第30話 デヴィンの意図 〜フリークスだけじゃ荷が重え ダイスで決める戦争の行方〜
クラブ666。
マイクは、目を閉じて王の椅子に座るデヴィンを見た。
「デヴィン。メカどもは、西の遺跡群に基地局を構えているそうだ」
「そうか」
テレンスが口を開く。
「総力戦か」
デヴィンは首を振った。
「行くのはフリークスだけだ。ロベルトには先に伝えておけ」
マイクの眉がピクリと動いた。
今度は、フロイドが口を開く。
「指揮官は?」
「ダイスで決める」
フロイドが、顔を顰めた。
「デヴィン、まさか運任せか?」
デヴィンは答えず笑っただけだった。
ジェシーが笑う。
「ハハ、デヴィン! オレに行かせてくれよ! ぐちゃぐちゃにしてやるぜ、ガラクタどもをよお!」
マニーは、卓を指で叩きながら静かに言った。
「確かに。ブロークンリズムのクレイジージェシーは、ガラクタの思考じゃ読めねえからなぁ」
オスカーが、息を吐いた。
「それで、どう攻める? 作戦は?」
デヴィンは、ニヤリと笑って目を開けた。
「そうだなぁ。指揮官に任せる」
今度はオスカーが、顔を顰める。
「デヴィン、そいつぁ……」
テレンスが続けた。
「重いねぇ」
フロイドは、マイクの顔を覗き込みながら言った。
「ロベルトの負担が大きいぞ。Yo、マイク。なんか言わねえのか?」
テレンスが、続けた。
「それに、ガラクタどもの戦力もわからねえ。フリークスだけってのは、流石に──」
デヴィンは二人の声を無視して立ち上がった。
「クラブの前にデビルズ全員集めろ」
マイクを見下ろしたデヴィンは言った。
「"可能性"、なんだろ? マイキー」
マイクは、静かに言った。
「そうだ」
デヴィンは、ニヤリと笑って去って行った。
デヴィンが去った部屋に沈黙が落ちる。
テレンスが肩をすくめて手を広げた。
「マイク、なんでお前何も言わねえ? ガラクタどもの基地局に攻め込むんだぞ。フリークスだけじゃ荷が重いだろ」
フロイドが続けた。
「デヴィンは、流石にガラクタどもを舐めすぎじゃねえか?」
マニーが首を傾げて言った。
「戦争するんじゃねえのか? これじゃあ、フリークスの単なる特攻だな」
その横で、オスカーは押し黙り、ジェシーはケタケタと笑っていた。
マイクは、静かに立ち上がると卓に手を置いた。
「デヴィンにはデヴィンの意図があるはずだ」
テレンスはため息を吐いた。
「ふう。まあ、そうだろうけど総力戦じゃねえのには、拍子抜けだ」
ジェシーは、笑って卓を叩いた。
「ああああ! だからオレに指揮官やらせろやぁ! ハハハハ!」
マイクは拳を出した。
「少なくとも、均衡が壊れる。覚悟が必要だ」
フロイドが言った。
「可能性ってやつか?」
マイクは黙って頷いた。
5人の幹部達は立ち上がり、マイクの拳に自分の拳を当てた。
マイクが小さく息を吐いた。
「やるぞ。ブラザー」
昼が過ぎた。
──その頃。
港に、波の音だけが戻っていた。
ウィーニーの吐息とシャクールの声だけが響いていた。
「ウィーニー! よくなってきたぞ! ワンツー、ワンツーだ!」
「シュッ、シュッ!」
シャクールは、目を見開いた。
「お前、本当に飲み込み早いな。……とんでもねえ吸収力だ」
「そ、そう?」
「よっしゃ! 次はミットを持ってやるから、打ってみろ!」
「うん」
シャクールは、ミットを取り出しながら唸った。
(こいつ、体力も悪魔並だ……ウィーニー。お前はマジでなんなんだよ)
シャクールはミットを構えた。
「さっきのシャドーと同じだ。まずはジャブ」
「シュ!」
パスッ。
「ん? もっと強く打ってこいよ」
「わかった! シュッ!」
ポスッ。
「どう? シャクール?」
シャクールは、ミットを下げた。
「弱ぇ……超絶弱ぇ……」
「え?」
「やっぱりお前は、ただのガキなのか?」
「そんなぁ……おかしいなぁ」
シャクールは、ポンと手を叩いた。
「マイクもロベルトも、お前は光った時にとんでもねえ力を出すって言ってたなぁ。トロールにやられた時も光を放ってアンデッドを消し去っちまった。あれ──やってみろよ」
「そ、そんなこと出来ないよ! あれは無意識で……」
その時、シャクールの背後でフラリと影が動いた。
「オレも気になるなぁ。やってみろやぁ」
「ロベルト!?」
「ガキ、もう一回見せてみろやぁ。蜘蛛のガラクタぶっ壊したあのパンチを」
「いや、だから……やろうと思って出来るもんじゃ……。あれは無我夢中で、身を守ろうとして──」
「じゃあ、身を守ってみろ」
そういうと、ロベルトはウィーニーの目の前から消えた。
「え、消え──」
その瞬間──
ドスンッ!
