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路地裏のウィーニー  作者: みゃーじま
第六章 悪魔の代償
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第95話 New World 〜神も悪魔も関係ねぇ アウトローが切り開くNew World〜

 ロベルトの拳の先。

 ジャロンの姿は跡形もなく消えていた。


 地獄の大軍勢は、もう動くことが出来なかった。


 シャクールは、辺りを見渡して言った。


「勝った……のか?」


 玉座に座ったままのデヴィン。


 その前に大きな影が立った。


「キング、か」


 ウィーニーは、その影を見上げた。


「ジャック……あんた、オレ達を助けに?」


 ジャックは、白い髭を撫でながら、デヴィンを見下ろした。


「デヴィン。てめえ一人で終わらせれただろうが」


 デヴィンは、ジャックを見ずに答えた。


「オレは、助けなど、求めてない」


「フン。よく言うぜぇ。久しぶりに、親父の顔が見たかったんだろうがぁ」


 ウィーニーは、慌ててデヴィンを振り返った。


「え。親父!? まさかジャックって、デヴィンの……お父さん?」


 ジャックは、ロベルトを見て言った。


「あの一本角。ハートが強えなぁ。死ぬ可能性もあったのに、ロックンロールだぜぇ」


 デヴィンは、何も言わなかった。


「デヴィン。なんであいつにやらせた?」


 デヴィンは、鼻で笑った。


「あいつが取り戻さなきゃならねえモンだった。それだけだ」


 ジャックは、ニヤリと笑った。


「キングだねぇ。誇らしいぞ、息子よ」


「老ぼれは、島に籠っていろ」


「ああ。言われなくても帰るぜ」


 ジャックはそう言うと、バイクに跨がった。


「デヴィン。てめえは、大したもんだ。オレは、追われる側だったが、お前は──」


 ジャックは、地獄の入口を見た。


「──潰しに、行く側か」


「ああ」


 短い返事だけが、返った。


「そうか」


 ジャックは、それ以上、何も言わなかった。


「ロックンロール、ベイビー」


 ジャックは、それだけ言い残した。


 ヘルズロッカー達と共に、闇の中へ消えていく。


 デヴィンは、その背中を、少しの間だけ見送った。


 やがて、地獄の方角へ向き直る。


「ガキ」


「は、はいっ!」


「ついてこい」


「はい……どこへ?」


 ウィーニーの問いに、デヴィンは静かに答えた。


「地獄だ」


 デヴィンは、立ち上がり地獄の入口へ足を向けた。呆然と立ち尽くす地獄の軍勢、そしてデビルズの横を、前だけを見据えて歩くデヴィン。


 キング・デヴィンの歩く道だけが、静かに開いていく。


 ウィーニーは、慌ててデヴィンの背中を追った。


 デヴィンは、マイクの横で足を止めた。


「マイキー」


「……ああ」


「お前もだ。ガキを連れてきたのはお前だ。その“可能性”が引き起こした戦争の落とし前、つけさせてやる。


 マイクは、何も言わずデヴィンの後ろを歩き始めた。


 ウィーニーは、首を傾げた。


「落とし前……つけさせる?」


 デヴィンは、地獄の入口の前で再び足をとめた。


「ガキ」


「はい……」


「喧嘩ってのは、必ず落とし前をつけなきゃならねえ」


 ウィーニーの喉が、鳴った。


「自由には責任がある。男なら自分でケツを持て」


 ケツ持つまでが自由──ロベルトが言っていた言葉だった。


 デヴィンとマイクは、躊躇うことなく地獄へ続く空間に消えて行った。


 ウィーニーも恐る恐る手を伸ばし、ゆっくりと足を踏み入れた。


「熱っ……!」


 熱い。


 なのに、体の奥を冷たい何かが駆け抜けた。


 恐怖? 不安?


