第100話 簡単なことなんて何一つねえ 〜Godが降りても止まらねぇFight 弱ぇHumanが狂わせるBalance of Life〜
コツッ。コツッ。コツッ。
静まり返った深夜の壱番街。
辛うじて形を残した石畳に足音が響いていた。
コツ……。
足音が止まる。
「ふぅ」
神父は、星の見えない夜空を見上げると小さく息を吐いた。
「アンセムボーンエターナル……。光と共に降り立った主、ソルセリオン様。そして、バルドリオン様……」
神父は、片膝をつき石畳の隙間から覗く雑草を撫でた。
──争いはなくならぬ。貴様らのような狡猾な神と愚かな人間がいる限り
ソルセリオンに言い放ったシルヴァーナの声が響く。
「狡猾な神……愚かな人間……」
神父は、立ち上がると南の森の方へ顔を向けた。
「この世界は……平和に向かっているのだろうか……」
静寂。
「ふん。そう思えねえか?」
背後の声に、神父は慌てて振り返った。
「バルドリオン様っ……! あ、いえ、私はただ……」
バルドリオンは、歩み寄ると、鋭い眼光で神父を見下ろした。
「神官が、神を疑う、か」
「いっ、いえ! 決してそのようなことは……お許し──」
神父に顔を寄せたバルドリオンの目が金色に光る。
「どこまでも勝手で、どこまでも弱く、堕落した種族だ」
「いっ、今のは、私めのくだらない弱音っ! 主を疑ってなど……お、お許しください!」
神父は、石畳に震える手をつき、額を地面に当てた。
「欲望のまま好き勝手にこの世界を壊し、手に負えなくなったら、神になんとかしろ、と?」
「めっ、滅相もございませんっ! 私は……ただ……」
神父は、突っ伏したまま体を震わせた。
「覚えておくがよい。アンセムボーンエターナルは、ソルセリオンのように生優しい神だけではないということを」
「はっ、ははあぁ!!」
再び壱番街に静寂が落ちる。
バルドリオンは、しばらく地に伏した神父を眺めていた。
バルドリオンは、頭を掻くと白い歯を覗かせた。
「なーんてな。ハハ、そりゃあ、疑いたくもなるわなぁ」
神父は、恐る恐る顔を上げた。
あっけらかんと笑うバルドリオンを見て、目を丸くする。
「へ? バルドリオン様、今……なんと?」
そして、バルドリオンの顔から笑顔が消えた。
「だがまあ……お前の疑問自体は正しい」
「……え?」
「エターナルが降りた。帝国も動いた。森にも手ぇ突っ込んだ」
バルドリオンは壊れた壱番街を見渡した。
「で、これだ」
「バルドリオン様……」
その時、バルドリオンの背後に白い影が立った。
バルドリオンは、静かに目を閉じた。
「ソルセリオン」
「全軍、ブラックゲートへ向かう」
「いきなりどうした?」
「思わぬことが起きている」
それだけ言うと、ソルセリオンは背を向け司令塔へ向かって歩き出した。
バルドリオンは、その背を見つめながらニヤリと笑った。
「神が、思わぬこと、か。面白え」
「あの……バルドリオン様?」
バルドリオンは、傍らに立て掛けていた純白の大槌を軽々と背に担いだ。
「神父よ。人間も……森の種族、魔族、死霊ども、どいつもこいつも必死だ。強靭で、複雑怪奇で、神すらも思わぬことが起きるこの世界──」
バルドリオンは、ゆっくりと背を向け歩き出した。
「──簡単なことなんて、何一つねえんだよ」
「バルドリオン様……」
神父は、立ち去るバルドリオンの背中に、深く頭を下げた。
一方、13番街の港。
「オスカー! 大変だ!」
「フリークス。どうした、シャクール」
「西の遺跡、アンデッドの奴らが、屯ってやがった!」
「ほう」
その横から、顔を覗かせたウィーニーが言った。
「あいつら、武装してます!」
オスカーは、ため息をついてウィーニーを見下ろした。
「当たり前だ。アンデッドだからな」
シャクールが割って入った。
「違うんだ、オスカー! あいつら、ガラクタどもの銃火器を使いこなしてやがる! ……というか……」
「というか?」
「ガラクタを……着てやがる!」
オスカーの目が鋭くなった。
「着てる?」
「うまく言えねえが……合体してるというか……」
「合体、だと?」
その時、背後で笑い声が聞こえた。
「ハハハ。命のねえモン同士がくっついたか!」
「エドウィン!」
オスカーは、エドウィンを見下ろした。
「エドウィン、どういうことだ?」
エドウィンは、建設中のバリケードを指さして言った。
「知らん。だが科学的には辻褄が合う。そして、間に合わん。ヘルオークがバカすぎて作業が進まん」
ウィーニーは、首を傾げた。
「辻褄……合うのか?」
エドウィンは、ウィーニーを振り返ると、睨みつけた。
「なんだ、ガキ! 文句あるのか!」
「あ、いや……すみません」
「オスカー。どうする?」
オスカーは、ブラックゲートの方角に視線を移して言った。
「アンデッドは、ブラックゲートから湧いている。確認が必要だ」
「わかった! フリークスが偵察してくるぜ!」
「ああ。だが戦うな。西の遺跡にも大群がいるとなると、ブラックゲートには、どれだけ奴らが潜んでいるとも知れない」
「ああ、わかった。ウィーニー、行くぞ!」
「う、うん」
エドウィンは、背を向けたウィーニーの肩を掴んだ。
「ガキ。余計なことするなよ」
「な、なんだよ。わかってるよ」
エドウィンは、手を離すと、クルリと背を向け建設中のバリケードの方に足を向けた。
「意思がねえなら、あれだけの数を動かしてる何かがいる。意思があるなら……死体とガラクタが、互いを使う知恵を持ったってことだ」
「どっちがヤバいの?」
「どっちでも厄介だ、バカ」
フリークスが去った後、ヘルオーク達を眺めながら、エドウィンは小さく呟いた。
「ガラクタども、骨ども……元はと言やぁ人間が生み出したモンだ。一番弱ぇ野郎が、この世界の均衡を壊すとは……非科学的だぜぇ」




