第29話 六番街の戦い 〜あなた達が招いたこと それで一体何を守ってるの〜
──港に戻ったウィーニーとシャクール。
「はあ、はあ……つ、次は?」
「おお、さすがお前もストリートで生きてきただけあって体力はありそうだな、ウィーニー」
シャクールは、休む間もなく拳を構えた。
「おっしゃ、まずは"ジャブ"だ!」
「ジャ、ブ?」
「ああ、前に出した手で、こう──シュッ! シュッ! シュッってな」
シャクールのジャブを、真似するウィーニー。
「こう?──シュ! シュ!」
シャクールは頭を抱えた。
「ダセぇ……お前、ダサすぎるぞウィーニー」
「へ?」
するとシャクールは、ステップを踏みながら、フットワークを見せた。
「ボクシングの基本は、このフットワーク。リズムだ! ラップと、同じだ! ステップを踏みながらリズムに乗るんだ!」
「ラップと同じ……リズム……」
トン! トン! トン!
「そうだ! リズムだ! ラップもボクシングも! はい、トントントン!」
「トントントン」
シャクールはニヤリと笑った。
「そうだ! 続けろ! トントントン!」
トントントン!
トントントン!
「いいぞ! 様になってきた! そこで、さっきのジャブを合わせる! シュッ! シュッ! シュッ!」
ウィーニーも真似してみる。
「シュ! シュ! シュ!」
「それだ! 打つべし、打つべし、打つべし! シュッ! シュッ! シュッ!」
「シュッ! シュッ! シュッ!」
「ハッハー、乗ってきたなウィーニー! それでいい! オレがラップかましてやる! 合わせてジャブを打て! 行くぜ!」
「合わせて……ジャブ……」
トン! トン! トン!
シュ! シュ! シュ!
「ほら、行くぜ!」
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Yo
トンでトリガー 鼓動と同期
シュで解放 ビートで返せ
トン……トントン……
(シュッ! シュッ!)
吸って吐いて ビートにバイト
ラップと一緒 パンチも韻章
踏めば踏むほど伸びる臨場 体で印象
トン……トントン……
(シュッ! シュッ!)
目で追うな 音で読め ゾーンで踊れ 脳は止め
来る前に"もう"動け フローに乗れ そのまま行け
トン……トントン……
(シュッ! シュッ!)
デビルズの流儀 ディープにリンク
ビートでブロック リズムでシンク
拳はキー 鍵はタイミング
"今"に合わせろ それがウィニング
トン……トントン……
(シュッ! シュッ!)
いいぞウィーニー 今のは"正解"
言葉いらねえ 体が証明
踏んでるビートがそのまま防衛
避けてる時点でお前はもう上
トン……トントン……
(シュッ! シュッ!)
リズムで殴れ リズムで守れ
リズムで抜けろ リズムで潜れ
リズムで上がれ リズムで越えろ
それがお前の"武器"だ 覚えとけ
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シャクールが歯を見せて笑う。
「いいじゃねえか! 続けろウィーニー!」
ウィーニーは首を傾げた。
(本当にこれで強くなれるのか?)
「シュッ! シュッ!」
シャクールは、ウィーニーの拳を見つめながら小さく息を吐いた。
(あのトロールの一撃。今頃こいつは死んでなきゃおかしい……)
「シュッ!」
(アンデッドどもを、一瞬で消し去ったあの光、一体なんだったんだ……?)
「シュッ! シュッ!」
(便所掃除のガキが……デビルズ。ウィーニー……お前は一体、何者なんだ?)
ウィーニーは、手を止めた。
「ふう。シャクール? どうしたの?」
「ん? あ、ああ。続けろウィーニー」
同じ時刻。
六番街では、別の戦いが始まっていた。
「もう……こんなに」
セラは、敷地を覆う高いバリケードを見上げて息を吐いた。
帝国軍の兵士達の大声が飛ぶ。
「今日の配給は無しだ! ホームレスどもは、バリケードの外に出るんだ!」
ホームレスの一人が呟く。
「夜は教会に泊めてもらえるんだろうか……」
セラは、慌てて帝国兵士に駆け寄った。
「あの! 教会はホームレスの方々に寝床を提供しています! この方々は夜、どうしたら……」
「何言ってるんだ! 今は非常時だ! そんなものにかまっていられるわけないだろう! ほらっ、邪魔だ! 出ろ!」
セラは拳を握った。
「そんなものって、どういう意味ですか! この人達も、あなた達兵士と同じ人間です! 寝床を貸すぐらい、いいじゃないですか!」
「なんだと! シスター如きが偉そうに!」
「なんですって!」
その時。
「やめなさい、セラ!」
神父は、兵士に掴みかかろうとするセラの腕を掴んだ。
「神父! どうして!? こんなのおかしい!」
「兵士達の言うとおり、今は非常時じゃ。仕方ない。言うことを聞こう」
セラの瞳にジワリと涙が浮かぶ。
「あなた達、帝国軍の言うことを聞いたから、街はこの有様じゃない! どれだけの人が、あなた達の戦争に巻き込まれて犠牲になったと思ってんのよ!」
セラは、神父の手を振り解き、兵士の胸ぐらを掴んだ。
「答えなさいよ! 何が非常時よ! あなた達が招いたことじゃない! あなた達は、街から人を追い出し、今度は教会からも人を追い出す! それで一体、何を守ってるのよ!」
「離せ!」
兵士は、セラの腕を力づくで振り解いた。
「きゃっ」
セラは、地面に倒れた。
兵士を睨みつけるセラ。
その肩に、手が乗った。
セラが振り返る。
「ワイザー……」
ワイザーは、ニッコリ笑った。
「わしらホームレスのことなら心配無用じゃ。寝床は探すさ」
「でも……」
ワイザーは、セラの耳に誰にも聞こえない声で言った。
「それより気をつけなさい。この教会は危ない。街も」
「私はどうしたら……」
「もし行き場を失ったら──」
ワイザーは最後まで言わず、視線を南の森へ移した。
「森へ?」
ワイザーは、立ち上がると両手を広げホームレス達に呼びかけた。
「さあ、みんな行こう。地下街なら雨風を凌げるぞい」
ホームレス達は静かに去っていった。
六番街には、すでにドローンの影があった。
「ウィーニー……あなたは、どこにいるの?」
セラはまだ、その影に気づいていなかった。




