてねえ。感情が先に出てる」


 ウィーニーは、がっくりと肩を落とした。


「……じゃあ、どうすれば」


 シャクールは振り返らずに言った。


「自信だ!」


「自信?……どう聞いても自信持つようなリリックじゃあないけど……」


「わかってねえなぁ。お前リリックの中で、ちっぽけ、弱虫な自分、"それが武器"だって言ってるじゃねえか」


「うん」


「なのに武器だと思ってねえ。それを感情で隠してる」


「……」


「結局、自信がねえんだ。それが武器だといいながら、それを自分で信じてねえ。いいか。それは本当にお前の武器なんだ。弱虫、ちっぽけ、何者でもねえ、全部だ。過去も含めて、それがお前を形作って今ここに立たせてる」


「過去がオレを立たせてる……」


 シャクールは振り返った。


「そうだ。お前の過去、出目、全部武器なんだ。でもまだ信じきれてねえ。感情で押し切ろうとするからフロウが乱れる」


「……」


「もう一回だ。やってみろ」


「……わかった」


トン。トン。トン。


────────────────────

オレはウィーニー ちっぽけ 弱虫

それが名前の意味 笑えよ 無視

相手にされたこともねえよ でもそれが武器

何者でもねえ それがオレの位置

でも消えねえ これがオレの意志

路地裏のウィーニー いくぜ

────────────────────


「どう?……」


 シャクールは笑った。


「……前よりはマシだ」


トン。トン。


「今度はオレが返してやる。聞いとけ、ウィーニー」


────────────────────

YO

シャクール 万年ヒッター 上等

No problem それがオレ

オレのMissionはただ一つ フリークスをTop その頂点

My nameより フリークスのAim

My gloryより ロベルトのGame

自分を消して 押し上げる それがオレのClaim

シュガーに煽られた? Yeah 知ってる

万年ヒッター Laugh 笑えるうちに笑っとけ

オレが底からPush up その時

Who's laughing? 答えてみろ

フリークスがTop その景色が見たい

ロベルトがKing その瞬間にいたい

自分のことはいい That's all それだけでいい

底から火をつける それがオレのStyle

覚えとけ

忘れるな

刻んどけ

シャクール

──いくぜ

────────────────────


「……かっけえ」


「だろ?」


 ウィーニーは頷いた。


 その時、シャクールの耳がピクッと動いた。


 シャクールは五番街の方を振り返った。


「シャクール、どうしたの?」


「……始まる」


 五番街の雑居ビルの影。

 ファルコン少佐が、大通りを覗き顔を顰めた。


「くっ……」


「少佐?」


「メカども、路地への入り口全てにドレッドウォーカーを配備している」


「万全、というわけですか」


 ファルコン少佐は、もう一度大通りを覗きながら言った。


「路地への入り口は12……突き当たりのT字路まで大通りを駆け抜ける。シグナルブレイカーを転がして、マザーコアへの増援要請を遮断しながら突っ切る」


「は」


「アークキャノンは温存するんだ。パルスライフルで小物だけを片付けながら走る。突き当たりでドレッドウォーカーどもを引きつけたら一気に叩け」


「は」


「五番街を取り返す。いくぞ!」


 ファルコン少佐とヴァンガード達は、一斉に踏み出した。


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