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路地裏のウィーニー  作者: みゃーじま
第六章 悪魔の代償
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第100話 簡単なことなんて何一つねえ 〜Godが降りても止まらねぇFight 弱ぇHumanが狂わせるBalance of Life〜

 コツッ。コツッ。コツッ。


 静まり返った深夜の壱番街。

 辛うじて形を残した石畳に足音が響いていた。


 コツ……。


 足音が止まる。


「ふぅ」


 神父は、星の見えない夜空を見上げると小さく息を吐いた。


「アンセムボーンエターナル……。光と共に降り立った主、ソルセリオン様。そして、バルドリオン様……」


 神父は、片膝をつき石畳の隙間から覗く雑草を撫でた。


 ──争いはなくならぬ。貴様らのような狡猾な神と愚かな人間がいる限り


 ソルセリオンに言い放ったシルヴァーナの声が響く。


「狡猾な神……愚かな人間……」


 神父は、立ち上がると南の森の方へ顔を向けた。


「この世界は……平和に向かっているのだろうか……」


 静寂。


「ふん。そう思えねえか?」


 背後の声に、神父は慌てて振り返った。


「バルドリオン様っ……! あ、いえ、私はただ……」


 バルドリオンは、歩み寄ると、鋭い眼光で神父を見下ろした。


「神官が、神を疑う、か」


「いっ、いえ! 決してそのようなことは……お許し──」


 神父に顔を寄せたバルドリオンの目が金色に光る。


「どこまでも勝手で、どこまでも弱く、堕落した種族だ」


「いっ、今のは、私めのくだらない弱音っ! 主を疑ってなど……お、お許しください!」


 神父は、石畳に震える手をつき、額を地面に当てた。


「欲望のまま好き勝手にこの世界を壊し、手に負えなくなったら、神になんとかしろ、と?」


「めっ、滅相もございませんっ! 私は……ただ……」


 神父は、突っ伏したまま体を震わせた。


「覚えておくがよい。アンセムボーンエターナルは、ソルセリオンのように生優しい神だけではないということを」


「はっ、ははあぁ!!」


 再び壱番街に静寂が落ちる。


 バルドリオンは、しばらく地に伏した神父を眺めていた。


 バルドリオンは、頭を掻くと白い歯を覗かせた。


「なーんてな。ハハ、そりゃあ、疑いたくもなるわなぁ」


 神父は、恐る恐る顔を上げた。


 あっけらかんと笑うバルドリオンを見て、目を丸くする。


「へ? バルドリオン様、今……なんと?」


 そして、バルドリオンの顔から笑顔が消えた。


「だがまあ……お前の疑問自体は正しい」


「……え?」


「エターナルが降りた。帝国も動いた。森にも手ぇ突っ込んだ」


 バルドリオンは壊れた壱番街を見渡した。


「で、これだ」


「バルドリオン様……」


 その時、バルドリオンの背後に白い影が立った。


 バルドリオンは、静かに目を閉じた。


「ソルセリオン」


「全軍、ブラックゲートへ向かう」


「いきなりどうした?」


「思わぬことが起きている」


 それだけ言うと、ソルセリオンは背を向け司令塔へ向かって歩き出した。


 バルドリオンは、その背を見つめながらニヤリと笑った。


「神が、思わぬこと、か。面白え」


「あの……バルドリオン様?」


 バルドリオンは、傍らに立て掛けていた純白の大槌を軽々と背に担いだ。


「神父よ。人間も……森の種族、魔族、死霊ども、どいつもこいつも必死だ。強靭で、複雑怪奇で、神すらも思わぬことが起きるこの世界──」


 バルドリオンは、ゆっくりと背を向け歩き出した。


「──簡単なことなんて、何一つねえんだよ」


「バルドリオン様……」


 神父は、立ち去るバルドリオンの背中に、深く頭を下げた。


 一方、13番街の港。


「オスカー! 大変だ!」


「フリークス。どうした、シャクール」


「西の遺跡、アンデッドの奴らが、屯ってやがった!」


「ほう」


 その横から、顔を覗かせたウィーニーが言った。


「あいつら、武装してます!」


 オスカーは、ため息をついてウィーニーを見下ろした。


「当たり前だ。アンデッドだからな」


 シャクールが割って入った。


「違うんだ、オスカー! あいつら、ガラクタどもの銃火器を使いこなしてやがる! ……というか……」


「というか?」


「ガラクタを……着てやがる!」


 オスカーの目が鋭くなった。


「着てる?」


「うまく言えねえが……合体してるというか……」


「合体、だと?」


 その時、背後で笑い声が聞こえた。


「ハハハ。命のねえモン同士がくっついたか!」


「エドウィン!」


 オスカーは、エドウィンを見下ろした。


「エドウィン、どういうことだ?」


 エドウィンは、建設中のバリケードを指さして言った。


「知らん。だが科学的には辻褄が合う。そして、間に合わん。ヘルオークがバカすぎて作業が進まん」


 ウィーニーは、首を傾げた。


「辻褄……合うのか?」


 エドウィンは、ウィーニーを振り返ると、睨みつけた。


「なんだ、ガキ! 文句あるのか!」


「あ、いや……すみません」


「オスカー。どうする?」


 オスカーは、ブラックゲートの方角に視線を移して言った。


「アンデッドは、ブラックゲートから湧いている。確認が必要だ」


「わかった! フリークスが偵察してくるぜ!」


「ああ。だが戦うな。西の遺跡にも大群がいるとなると、ブラックゲートには、どれだけ奴らが潜んでいるとも知れない」


「ああ、わかった。ウィーニー、行くぞ!」


「う、うん」


 エドウィンは、背を向けたウィーニーの肩を掴んだ。


「ガキ。余計なことするなよ」


「な、なんだよ。わかってるよ」


 エドウィンは、手を離すと、クルリと背を向け建設中のバリケードの方に足を向けた。


「意思がねえなら、あれだけの数を動かしてる何かがいる。意思があるなら……死体とガラクタが、互いを使う知恵を持ったってことだ」


「どっちがヤバいの?」


「どっちでも厄介だ、バカ」


 フリークスが去った後、ヘルオーク達を眺めながら、エドウィンは小さく呟いた。


「ガラクタども、骨ども……元はと言やぁ人間が生み出したモンだ。一番弱ぇ野郎が、この世界の均衡を壊すとは……非科学的だぜぇ」

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