第9話 還せ 〜戦うウサギ ラビット ワイルド ここはオレらの世界 全部還せ 全部リライト〜
「うう……寒っ」
寒さで目を覚ましたウィーニー。
納屋の扉が開いていた。
「風で開いたのか?」
ウィーニーは起き上がると、扉に手をかけた。
その時、教会の中の声が漏れ聞こえてきた。
「なんだと!?」
ウィーニーは、その言葉に耳を傾けた。
「ラプター大佐、それは本当なのか!?」
「ああ、本当だ。悪魔が壱番街に現れ、バリケードを破った」
教会の窓が少し開く。
ウィーニーは反射的に身を屈めた。
「壱番街は神域……そこを犯すことは神への挑戦を意味する」
「ああ、その通りだ! 神域は、神との同盟関係の証! これは人間と悪魔の話に収まらない。だから、神父、あなたに報告に来た」
神父は唸った。
「これが神への挑戦だとしたら、神族と魔族の戦争……均衡が崩れるでは済まん」
「その通りだ。神族と同盟関係にある我々帝国軍も、魔族の攻撃対象になる。メカどもと魔族を同時に相手できるほどの戦力は、今の我々にはない」
「そうなれば、神族との同盟関係すら壊れかねん。しかし……あまりにも、唐突……」
ラプター大佐は、髭をさわりながら続けた。
「それと、おかしなガキがいたとの報告も」
ウィーニーの眉がピクリと動いた。
「おかしな……ガキ?」
「ああ。便所掃除の仕事で壱番街に入った妙なガキがいたと」
「妙、とは?」
「何やら呪文のようなものを唱えていたと。そのガキを追い出した直後だ」
(呪文て……ラップだろ)
「その子どもが悪魔を呼んだ、とでも?」
「わからぬ。今、そのガキは捜索中だ」
「あり得ん。悪魔は他種族とは決して交わらぬ。人間の子どもが悪魔を呼び込むなど不可能だ」
ドン。
ラプター大佐は、壁を叩いた。
「どうであれ、悪魔が現れたのは事実だ! 神族の言葉を待つ」
「わかった。追って報告しよう」
「ああ、頼む」
その時、風で納屋の扉が煽られた。
ウィーニーは思わず手を離した。
バタン!
(ヤバっ!)
「誰だ!?」
ラプター大佐が窓から飛び出す。
ギィィ。
扉が風で軋む。
納屋に向けられた銃口。
「……」
壁に隠れて息を殺すウィーニー。
ザッ。
ラプター大佐がゆっくりと納屋に近づく。
(来んな……!)
祈るように目を閉じたウィーニー。
「……」
その時、窓から神父が顔を出した。
「ふう、風で開いたか。その扉、どうにも建て付けが悪くてな」
視線を外さないラプター大佐。
「……」
カチャ。
ラプター大佐は、銃を下ろした。
ガン!
扉を勢いよく閉める。
「ふん……では神父、さっきの件、頼んだぞ」
そう言うと、ラプター大佐は去っていった。
「では」
ガチャ。
神父は教会の窓を閉めた。
「……やばかった……」
翌朝、納屋の隅でモソモソと動く影に気付いて起きたウィーニー。
「ん?……なんだ、ウサギか。珍しいな……」
ウサギは、ウィーニーと目が合うと納屋に開いた穴から逃げていった。
その直後、納屋の扉がゆっくりと開いた。
思わず身構えるウィーニー。
「おはよう。寝れた?」
「あ、シスターか……ありがとう」
シスターはニッコリと笑った。
「朝の配給が始まるよ! 今、並べば間に合う。急いで」
「あ、うん」
ウィーニーは、教会の前にでき始めている列に走った。
手渡されたカップに、スープが注がれる。
(あったけえ……。こんなの久しぶりだ……)
ウィーニーは、教会前に乱雑に置かれた切り株に腰掛け、スープを啜った。
ズズッ。
「っ……!」
久しぶりの熱いスープが一瞬、喉に詰まる。
慌てたウィーニーの手が揺れる。
カップから溢れたスープが手にかかった。
「熱っ!!──あ!」
無情にも、カップが手から離れる。
(やっちまった……)
絶望。
せっかくありつけた食べ物。
「何やってんだ、オレ……」
仕方なくカップの端についた肉片に手を伸ばす。
その時、目の前にスープが差し出される。
「え」
シスターがニッコリ笑っていた。
「はい。あげる」
「ど……どうして」
「フフ、一杯じゃ足りないかと思って、隠して持ってきた。もうこぼしちゃダメだよ」
「あ、ありがとう……」
久々に暖かいスープは、ウィーニーの体に染み渡った。
「うう……世界で一番うめえ……」
シスターは笑った。
「フフフ、よかったね! 私はセラ! あなた、名前は?」
「ウィーニー……」
「ウィーニー? 可愛い名前だね」
ウィーニーはプイと首を振った。
「可愛くねえよ……」
「あなた、どこから来たの?」
「五番街」
「両親は?」
「いない。赤ん坊の頃から孤児院で育った」
セラは一瞬、遠い目をした。
「そっか。私も一緒」
「え」
「すぐにこの教会に引き取られたから、神父やここのシスター達が家族みたいなものよ」
「そっか……」
セラはウィーニーの顔を覗き込んだ。
「ウィーニー。この後、どうするの?」
「しばらく身を隠して、アパートに戻る。他に行く場所ないし」
「身を隠す? どうして? 何かに追われてるの?」
「……」
その時、目の前を納屋にいたウサギが通り過ぎた。
「あ、さっきの……」
巡回中の帝国軍の兵士二人が気付く。
「お! ウサギだ!」
「おお、うまそうだ!」
一人が銃を構える。
「外すなよ!」
「ああ、任せろ!」
ピタリと動きを止めたウサギ。
「よし!」
トリガーに指をかける。
その瞬間──
ウサギは立ち上がり、兵士を振り返った。
「え!?」
淡く緑に光る目。
異様な立ち姿。まるで、人。
「な……なんだ、あのウサギ……」
兵士が叫ぶ。
「うっ、撃てよ!」
引き金を引く。
パンッ!
その瞬間──
ウサギが消えた。
「消えた……」
視線を落とす兵士。
足元。
二足で立ち、こちらを見上げるウサギ。
怪しく光る緑の目が、兵士を射抜く。
「なっ、なんだ、こいつ!?」
兵士は思わず、ウサギに向かって銃を振り下ろした。
ガツッ!
空を切り、地面に刺さる。
兵士の肩に乗ったウサギ。
「還せ」
「!?」
そう言うと、ウサギは兵士の顎を拳で打ち抜いた。
倒れる兵士。
「ひっ!」
背を向けて逃げ出すもう一人の兵士。
だが、ウサギは──
すでに目の前に立っていた。
飛んだ。
兵士の顔の前。
ウサギの回し蹴りが、兵士の顔面を捉える。
ガゴッ!
仰向けに倒れる。
意識を失った二人の兵士を見下ろすウサギ。
「侵すな」
ウィーニーとセラは、口を開けたまま固まった。
「ウサギが……戦ってる……」
ウサギは、ウィーニーとセラを振り返った。
ウィーニーは思わず拳を握る。
「なんだよ……」
一瞬の沈黙。
ウサギは、プイと背中を向けると、何も言わず走り去った。
「セラ。今のは一体……」
「わからない……」
遠くから見ていた神父が唇を震わせた。
「南の森……ワイルドブラッド……」




