第26話 開戦のビート 〜不在の王と毒の女王〜
ドン! ドン! ドン!
クラブ666に、ベース音が響く。
ホールに集まったデビルズ達が、飲んで踊ってのどんちゃん騒ぎ。
DJブースに立つMCナンバー3、テレンスが叫んだ。
「ストリートデビルズ! 今日は、チャンピオンクラス昇格を狙うキャプテン達のラップバトルだぁ!!」
「おおおおぉぉぉ!」
「いいかぁ! チャンピオンに昇格するには、仕事の成果を上げるだけじゃ足りねえ! ラップで存在を示しやがれー!」
「うおおおおぉぉぉぉ!」
バーカウンターに、トップ6が座る。
「いくぜぇ! 今日のバトル、まずは──ドールズのキャプテン、シュガーだぁ!!」
「おおおぉぉぉ!」
「最近、活躍目覚ましいドールズだけど、刻めんのか、ビート! 聞かせてみろや、シュガー"スウィートヴェノム"!!」
シュガーは、キャンディを咥えながら円陣の中に歩み出た。
「うおおおおおぉぉぉ!! 姉御ー!!」
テレンスは続ける。
「対するは──最近仕事で、とんでもねえ成果を上げやがったフリークス、ロベルトォォ!」
「うおおおぉぉぉ!! キャプテーン!!」
シャクールとフリークスのメンバー達が、手を挙げて叫んだ。
「チャンピオン昇格に最も近いと言われる男だが、ラップでもシュガーを黙らせられるんか! ワンホーンデビル、ロベルトォォ! 見せたれやぁ!」
「うおおおおおぉぉぉ!!」
しかし、そこにロベルトの姿はなかった。
シャクールは辺りを見渡した。
「アレ? ロベルト……どこ行った?」
テレンスが怒鳴る。
「ロベルト、来ねえのかぁ!? 逃げたかぁ!?
それとも……出る価値もねえってかぁ!?」
その頃──
ウィーニーは、セラの言葉が頭の中をグルグルと駆け回り、寝付けないでいた。
──朝の配給が始まるよ!
──もうこぼしちゃダメだよ。
「……」
──いいえ。さっき出会ったばかりです。配給のスープをあげました。
「ダメだ……寝れない」
ウィーニーはベッドから起きると、フラフラと物資置き場に歩いて行った。
【支給物資:六番街教会行き】
昼間の物資の箱を眺めながら、呟いた。
「教会行き……やっぱり、これはセラの教会に届くはずだった食料……」
ウィーニーは拳を握った。
「オレ達がいなくても、きっとこの物資は届いてなかった……でも」
ウィーニーは、辺りをキョロキョロと見回した。
「届けてやれば、きっとセラもホームレス達も助かる……」
ウィーニーは、物資に手を置いた。
「オレが──」
その時、ウィーニーの腕を赤い手が掴んだ。
「ガキ。何してる」
「ロ、ロベルト!?」
「ガキ、何してる」
ウィーニーは下を向いた。
「あ……いや……」
ロベルトは静かに言った。
「そいつは命懸けでフリークスが奪ったもんだなぁ。返答によっちゃ、お前を殺さなきゃいけねえぇ。答えろ、ガキ」
一方、クラブ666。
シュガーが笑った。
「アハハハハ! おらへんなら仕方ないなぁ。今回は、アタシの勝ちやねぇ、テレンス?」
テレンスは肩をすくめ、両手を広げた。
「盛り下げてくれるじゃねえか、ロベルト。こりゃあ、随分減点──」
その時、円陣に一人の影が歩み出る。
シュガーの眉がピクリと動いた。
「シャクール」
「てめえは、オレ達の物資を掠め取って、ウィーニーまで危ねえ目に遭わせやがった。このままじゃ、フリークスは引き下がれねえからな!」
歓声が上がる。
「うおおおお! シャクール!!」
「ヒッターが、キャプテンに挑戦ってか! 熱いぜぇ!!」
シャクールは、テレンスを見上げた。
「テレンス! オレじゃだめか?」
テレンスは、トップ6達に視線をやった。
マイクが、静かに頷いた。
「よっしゃ! 主旨とは違うが、今夜はこのまま終われねえ! シャクール! 意地を見せてみろや!」
「うおおおぉぉ!!」
テレンスが叫ぶ。
「シュガー、お前が先攻だ! 見せてみろ! Spin Da Shit!」
シュガーはニタリと笑って、手を振りながらステップを踏んだ。
「いくでぇ」
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AHA! また来たん? 懲りへんなあ
前よりマシ? いや、まだまだやなあ
ヒッター止まりで夢見てキャプテン?
鏡見てから言いや そのツラで何年?
この前教えたん、まだわからんの?
フリークス?
ああ、出来損ないのゴミ捨て場
奇形と異形と便所掃除しかおらへんやん
寄せ集めの傷 舐め合って満足?
トラッシュ抱えて"絆"とか言うんやろ?
それ、ただの重りや 沈む船の錨
シャクールくん 健気で泣けるわ、ほんま
上見て吠えるだけ 届かんままのゴールな
ロベルトおらんと 何も出来へんやろ?
影の中でイキる それがあんたの才能
ウィーニー守る? ええ話やなあ
でもな 守られてんの、お前の方ちゃうんか?
あのガキの"異物"に縋って立ってる
自分の足で立てへん雑魚が何語ってる
待ってえな その前にちょっと言わせて──
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「そこの、トップ6」
シュガーがトップ6を指差した。
一瞬、クラブが凍りつく。
シュガーは、マイク達を睨んだ。
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冗談キツいんとちゃいますか?
フリークスのバカが堕ちるのは まあええねん
せやけど、ゴミ押し付けられたから負けたって言うで、こいつら
だったら納得いかへん はよあのゴミ捨ててーな
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「うほぉ、シュガー、言いやがった!」
「さすがや、シュガー! 代弁しやがった」
マイクは、シュガーを無表情で見つめた。
シュガーは、シャクールに向かって一歩ずつ近づいた。
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AHA! ごめん、ごめん 話逸れたわ
それでなんやったっけ 出来損ないのシャクールくん?
あ、そうやった、そうやった
AHA! 勝負? もう終わってるで結果
お前あんたがここ立った時点で"負け"や
キャプテン相手に意地? ええやん、見せてみ?
その"意地"ごと潰すのがアタシの趣味
ほな、教えたるわ現実の味
夢見た分だけ苦くなる それが罰ゲーム
シャクールくん その目 嫌いやないで
せやけどな──届かへん場所ってあるんやで
アハハハハ!
最初から最後まで──アタシのステージや
アハハハハ! ほな、どこまで来れるか見せてみぃ
舐めたラップ見せてみぃ そん時ぁ
そのまま──終わらしたるわ
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シュガーは、シャクールに顔を寄せて、静かに言った。
「勘違いしてると、殺すで」
一瞬の静寂。
そして──
「おおおぉぉぉ、ヴェノムがやべぇ!!」
「うおぉぉぉぉぉ!! シュガー!! 言い過ぎだぁ!!」
歓声の中、フリークスの誰かが言った。
「シュガー……殺しに来てるじゃん」
「格下にも、容赦ねえ……」
シャクールは拳を握った。




