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第24話 ブラックゲート 〜鳴らねえビート 死の匂い 片輪の馬車が運ぶ終わりの合図〜

第24話


「よーし、忙しくなるぞー!」


 フリークスのエースヒッターになったシャクールは、部下に指示を飛ばしていた。


「ランナー! お前たちはロベルトに言われた通りガラクタどもの基地局を探すんだ! 必ずこの街のどこかにあるはずだ! それ以外は、オレと物資の調達だ!」


(デビルズが戦争……)


 ウィーニーはどこか遠い目で、港の向こうに広がる海を眺めていた。


(オレの……せいで?)


「おい、ウィーニー! 何ぼーっとしてやがる! 行くぞ!」


「あ、う、うん」


 シャクールに言われ、慌ててその背中を追った。


 その姿を、コンテナの上から見下ろす影。


 一本角。

 ロベルトは、一人呟いた。


「光る便所掃除ってか。面白えなぁ、あのガキ」


 その時。

 後ろから、ふわりと甘い香りが鼻を刺した。


 ロベルトは、振り返らずニヤリと笑った。


「シュガー。てめえのおかげで、デビルズは戦争だぁ」


 シュガーは、飴をペロリと舐めて笑った。


「アハ! アタシのせいだなんて人聞悪いわぁ。マイクがあんなガキを引き入れるからやん」


「フン。くだらねえイタズラしやがって」


「アハ! 次にチャンピオンに昇格するんはアタシ。アンタやない」


 ロベルトは鼻で笑った。


「ふっ、そうかい」


 シュガーの眉がピクリと動く。


「何がおかしいん? そして、アタシは女悪魔としてトップ6に初めて入る。アンタは大人しく、あの醜いガキと出来損ないのシャクールの面倒でもみてたらいいやん。ほな、一本角さん」


 そう言うとシュガーは、コンテナから飛び降り走り去っていった。


 ロベルトは、ゆっくりと空を見上げた。


「ばーかが。デビルズ、いや世界はそんなこと言ってられなくなるぜぇ」


 街に向かって歩くシャクールは、ウィーニーを振り返った。


「なあ、ウィーニー。お前、他に知らねえか?」


「何を?」


「人間どもの物資の場所だよ」


「わからないよ……でも──」


「でも?」


「帝国軍の物資は、10番街のセントラ東部接続トンネルから来る」


「おお、東の島と繋がるあのトンネルか!」


「うん。うまくいけば、中継地点に物資が散らばる前に根こそぎいける……とか」


 シャクールは、手を叩いて笑った。


「流石だ、ウィーニー! お前、本当に使えるやつだな! よし、お前ら、10番街のトンネルに向かうぞ!」


「いや、でもあそこは……」


(帝国軍が厳重に……)


 その時にはもう、フリークスの悪魔達は駆け出していた。


 セントラ東部接続トンネル。

 通称、ブラックゲート。


 そのトンネルの先を知るセントラの市民はもういない。


 壱番街に引けを取らないほどの帝国軍による厳重な警備体制が敷かれている──


 はずだった。


「あれ?」


 物陰で首を傾げるウィーニー。


「なんだ、ウィーニー?」


「警備が……全くいない」


 シャクールが顔を顰めた。


「おいおい、こんなところから本当に物資が来るんか?……それに、なんか匂うなぁ」


 静まり返ったブラックゲートの入り口。


「ウィーニー、ちょっと見てこいよ」


「え?」


「大丈夫だ、オレ達がちゃんとここから見てる」


 そう言うと、シャクールはウィーニーの肩を叩いた。


「う、うん」


 ゆっくりと身を屈めてブラックゲートに近づくウィーニー。


 人の気配はない。

 なのに──なぜか胸がざわつく。


 ブラックゲートの正面に立つ。


 トンネルの先。

 黄金の国がある。

 天国に最も近い世界が広がる。

 いろんな噂を聞いた。


 だが──


 漆黒。


 ウィーニーの前には、全てを吸い込むような闇が、大きな口を開けていた。


「ブラックゲート……この先には一体何があるんだろう……」


 自然と足が動いた。


 物陰でウィーニーを見つめるシャクールが、息を飲んだ。


「何してんだ、ウィーニーのやつ……」


 その時。


カツ。カツ。カツッ。


(誰か来る!)


 トンネルの奥で足音が聞こえた。


カタッ。

ガラガラガラ……ゴトッ。


 ウィーニーは瓦礫の脇に身を隠した。


(なんだ?……)


 トンネルの縁に差し込む光に、その輪郭が浮かび上がる。


(馬?……馬車か)


カツ……カツ……


(……一頭だけ?)


 本来なら、並んでいるはずの位置に──もう一頭はいない。


 ウィーニーの目の前で、馬は止まった。


(肩に血のり……襲われたのか?)


 ウィーニーはゆっくりと荷台に手をかけ、覗き込んだ。


 その時。


ガシッ!


 荷台から伸びた手がウィーニーの腕を掴んだ。


「ひっ!」


 血が滲んだ帝国軍の軍服。

 兵士は、ウィーニーを見上げると、震える口を開いた。


「……アン……ット……来……る」


 そう言うと、兵士は息絶えた。


(アン、ト?……蟻?)


 シャクールを振り返ったウィーニー。

 手を広げ、肩をすくめるシャクールに、ウィーニーは頷きで返した。


 フリークス達は馬車を囲んだ。


「何かに襲われたのか?」


「多分……アント、そう言ってた」


「アント? なんだそれ」


 ウィーニーは首を振った。


「わからない……」


 シャクールは、荷台に乗った物資に目をやった。


「ちっぽけな荷物だが……まあ、無いよりマシか。お前達、運ぶぞ!」


「なあ、シャクール。なんか嫌な予感が──」


 シャクールは、鼻をピクッと動かし、ウィーニーを遮った。


「匂うなぁ」


「え」


「ウィーニー、お前さっきなんて言った?」


「嫌な予感がするって……」


「いや、その前。この兵士」


「アントって……」


 シャクールが、ブラックゲートを睨んだ。


ドッ……ドッ……


 わずかに地響き。


ドッドッドッ


 徐々に、大きくなる。


 腐臭。


 ウィーニーもブラックゲートを振り返った。


「この感じ……前にも……」


 シャクールが手のひらに炎を浮かべる。


 その瞬間、ブラックゲートから無数の影が蠢いた。


ドッ……ドッ……


 地面が鳴る。


 ブラックゲートの闇が揺れた。


カチャ……カチャ……


 最初に出てきたのは──甲冑。


 錆びついた鉄。

 朽ちた紋章。


 中身は──空だ。


「アントじゃねえ……こりゃあ──」


 骨だけの兵士が、軋みながら歩いている。


「アンデッドだ!!」


 一体、二体、三体──無数。


 シャクールが顔を顰める。


「こいつらも帝国兵だが、古臭え格好してやがる……」


 アンデッドは隊列を組んだまま、前に出る。


 まるで──大昔の軍隊。


ズドン!


 その奥から、一際大きな地響き。


 大きな手が、ブラックゲートの縁を掴んで、その巨体が這い出る。


 ウィーニーは、思わず一歩下がった。


「きょ、巨人!?」


 裂けた腹から、古い甲冑の腕が突き出ている。


 同時に──


 骸骨兵たちが、一斉に道を開けた。


 シャクールが口を歪めた。


「でけえのまで連れてやがる……」


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