第14話 The King of Devils Street 〜血で語れ 価値を測れ 外れりゃ終わりだ ここは王の場だ〜
ウィーニーは、バイクの背中を追った。
砂埃の中、目を開く。
黒い影が、コンテナの山の奥へ消える。
「待て……!」
今度は、焼け焦げた轍を辿った。
やがて──
その先にあったのは、山のように積まれたコンテナの一つ。
その前に、並ぶ無数の大型バイク。
まだ熱を持っている。
(さっきの連中の……)
「……ここ、か」
コンテナの扉の上。
《CLUB 666》
赤い文字が、じわりと滲むように光っている。
(クラブ……?)
ウィーニーは、扉に手をかける。
軋む音と共に、暗闇が口を開けた。
中は──地下へ続く階段。
空気が、下へ吸い込まれていく。
「……」
一瞬だけ、足が止まる。
だが──
ウィーニーは、そのまま踏み込んだ。
コツ。
コツ。
ワイザーにもらったブーツの足音が、やけに響く。
やがて──
巨大な鋼鉄の扉が姿を現す。
漆黒。
その中央に刻まれた、悪魔の顔。
大きく口を開けている。
「……かっけえ……」
押しても、引いても──びくともしない。
その瞬間──
ピピッ。
電子音とともに赤い光が、ウィーニーをなぞった。
足元から、頭のてっぺんまで。
だが、扉は開かない。
代わりに壁が、カチリと音を立てる。
小さな窓が、横にスライドした。
暗闇の奥。
赤い目が、こちらを見ていた。
「……誰だ」
ウィーニーは、名刺を見せながら言った。
「ウィーニー……マイクにもらった……」
一瞬の沈黙。
「……待て」
窓がピシャリと閉まる。
「……」
ウィーニーはその場で立ち尽くした。
数分後、再び窓が開く。
「入れ」
その声と同時に、鋼鉄の扉が──消えた。
その瞬間、中から噴き出た熱風がウィーニーの顔にぶつかる。
そして──
ドン!
重低音がウィーニーの内臓を殴った。
思わず仰け反るウィーニー。
「うぐっ……」
(本当に、クラブ……か)
目の前に大きな影が立つ。
「マ……マイク……?」
「ついてこい」
マイクはそれだけ言うと、ウィーニーに背を向けた。
腹を叩く重低音と怪しい赤いライトが走る暗闇の中、マイクの背中について歩く。
広さがわからないほど漆黒のホール。
無数の赤い目がウィーニーに注がれる。
マイクは、わずかに振り返って口を開いた。
「──に会う」
音に潰される。
「──か、生きるか──」
「聞こえない……」
マイクが、ピタリと立ち止まった。
右手を上げる。
音楽が止まり、沈黙が落ちる。
目の前に扉。
マイクが手をかけた。
「お前次第だ」
(オレ次第?な、何が……?)
ゆっくりと扉が開かれた。
その先に──
“王”がいた。
巨大な椅子に座っている。
赤い肌。
一際太い角。
赤い目。
そして──ゴールド。
首元。
腕。
指。
(……っデカい……)
その横に、5人の悪魔が並んでいる。
マイクは何も言わずにその列に並び、ウィーニーを見下ろした。
椅子に座る悪魔は、コーンロウを撫で、髭を摘んだ。
圧。
思わず後退りしそうな体に力を入れ、ウィーニーはなんとか立っていた。
マイクが口を開いた。
「キングデヴィン。オレ達の──ボスだ」
ウィーニーは、唾を飲み込んだ。
(ボス……。マイクじゃなかったのか……)
デヴィンが、その口をゆっくり開いた。
「汚ねえ血だ」
低い声。
腹に直接響く。
デヴィンの視線がマイクに落ちる。
「マイキー、マイキー、マイキー。てめえ一体、なんのつもりだ?」
ウィーニーは、拳を握った。
(ここは……オレがっ!)
「オレの名前は……ウィーニー。デビルズに入りたい」
一瞬の沈黙。
マイクの視線が、一瞬揺れた。
初めてだった。
ウィーニーを遮るかのように、被せてマイクが言った。
「このガキが、ストリートデビルズに入りたいと」
デヴィンは、マイクに顔を近づけた。
「マイキー。オレは、どういうつもりだと聞いている」
(オレのことは、無視……?)
デヴィンは、マイクの肩に手を乗せた。
「マイキー、ブラザー。珍しいじゃねえか、どうした?」
マイクは、デヴィンの目を見たまま動かなかった。
「マイキー。てめえは、一体何のつもりだと、このデヴィンが聞いてる」
(どういうことだ? デヴィンはマイクに……何を聞いてる?)
マイクは、デヴィンの目を見据えたまま答えた。
「このガキ、音を持ってる。こいつの音が、デビルズを動かした」
デヴィンの眉がピクっと動いた。
「あん?」
マイクは、デヴィンの目を真っ直ぐ見て言った。
「可能性。それだけだ」
デヴィンの口元が歪む。
デヴィンは、マイクに手を差し出した。
「ダイスをよこせ、マイキー」
マイクは、デヴィンにサイコロを渡した。
「マイキー。この便所掃除は後攻だ。チョークしたら、この話は無し。お前もトップ6にはもう立てねえ、覚悟して連れてきたんだろうな?」
(便所掃除!? なんで、知ってんだ……)
マイクは、静かに頷いた。
デヴィンが、サイコロを弾く。
キンッ!
暗闇の中、漆黒のダイスが──宙を舞った。




