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第15話 クソだせえラップ 〜オレの声 届かねえ なら オレもここには用はねえ!!〜

カンッ! カンッ!


 フロアを転がるサイコロ。


カララッ……。


 止まった。


 赤い数字が浮かび上がる。


【4】


 デヴィンは、何も言わず視線を横に移す。


 一人の悪魔が、前に出た。


 長い牙。

 後ろに湾曲した角。


(さっきの、バイカーだ……)


パチン!


 デヴィンが指を鳴らした。


ドン! ドン! ドン!


 フロアが、重低音で揺れる。


 デヴィンが、ニヤリと笑った。


「フロイド。教えてやれ」


 MCナンバー4、フロイドと呼ばれた悪魔が、音に合わせて胸を叩く。


ドン! ドン! ドン!


(来る……!!)


────────────────────

YO オレはフロイド 無敗のトップ6

座って聞けガキ 授業料はタダだ

孤児院育ち 生まれた瞬間から捨て値

親もねえ 名前だけ残った負の遺産

ウィーニー 便所掃除 それがお前の全履歴

誰かに拾われるまで待ってた小物の詩


路地裏で殴られ 立ってただけで奇跡気取り

チンピラ相手に折れなかった それだけの話

マイクのラップ聞いて 胸が熱くなった夜

感動したのはわかった でもそれで何が変わった

ネズミとビート刻んだ ボロアパートの夜

観客はネズミ一匹 それがお前のステージ

猫に論破されて黙った 言い返せなかった夜

涙こらえて床叩いた それがお前の覚醒?

下水道で骨に追われ 裸足で逃げ回り

拾ったジャージ着て 鏡の前でポーズ

壱番街で蹴り倒され IDも仕事も失って

ホームレスに助けられ 納屋で震えてた夜

────────────────────


(な……なんで、知ってんだ……)


 ウィーニーの瞳が、大きく揺れた。


────────────────────

全部知ってる

全部見てた

それがデビルズだ


YO

教会のスープこぼして シスターに恵んでもらって

ワイザーって名前つけた老人に ブーツもらって歩いた

泣きながらラップした 拳が光った 覚醒した気でいる

でもな

それ全部 誰かに助けられた話だろ

マイクがいなきゃ チンピラにやられたまま

デビルズがいなきゃ 壱番街で捕まってた

ネズミがいなきゃ 下水道で詰んでた

ワイザーがいなきゃ 裸足で港まで来れたか

お前の"決意"とやらは

誰かの背中を借りて立ってるだけだ

────────────────────


(何もかも……知ってる……)


 足が、わずかに震えていた。


────────────────────

YO

「何者でもねえから最強」

その言葉 マイクの受け売りだろ

自分の言葉か? それとも借り物の刃か

他人のパンチラインで戦うつもりか

「ここから全部ひっくり返す」

何を? どうやって?

便所掃除の過去か ネズミとのセッションか

拾ったジャージか もらったブーツか

お前が"奪った"ものは何だ

お前が"刻んだ"ものは何だ

お前だけの言葉は どこにある


何も持ってない今 何も持てない明日

それがお前の未来だ

帰れ

便所の床が呼んでる

磨いてろ

それが お前だ

────────────────────


「……」


パン! パン! パンッ!


 デヴィンだけが、手を叩いた。


 再び、沈黙が落ちる。


 沈黙の中、デヴィンがニィっと笑った。


「音、とやら、聞かせてみろ。便所掃除」


 デヴィンが、初めてウィーニーに視線を落とした。


 リズムは鳴らない。


 ただ、沈黙が流れる。


「どうした、便所掃除」


「……っく!」


 ウィーニーは、震える足をなんとか一歩前に出した。


トン。トン。


 小さく響くウィーニーの足音。


トン! トン! トン!


────────────────────

Yo……

オレは……

────────────────────


(声が……)


 小さな声は、響かずフロアに落ちる。


────────────────────

Yo……Yo……

オレは……ウィーニー

路地裏の……ウィー……ニー

……ここから……始まる……

────────────────────


 ウィーニーは、口をつぐんだ。

 マイクは小さく息を吐くと、静かに目を閉じた。


 重い沈黙。


 デヴィンが、立ち上がった。


「終わりだな」


 ウィーニーに背を向け、マイクの横を通り過ぎる。


「マイキー。残念だぜ」


 そういうとデヴィンは、裏口の扉に手をかけた。


 その時──


ドン!


 マイクが、胸を叩いた。


 デヴィンの動きが止まる。


ドン! ドン!


 デヴィンは、ゆっくりと振り返った。


ドン! ドン!


 ウィーニーの目が赤くなる。


「マイク……」


(そうだ……ここで終われねえ……)


 拳を握った。


ドン! ドン!


 マイクのリズムに合わせてフロアを踏む。


(なんのためにここにきた……オレは……)


ドン! ドン!


(今日は、始まりなんかじゃねえ……)


ドン! ドン! ドン!


(今までのオレが──)


ドン! ドン! ドン!


(──終わる日だ!!)


 ウィーニーの目が一瞬光る。


(やってやる!)


────────────────────

Yo──

オレはウィーニー 路地裏のウィーニー

ありがとな フロイド 自己紹介が省けたぜ

────────────────────


 フロイドの眉がピクリと動いた。


「なんだと?」


────────────────────

ありがとうって言ったんだ

無敗のトップ6だっけ?

ああ オレはお前と違って勝ったことがねえ

未勝の便所掃除 でも 悪ぃ

それディスになってねえんだ

お前もうオレに敗北宣言 わかってる?

────────────────────


「あん?」


────────────────────

負けを知らねえ 悪魔 クソだせえ

何が地獄だ 笑わせんな 無敗のトップ


負け知らねえやつ 入れねえ領域

そこにいたオレに 示せリスペクト

────────────────────


 デヴィンが笑った。


「ほう」


────────────────────

過去と存在ディスって勝った気かクソやろう

オレには、最初から過去もねえ 存在もねえ

地獄なんか知らねえ じゃあ教えてみろよ

それすら放棄して 帰れ? それ敗北宣言だろ

便所掃除もしたことねえ

猫に負けたこともねえ

納屋で震えたことも

スープこぼして絶望したことも……

何もねえお前、お坊ちゃんか?

────────────────────


 ウィーニーは、フロイドに向かって一歩踏み出した。


────────────────────

Yo

オレはここにもらいにきてねえ

与えに来た このゴミみたいな経験

それが可能性 オレのじゃねえ

お前らデビルズの可能性 この話

────────────────────


 マイクがニヤリと笑った。


────────────────────

悪魔でもねえ 神でもねえ 人間でもねえ

オレがもたらす可能性

捨てるなら 捨てろ

それがお前らの限界


舐めんじゃねえ!

オレは路地裏のウィーニー

オレの声 届かねえ

なら オレもここには用はねえ!!

────────────────────


「……」


 フロアが、静まり返った。


 ウィーニーの頭がふわりと大きく揺れた。


 遠のく意識。


 咄嗟にマイクが、ウィーニーを支えた。


ガチャ。


 ドアを開けたデヴィンは、振り返らず言った。


「マイキー。そいつクソだせえぞ」


 ドアが閉まる。


 直前──


「その"可能性"は、お前の責任だ。マイキー」


 そう言い残し、部屋の奥へ消えていった。


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