第10話 ビートの前に、弾が来る 〜踏んだトラップ、それでも拾った悪魔のダイス〜
「喋るウサギ、あの光る目……アパートの猫も」
ウィーニーは、ウサギが去って行った方向を見つめていた。
セラが口を開いた。
「ウィーニー。あなたは一体、何に追われてるの?」
「帝国軍とメカ」
「なぜ?」
「わからない……オレ、何もしてねえ」
「そっか。どうするの、これから?」
ウィーニーは地下街への入り口を指差した。
「とりあえず街に戻るよ。ここも帝国軍の兵士が巡回する。ここにいても、オレは安全じゃない」
その時、セラの後ろから声。
「セラ。祈りの時間だ。戻りなさい」
「神父様。はい!」
長い髭を蓄えた神父は、ウィーニーを見下ろした。
「友達か?」
セラは首を振った。
「いいえ。さっき出会ったばかりです。配給のスープをあげました」
「……そうか」
それだけ言うと神父は背を向けた。
セラも続いた。
(セラ……嘘ついた)
セラは一瞬、ウィーニーを振り返り、舌を出した。
ウィーニーは、五番街へ戻る地下街へ降りた。
人気のない地下街を走り抜けるウィーニー。
昨晩の神父の言葉が頭を過ぎる。
──悪魔は他種族とは決して交わらない。
「そうかよ?……ラップができりゃ……認められれば、きっと……」
階段を駆け上がり、ワイザーのいるビルに入る扉を開けた。
「ワイザー!」
「おお。ウィーニーか。早い帰りだな。どうしたんじゃ?」
ウィーニーは、教会で聞いた神父とラプター大佐の会話、ウサギの話、セラのこと、見たこと聞いたことを、まくし立てるように洗いざらい話した。
「ほう。壱番街にストリートデビルズが現れた原因は、お前だったのか?」
「ああ、多分……」
「帝国軍は、悪魔との関係を疑ってお前を追っていると」
「うん……」
「ほほほ、面白いのお」
「面白くねえよ……」
ウィーニーは口を尖らせた。
「ほほ。誤解であれば、いずれ解けるじゃろ。じゃが……」
ワイザーは、ウィーニーの顔を覗き込む。
「お前、本当に悪魔と関係がないのか?」
「え……」
ワイザーの鋭い視線が、ウィーニーに刺さる。
「ね、ねえよ……でも」
「でも?」
ウィーニーの瞳が一瞬揺れた。
「オレは、デビルズに入りたい。デビルズに近づきたいんだ……」
ワイザーは、目を丸くした。
「なんと……」
ウィーニーは拳を握った。
「あの夜……マイクが……悪魔がオレの目を見て言ったんだ。“お前は未完成だから可能性”だって……。“その名前捨てるな、磨け。”って……」
「ウィーニー……」
「誰もそんなこと言ってくれなかった。みんな、オレをゴミだと言った……。でも、マイクだけは……悪魔だけが、オレは可能性だって……」
ウィーニーの目に涙が溢れる。
「だから……決めたんだ。オレもデビルズになるって。最高のラップ刻んで……全部、ひっくり返す。オレの位置も、この世界も。……オレの声……聞かせてやる……って」
「ほほ……そうか。お前は“救われた”んじゃな」
ウィーニーの指が、静かに膝を叩く。
トン。トン。
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Yo……
そうありたい……思っちまった そうなりてえ
悪魔? 知らねえ 関係ねえ
オレを見たのは あいつだけ
誰も言わなかった その一言
それだけで変わった オレの底 そこから行く
まだガキでも ここから行く
この名前で 全部ひっくり返す
────────────────────
「それがお前の声、じゃの」
「……うん」
「ほほ……そうかの。なら、止めん。これからどうする?」
ウィーニーは立ち上がった。
「デビルズを探す! 彼らはまだこの街にいる! オレにはなんとなくわかるんだ!」
ウィーニーは、ワイザーを振り返った。
「ありがとな! ワイザー! また会おうぜ!」
ウィーニーは駆け出した。
去っていく背中を見つめながら、ワイザーは大きく息を吐いた。
「……じゃがな、ウィーニー……その声一つで変わるほど、この世界は甘くない。一瞬で消し飛ぶぞ。お前の存在など、な。ここは……そういう世界じゃ」
ウィーニーは、ビルの影や路地裏に身を隠しながら、デビルズの痕跡を探し始めた。
「感じるんだ……デビルズの気配。で、オレは手配」
ブツブツと独り言のように韻を踏む。
細い路地から大通りに顔を出す。
キョロキョロと左右を確認する。
最後にデビルズを見た場所。
「あった!」
デビルズの黒いサイコロ。
──そのサイコロはくれてやる。
マイクの横顔が浮かぶ。
「これは、オレのだ……。よかった」
サイコロをポケットに入れ、一歩を踏み出した。
カチッ。
「ん? なんか、踏ん──」
その時、地面から半透明の青い光の壁が飛び出した。
「なっ!? なんだ!?……ホログラム!?」
四方を囲うように現れた壁。
ウィーニーは、慌てて走り出す。
ドン!
「痛っ!」
壁に阻まれる。
身動きが取れない。
《捕縛対象:確保》
背後から機械音。
「ウェブクロウラー!? しまった、トラップか!?」
その時――
「ん!?」
ヒュン――
ドォォン!!!
目の前のウェブクロウラーの胴体が、内側から弾け飛んだ。
爆風が吹き荒れ、光の壁が崩れる。
「うわああああ!」




