第18話 シュガー 〜甘い爪痕 笑い混じりの音の跡〜
「アハハハハ! シャクール! 残念やったねえ! こいつは、アタシ達のモンや!」
「……女?」
女悪魔は、トレーラーから飛び降りた。
ニタリと笑い、シャクールの顔を覗き込む。
「ロベルトがおらんと、フリークスは、ただのフリークス、や」
シャクールが舌打ちした。
「ちっ。……シュガー」
シュガーと呼ばれた女悪魔は、ウィーニーを見下ろした。
「ロベルトも可哀想に。変なモン押し付けられてなあ。これじゃあせっかく近づいたチャンピオンへの道も遠ざかるわぁ。アハハハ!」
ウィーニーは、背の高いシュガーを見上げた。
「誰?」
シャクールが答えた。
「シュガー。"ドールズ"のキャプテンだ」
(キャプテン……ロベルトと同格……リーダーか)
シュガーの目つきが鋭くなる。
「醜いガキや。ますますロベルトが可哀想やん」
シュガーは、ウィーニーの頬に指を伸ばした。
爪が、皮膚をかすめる。
ピッ。
一筋の血が流れた。
シュガーは、ニタリと笑って紫色の唇を舌なめずりした。
「ま。このガキのおかげで──アタシが上に行けるやん、アハハハ!」
シャクールは、言い返すことなく背を向けた。
「行くぞ」
背を向けた瞬間、シュガーの笑いがビートを刻み始めた。
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AHA! 逃げるんか? 可愛いなあ
ごめんごめん でも 間違ってないよん
ヒッターのあんた それでいい位置
シャクールくん いつ見ても健気やね
フリークスの名前 よう似合ってるわ実際
出来損ない同士 傷の舐め合い
健気でええわ そのトラッシュ抱えて敗退
ま、精々頑張りや ワンホーンによろしく
アハハハハ! またね!
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(韻が気持ちいい……なんか認めたくねえけど)
ウィーニーは、何も言わずシャクールの後に続いた。
シュガーは、爪についたウィーニーの血をペロリと舐めて笑った。
「アハ。さよなら」
陽が高くなる街。
フリークスは地下道に身を隠した。
シャクールが、地面を叩く。
「クソ! このままじゃ帰れねえ! お前ら、何かねえか!」
顔を見合わせる悪魔達。
「シュガーにやられたなら仕方ねえ。こっちはキャプテン不在だ」
「そうだな。それにこんな便所掃除のガキがいたらどうにもならねえ」
シャクールは唇を噛んだ。
その時、じっと黙っていたウィーニーが口を開いた。
「ねえ、シャクール。物資を奪えばいいんだよね? 場所はどこでもいいの?」
「あん?」
「交戦せず、誰にも見つからなければいいんだよね?」
「だったらなんだ?」
悪魔達の視線がウィーニーを刺す。
「おい、便所掃除のガキが何言ってやがる!」
「そうだ! てめえがいるせいで調子狂ってんだ!」
シャクールは、いきり立つ悪魔達を手で制した。
「待て。便所掃除。だったらなんだって聞いてんだ」
ウィーニーは、立ち上がった。
「五番街には、帝国軍の倉庫がある。警備のパターンも覚えてる」
「ほう」
「オレは見られても、悪魔の仕業だとは思わないかなって……」
地下道に沈黙が落ちる。
ウィーニーが呟く。
「ダメ……か。いや、いけると思ったんだけどな」
シャクールは、ウィーニーの顔を覗き込んだ。
「……名案だ」
「え」
「お前が囮になって人間を引きつけろ。その間にオレ達が、物資をかっさらう」
その時、他のトラッシュ達が、声を上げた。
「シャクール! 人間の言うこと信用するつもりか!?」
「そうだ! そいつは悪魔じゃねえ! 罠かもしれねえぞ!」
「ああ! 五番街はまだ人間が多い! トラップだ!」
するとシャクールは、手のひらに炎を浮かべ、それを地面に投げつけた。
「黙れ!」
弾けた炎が、トラッシュ達にかかる。
「熱ぃっ! 何するんだ!」
シャクールは立ち上がった。
「ああ、こいつは悪魔じゃねえ。でもデビルズの決定だ! それは、認めるしかねえ」
見上げるウィーニー。
「……シャクール」
「マイクの責任。それをうちのキャプテンが引き受けたんだ。オレだって納得はしてねえ。でも、それが全てだ」
シャクールは、悪魔達を見渡した。
「文句あるやつは?」
地下道に再び沈黙。
「便所掃除。案内しろ」
「あ、うん」
シャクールは、ウィーニーの胸ぐらを掴んだ。
「裏切ったら、殺す」
ウィーニーは頷いた。
(そうだよな。……ここからだ)
ウィーニーの案内でフリークス達は、瓦礫の影に身を隠しながら、五番街へ向かった。
住み慣れた五番街。
足を踏み入れた瞬間、ウィーニーの足が止まった。
「なんだ、便所掃除。止まるな」
(様子が、おかしい)
路地裏を塞ぐ鉄条網。
半壊したビルの隙間から覗く足場。
何より、人の気配が、全くない。
「おかしいんだ。静か過ぎる」
その時、シャクールの耳がピクリと動いた。
「大通りに気配がある」
ウィーニー達は、路地裏から大通りを覗いた。
「あれは……」
風に揺れる帝国軍の旗。
大通りのど真ん中に、帝国軍が無理やり陣取っている。
鉄柵と土嚢が積み上げられ、即席の防壁が街を分断している。
四方には照明塔。
中央には黒ずんだ大型テント。
武装した兵士が、隙間なく巡回していた。
シャクールが舌打ちした。
「ちっ、こいつはさっきよりも難易度高えぞ……」
「帝国軍……何しようってんだ……」
背後の悪魔が呟く。
「やっぱりこのガキ、オレ達をハメやがった」
シャクールは振り返って、ウィーニーを見る。
ウィーニーは視線を横に外して、静かに言った。
「違う。こっちだ」
そう言うとウィーニーは、大通りに背を向けて走り出した。
「お、おい! 待て、便所掃除!」
悪魔達は、慌ててウィーニーに続いた。




