第13話 13番街 〜意味わかんねえ 優しさも背中も でも進むしかねえ ここがオレの答え〜
ウィーニーは、マイクにもらった黒い名刺を見つめた。
「13番街……港のある区画か……」
ウィーニーは、名刺をポケットに突っ込むと、空を見上げた。
「そうだ、ワイザーにも報告して行こう!」
ウィーニーは大通りを避けて、路地裏を歩いた。
「路地裏のウィーニー、今日からデビルズ。ここから変えるオレの世界」
──デビルズを見せてやる。
マイクのたった一言で、目に映る世界が違って見える。
ワイザーの住処。
半壊したビル。
ウィーニーは、割れたショーウィンドウを跨いだ。
「ワイザー! いるか!」
ビルの中は静まり返っていた。
「おーい!」
返事はない。
ワイザーの寝床。
風を凌ぐトタン板も、毛布もなかった。
「ワイザー……どこかに引っ越したのかな? ん?」
柱の横に不自然に置かれた箱を見つけた。
──ウィーニー これで歩けるじゃろ ワイザー
箱にはそれだけ書かれていた。
「ワイザー……」
ウィーニーは、箱を開けた。
「靴!?」
カピカピによれた革のブーツ。
ほとんど削れたソール。
それでも、この街では貴重な靴。
「ワイザー……なんで」
(……なんでこんなオレに、よくしてくれんだろう……)
ウィーニーは、ブーツに足を入れた。
硬い。
でも、ちゃんと地面踏める。
トン。
足音が鳴った。
ブーツで踏み出した一歩。
ウィーニーは、振り返らなかった。
その頃──
壱番街。
帝国軍の司令室のドアが勢いよく開く。
「ラプター大佐! 報告! はあ、はあ……」
ラプター大佐は、椅子に腰掛けたまま、ジロリと睨む。
「なんだ」
兵士は、慌てて姿勢を正し、敬礼した。
「は! 五番街にて、ファルコン少佐の小隊……数人の悪魔の襲撃により……全滅!」
「何だと!?」
「ファルコン少佐は意識不明! 他の兵士は……全員……その場で……死亡が確認されました」
「クソッタレがっ!!」
バァン!
机を叩き、歯軋りするラプター大佐。
兵士は、恐る恐る続ける。
「便所掃除のガキを連行しようとしたところ、悪魔が現れたとのこと。街の監視カメラを確認した兵士からの報告です!」
「便所掃除のガキ……やはり、そいつが悪魔を……」
「しかし……突然光で映像が乱れ、戦闘の瞬間の記録が……消えています」
「何?」
「編集されているかのように……"4秒間"が存在していません」
「……」
「4秒後の回復した映像では、すでに全員……」
ラプター大佐は、立ちあがった。
「もうよい。そんな中途半端な情報、どのみち帝国議会には報告出来ん!」
「は!」
「とにかく、ガキを探せ!!」
「は! 失礼します!」
兵士が背を向けた、その時。
「待て」
兵士が止まる。
ラプター大佐が、机に置かれた報告書を見下ろした。
「これは故障でも、編集でもない……」
兵士が、振り返る。
「そのガキ……ただの人間じゃない」
ラプター大佐は、ベレー帽を脱ぐと静かに机に置いた。
「"ヴァンガード"を要請せよ」
「は!」
一方、ウィーニーは、水平線に沈む夕陽を横目に、港を一人歩いていた。
家ほどの大きなコンテナが、山のように積まれている。
港というより、巨大な廃棄場。
メカの残骸、銃弾の痕が無数に残る激しい戦闘の痕。
「ていうか……この名刺」
ウィーニーは、名刺に視線を落とす。
【13th / 666 Devils Street】
「666デビルズストリートって……そんな道本当にあるのか?」
ウィーニーは、首を傾げた。
「13th……これって……本当に13番街?」
空がトワイライトブルーに落ちる。
ウィーニーの顔が一瞬曇った。
その時──
遠くで、低い振動音が響いた。
ゴゴゴ……
ウィーニーが振り返る。
何かが来る。
「ん?……バイク?」
エンジン音が凄まじい勢いで近づく。
ゴゴゴゴゴゴ、ブオン! ブオン!
地面が震え、空気が裂ける。
1、2、3……
徐々に浮かび上がる十数台の漆黒のバイク。
ハンドルを握る──赤い顔。
「デビルズ!!」
先頭のバイクが、ウィーニーを追い越す。
轍に沿って炎が巻き上がる。
すれ違い様、視線がぶつかった。
ゴーグルの奥の目が赤く光る。
長い牙。
後ろに湾曲した角。
その悪魔の口元が、わずかに歪む。
笑っている。
そのままスロットルを捻る。
ブォンッ!!
爆音と共に、ウィーニーの体がビリビリと震えた。
一瞬。なのに、背筋が凍った。
砂埃と風がウィーニーの顔を襲う。
「……っう! ま、待って……!」
ウィーニーは目を擦りながら、バイクを追った。