脇腹に激痛。
「ぐはぁっ!」
「ボディフックだ。覚えろよ。んで──」
ガゴンッ!
うずくまるウィーニーの顎にロベルトのアッパーカットが突き刺さる。
「これがアッパー」
「がはっ!」
仰向けに倒れたウィーニー。
「うっ……うう……」
「ロベルト……ちょっとやり過ぎじゃ……」
慌てるシャクールをよそに、ロベルトはウィーニーに歩み寄る。
「ほら。身を守れ、ガキ」
ロベルトは、倒れたウィーニーの顔面を踏みつける。
ガコンッ!
「ぐ……」
ロベルトは止めない。
ガン! ガン! ガンッ!
シャクールが、ロベルトに手を伸ばした。
「ロベルト……ウィーニーが、死んじまう……」
ロベルトは表情を変えず、拳を振り上げた。
「死ねよ」
振り下ろされる拳。
その瞬間、ウィーニーの目が金色に光る。
そして──
ドンッ!
──ウィーニーが、消えた。
拳が地面に突き刺さる。
ロベルトは、ニヤリと笑った。
「それだ」
ロベルトの背後に立ったウィーニー。
わずかに金色に光る目。
いや、体全体が淡く光っていた。
拳を構えたロベルトの目が鋭くなる。
ロベルトの体から、わずかに赤い光が漏れる。
「いくぞ、ガキ」
シャクールの目が一瞬揺れる。
「マジかよ、ロベルト。ちょっと本気──」
ロベルトが踏み込む。
地面が割れる。
赤い閃光がウィーニーの顔面に向かって糸を引いた。
ブンッ!
「よ、避けた!」
ブンッ。
ウィーニーの頬をかすめる。
ブンッ。
肩口を風が切る。
ブンッ。
アッパーが顎の下を通り過ぎた。
「ウィーニーのやつ、避けてやがる……」
残像を残しウィーニーは、ロベルトの攻撃を躱す。
「さあ、打ってこいよ。ガキ」
ウィーニーは拳を握った。
光が拳に巻き付くように集まる。
「らあぁぁぁ!」
「フン!」
赤と金色の閃光がぶつかる。
音もなく、光が弾ける。
「くっ!」
ロベルトが初めて顔を顰めた。
ドン!!
遅れて音が届く。
拳を合わせたまま、立ち尽くす二人。
シャクールが唇を震わせた。
「ご、互角……!?」
ロベルトは、ニヤリと笑った。
「やるじゃねえか、ガキ」
そう言うとロベルトは背を向けた。
両手をついて倒れ込むウィーニー。
「はあ、はあ……」
ロベルトは、ウィーニーを見下ろした。
「その感覚だぁ、覚えとけぇ」
ウィーニーはロベルトを見上げた。
「ロベルト……」
「今回のガラクタどもとの戦争。フリークスだけでやれとよぉ。普通にやりゃ負けるぞぉ、この戦争──」
シャクールは目を見開いた。
「な!? そんな……」
ロベルトは、背を向けた。
「お前が戦えなきゃなぁ。鍛えとけよぉ、ガキィ」
そういうと、ロベルトはフラフラと去って行った。




