第99話 逃走と覚悟 〜Run for the Crew, Blade for the Truth 違う場所から迎えるNew Route〜
ガチャッ!
ガチャッ!
ガチャッ!
穴から湧き出たアンデッドの大群は、一斉に銃を構えた。
メカの装甲で出来た銃。
赤い動力の球が、その銃身の中で光る。
「メカの武器!? なんでアンデッドなんかが、そんなもんを持ってやがる!」
「シャクール! 逃げよう! 無理だ!」
ウィーニーは、そう叫ぶとシャクールの腕を引いた。
キュイイイイイィィンッ!
一斉に動力球が回り、アンデッドが手にした銃が赤い光を放つ。
「退がれえぇぇ!」
フリークス達は、散り散りになって走った。
赤いビームと銃弾が、フリークスを襲う。
ドガガガガガッ!!
地面が爆ぜ、遺跡の残骸が吹き飛んだ。
砂埃の中、ウィーニーとシャクールはヨロヨロと立ち上がった。
「くっ! 一体、何が起きてやがる」
「シャクール、どうする? このままじゃ……」
「ああ。仕方ねえ! とりあえず、アジトに戻るぞ」
「ギギ……」
赤い目の群れは、追ってこなかった。
ただ、遺跡の入口に立ち、逃げる背中を見送っていた。
その不穏な気配は、遠く離れた森にも、微かに伝わっていた。
その頃、南の森では。
キィンッ! キィンッ!
静かな森の中に、金属音が響いていた。
ガキィンッ!
「あ」
セラの剣が、ファントムのアックスに弾かれ高々と宙を舞った。
「はぁ、はぁ……」
ファントムは、膝に手を置いて肩で息をするセラを見下ろした。
「セラ。戦場で手をつき、下を向いたら、その瞬間に終わりだぞ」
「はぁ、はぁ……はい……」
「剣を拾え。もう一回だ」
「はいっ!」
剣を教わるセラを見ながら、ワイザーは頭を掻いた。
「ほほ。逞しくなったのう。今じゃシスターだった頃の面影もないわい」
その時、ワイザーの背後で声がした。
「あの娘……こんなところにいたのか?」
丸々と太った猫は、ワイザーの横にドカッと座った。
「6番街ではシスター、壱番街では泥棒、森では……剣を振り回す気狂い。なんなんだ、あいつは?」
「あ! あなたは!」
セラは猫に気付いて、駆け寄った。
「あなたは、あの時の、猫! あの夜……私を逃してくれてありがとう!」
「フン! お前は一体こんなところで何してるんだ、泥棒」
「だから、泥棒じゃないって! あなたこそ、街の野良猫がなんでここにいるの?」
猫は、立ち上がると、髭をピンと立てて怒鳴った。
「なんだと!? 失礼なやつめ! この森は元々オレ様の──」
その時、森の奥の茂みが揺れた。
「シルヴァーナさん」
黒獅子に乗ったシルヴァーナは、音もなく地面に飛び降りた。
猫はそれを見ると、背中を丸め、そそくさと立ち去ろうとした。
黒獅子は、すれ違う猫を無言で見下ろした。
黒獅子の喉が、わずかに鳴った。
「……」
猫は、黒獅子を見上げ、鼻を鳴らした。
「フン。なんだよ」
猫はそのまま歩き去っていった。
セラは、その背中を見送りながら、小さく首を傾げた。
「今……黒獅子が、道を譲った?」
シルヴァーナは、肩に担いでいた大きな麻の袋を、ワイザーの前に放り投げた。
ワイザーは首を傾げた。
「これは?」
袋の中から、コロリと赤い球体が転がり出た。
「メカの動力眼、か。これをどこで?」
「森を彷徨くアンデッドどもを片っ端から狩った」
「アンデッドとな?」
ワイザーは、落ちていた棒を使って袋の中を覗いた。
「かなりの数じゃな」
「38個だ。38体、全てのアンデッドの体内にこの赤い球体があった」
「なんと!?」
「それだけじゃない。アンデッドどもは剣や弓を手にしてない。その代わり──」
そう言うとシルヴァーナは、背中に背負っていた細長いものを地面に投げ捨てた。
ワイザーは目を見開いた。
「これは……メカの砲身。改造銃か……」
「ワイザー。何が起きてる?」
ワイザーは、赤い球を手に取りジィッと覗き込んだ。
「メカの動力眼。これは、動力源だけでなく、マザーコアからの指令を受け取る受信装置、そして情報処理装置とも言われる。つまり、メカとはほぼ、この球のことじゃ」
「だから?」
「アンデッドがメカを取り込み、その力を得たのか、それともメカがアンデッドに入り込み、その体を得たのか。いずれにせよ──」
ワイザーは、赤い球を麻袋に戻した。
「また、厄介ごとが増えそうじゃのう」
ファントムは、その後ろで小さく息を吐いた。
「厄介ごと、以外のことを探すのは、無謀な世界だ」
森に沈黙が落ちた。
その時。
「シルヴァーナさん」
セラが、シルヴァーナの前に立った。
「それよりも──」
セラはゆっくりと、剣の切先をシルヴァーナに向けた。
「森の……自然の剣、教えてくれませんか?」
ファントムとワイザーは、目を見開いて顔を見合わせた。
「自然の剣、だと?」
「はい!」
シルヴァーナの目が一瞬鋭くなった。
「その前に──」
シルヴァーナの姿、消えた。
「え」
そして、セラの背後から声。
「──自然とは何かを教えてやろう」
シルヴァーナの蹴りが、背中に突き刺さる。
ドンッ!
「グフッ!」
顔から地面に落ちたセラ。
「うっ……」
顔を上げた瞬間、首に冷たい刃が当たる。
「もう死んだぞ、セラ」
「……はい……」
シルヴァーナは、曲刀を鞘に納めるとセラに手を伸ばした。
起き上がったセラの顎を掴むと、シルヴァーナは顔を寄せた。
「守りたいモノのために、死ねるか? セラ」
シルヴァーナは、背を向けた。
「戦い方の前に、その覚悟を決めろ」
そう言い残すと、シルヴァーナは森の奥へ消えていった。
13番街へ逃げ帰る、ウィーニー。
南の森で覚悟を問われる、セラ。
二人のハーフゴッドは、それぞれの戦いへ踏み出していた。




