第25話 3度目の光と罪 〜巨人の咆哮 奪った代償 消えない残像〜
ウィーニーは、後ずさった。
「でかい……。シャクール、あれは!?」
「トロールだ。アンデッドのトロールは初めて見たがな……」
アンデッド戦士達は、フリークス達を見つめたまま静止していた。
グルルルゥゥゥ……。
トロールも、唸り声を上げながらこちらを見て仁王立ちしている。
「シャクール。あいつら、襲ってこないのか?」
「フン。忘れたか? オレ達は悪魔だ。あいつらだって無駄な戦いはしたくねえはずだ……。それに──トロール。あいつらは、いいエサになる」
「エサ? 何の?」
シャクールは、めんどくさそうな顔をした。
「まあいい。襲ってこねえなら、ここで無理に戦う必要はねえ。トロールもいるし、被害を出したくねえ。行くぞ」
そう言うとシャクールは、静かに背を向けた。
ウィーニーが、シャクールに続こうと一歩踏み出した。
ガシャ!
後ろで足音。
ウィーニーが振り返る。
動かないアンデッド。
「ん? ……気のせいか?」
再び背を向け、もう一歩踏み出す。
ガシャ!!
「え?」
ウィーニーが振り返る。
「こいつら……もしかして……」
今度は視線を外さないように、一歩後退する。
ガシャ!
ウィーニーの一歩に合わせて、アンデッドが踏み出す。
「シャクール……」
シャクールが振り返る。
ウィーニーが小さく呟く。
「多分……オレ、狙われてる……」
「あん?」
ウィーニーが、もう一歩下がった。
その時──
ガチャ。
一斉にアンデッドの戦士達が剣を構え、身構えた。
シャクールは頭を抱えた。
「ウィーニー、お前なんでそんなに狙われるんだよぉ!?」
「オレが知りたいよ!!」
「グオォォォォ!!」
アンデッドトロールが、戦士達を踏み越えて突っ込んでくる。
シャクールは、舌打ちした。
「ちっ、やるしかねえ! ヒッターども、戻れ! トラッシュどもは、その物資を持って下がれ!」
ウィーニーは口を震わせる。
「オ、オレは……」
シャクールは、両手に炎を浮かべて構えた。
「馬鹿野郎! お前も戦うんだよ!」
「戦うって……ど、どうしたら!?」
(オレ、喧嘩なんかしたことないよ!)
「適当にぶん殴りゃいいんだよ! おぉぉらぁぁ!」
シャクールは、空に飛び上がると炎を地面に投げつけた。
燃え上がる火柱を前に、アンデッド戦士達の足が止まる。
「行くぞ、ヒッターども! ぶっ飛ばせ!」
シャクールとヒッター達は、炎の中に飛び込んだ。
「いや、そんなのオレ、出来ねぇよ……」
その瞬間、炎の向こうに大きな影が浮かび上がった。
「ト……トロール」
ズドン!
大きな足が、ウィーニーの目の前に落ちた。
「グオォォォォ!」
「ひぃ!」
トロールは、ウィーニーに手を伸ばす。
「うわぁ!」
転げるように、トロールの手をかわすウィーニー。
トロールは、転がったウィーニーを踏みつける。
「うおぉ!」
ズドン!
ギリギリで踏みつけをかわしたウィーニーが立ち上がる。
振り返った瞬間、目の前に大きな拳が迫った。
「早っ!?」
ズゴンッ!!
トロールの拳が、ウィーニーに直撃した。
「グフッ!!」
吹っ飛ばされたウィーニーは、瓦礫の山に激突した。
シャクールとヒッター達は、アンデッド戦士の剣を巧みにかわしながら、拳、頭、蹴りを叩き込んでいく。
ズガッ! ドガッ! ガツン!
バラバラと形を失って、次々に崩れていくアンデッド戦士。
「死に損ないが! デビルズを舐めんじゃねえ!」
その時、シャクールの背後で呻き声。
「うう……」
「ウィーニー!!」
トロールは、ウィーニーを見下ろし、その大きな拳を振り上げた。
「させるか!」
シャクールは、トロールに向かって火球を飛ばす。
ズバン!
シャクールの火球が、トロールの背中に当たる。
しかし、トロールは背中をポリポリと掻いた。
「クソ!」
トロールは構わず拳を振り下ろす。
「うわあああぁぁ!」
ウィーニーの叫び声。
「ウィーニー!!」
無情にも振り下ろされた拳。
ドン!
その瞬間──
トロールの拳の下から、金色の光が弾けた。
光はブラックゲートの周囲を激しく照らした。
「な、なんだ!?」
思わずシャクールは、腕で顔を覆った。
一瞬の沈黙。
やがて、光は消えた。
シャクールは、ゆっくりと目を開ける。
辺りには、ポカンと立ち尽くしたヒッター達。
アンデッド戦士、そしてトロールの姿はなかった。
跡形もなく──消えていた。
「な……何が起きたんだ?」
「う……」
「ウィーニー!」
倒れていたウィーニーに駆け寄ったシャクールは、目を見開いた。
「お前……今、完全に潰されたのに……無事か?」
「う……うん」
「なんだったんだ、今の光……。お前、一体、何したんだ」
ウィーニーは辺りを見渡しながら言った。
「わからない。いつも、こうなんだ……。ピンチになると、光が……」
「ロベルトもそう言ってたな。お前、一体、何者なんだ?」
「そんなこと言われても……」
ウィーニーは答えられず、視線を震える自分の手に落とした。
(オレだって……知りたいよ)
十三番街に戻ったフリークス達は、手に入れた小さな荷物を囲んでいた。
誰かが呟いた。
「ちぇ、今日はこんなちっぽけな荷物ひとつか」
「ああ、アンデッドと戦った割にな」
「まあ、毎回大物なんか取れねえよ」
シャクールは、戻ったランナー達からの報告を受けていた。
「ガラクタどものアジト、地下にはない」
「南はワイルドブラッドの野郎どもが巣食うジャングル」
シャクールは、頭を掻いた。
「そうか。東は今日オレ達が行ったブラックゲート。残るは、西の遺跡群か……」
ウィーニーは、自分の手を眺めながら呟いた。
「オレの体……どうなってんだ。オレは、一体……」
その時、荷物を覗き込むトラッシュ達の声が聞こえてきた。
「なんだよ、これ!?」
「げえ、完全にハズレじゃねえか!」
ウィーニーは振り返った。
荷物の中には、大量の野菜とカチカチのパン。
トラッシュの一人が、パンを地面に叩きつけた。
トラッシュ達が去った後、ウィーニーはそのパンをそっと拾い、砂を払い落とした。
「食料……」
ふと目にやった荷物の箱。
【支給物資:六番街教会行き】
「六番街……教会……」
セラの言葉が頭をよぎる。
──フフ、一杯じゃ足りないかと思って、隠して持ってきた。もうこぼしちゃダメだよ。
ウィーニーは、その場で動けなくなった。
「配給物資……オレが、奪った……」
ウィーニーは、パンをそっと箱の中に戻すと静かに蓋を閉めた。
その時──
「おい、ガキ」
振り返るウィーニー。
「ロベルト……」
ロベルトは、視線を合わせずに言った。
「どうした、ガキ」
「あ……いや。……なんでもないよ……」
ロベルトは、背を向けた。
「そうか」