 足を踏み入れた瞬間、焦燥感に似たようなザワつきに、心臓の鼓動が早くなる。


 何もない真っ暗な空間。

地面から、時折赤黒いオーラが吹き上がる。


 いるだけで押しつぶされそうになる、圧。


 それだけで、ウィーニーは、膝を突きそうになる。


「ちゃんと立て」


 マイクは、ウィーニーの首を掴んだ。


「マイク……」


 不思議とマイクに触れた瞬間、体が軽くなる。


「地獄がお前を拒絶している」


 マイクの大きな手から伝わる力。

本気を出せば一瞬で握り潰される。

でもなぜか、嬉しかった。

感じたことのない、安心感。

マイクと共に歩く地獄。

それが、どこか誇らしかった。


 ウィーニーの強張った顔が緩んだ。


 その時。

その視線の奥。

暗闇の中、影が立っていた。


 気配がない。


 否。


 地獄の圧そのものが、この王の事だった。


 魔王ダマト。


 巨躯。

デヴィンよりも遥かに大きかった。

天を突く角。

その全身から立ち昇る、圧倒的な威圧。


 ウィーニーは、思わず後ずさった。


 しかし、デヴィンは構わず歩を進めると、ダマトの前に立ってその顔を見上げた。


 その瞬間、周囲を囲むように大きな影が無数に立ち上がった。


 ウィーニーは、思わずマイクに体を寄せた。


「マイク……コイツらは……?」


「魔王の親衛隊だ」


「親衛隊って……ジャロンだけじゃ……」


 ダマトは、デヴィンにゆっくりと顔を近づけた。


「ストリートデビルズ。汝らを、処刑する」


 デヴィンは、表情を変えなかった。


「殺せるぜ、てめえを」


 空気が、震えた。


「今すぐ、ここで」


 ダマトの親衛隊が、一斉に身構える。


 だが、デヴィンは、拳を握らなかった。


「だが、やらねえ」


「……なぜだ」


 デヴィンは、静かに続けた。


「てめえを殺せば、地獄はオレのもんになる。座らされる、玉座に」


 ダマトの目が、僅かに動いた。


「そんなもん、いらねえ」


 デヴィンは、ゆっくりと、マイクとウィーニーを振り返った。


「ダマト。よく見ろ」


 二人が、視線の先に立つ。


「そこにいるのは、魔王の血を引く男」


 マイクは、何も言わなかった。


「そして、こっちは、神の血を引くガキだ」


 ウィーニーの肩が、びくりと震えた。


「魔族の血。神の血。そして──てめえを殺せるこの力」


 デヴィンは、自分の胸を、拳で叩いた。


「全部、ストリートデビルズにある」


 沈黙が落ちた。


 ダマトは、しばらく、動かなかった。


 やがて、その視線が、マイクに移った。


「王の血を引く我が息子、ルシトルよ」


「……」


「王となる資格、地獄の力。それを捨てるのか。答えろ、なぜストリートデビルズなどを選ぶ」


 マイクは答えなかった。


 その代わりに胸を叩いた。


ドン。ドン。


────────────────────

Yo あんた自分で言ったぜ その答え

王の資格 地獄の力 そしてそのName

オレは何一つ選んでねえ そのFlame


決めた場所それがストリート

選んだName それがマイクだ


地獄じゃ咲かねえオレのLife


欲しいのは玉座じゃねえ My Place

欲しいのは王座じゃねえ My Crew


生き様でアートを描く そのSoul


キングの言葉聞いただろ?

オレ達はストリートデビルズ

ぶち壊すアンダーグラウンド No rule


覚えとけ お前の息子は王族じゃねえ

オレは アウトローのアウトローだ!!

────────────────────


 ダマトは、真っ直ぐにマイクを見つめていた。


 マイクは、胸を叩くのをやめなかった。


 その代わりに、ウィーニーに視線をやった。


 目が合った。


「マイク……オレにも、やれって……?」


 マイクは、顎をクイッとあげて、ウィーニーを促した。


ドン。ドン。ドン。


────────────────────

Yo オレはウィーニー 聞かれてねえが

ついでに教えておいてやる ここいる意味


マイクが教えてくれた ストリートの流儀

マイクがいなけりゃ なかったこの可能性


何者でもねえ だから可能性だって

名前は与えられるモンじゃねえ 奪うGame


人間でも 神でもねえ 悪魔でもねえ

だがここに立つデビルズのSoul


今も追い続けるマイクの背中

だからむしろ……

感謝しかねえ 魔王、あんたにもな

────────────────────


 ウィーニーは、デヴィンを見て続けた。


────────────────────

だから Yo オレ達のキングの言うとおり

オレ達は突き進むアウトロー

止まらねえこの衝動

だから邪魔すんなこの本能

オレ達より悪い奴は許さねえ

悪い話じゃねえだろ 地獄の王


人間でも 神でも 悪魔でもねえ

だからなってやる アウトローのアウトロー!

────────────────────


 デヴィンはニヤリと口角を吊り上げ、ダマトに顔を寄せた。


「This game is overだ、ダマト。魔族なら、デビルズの前に立ちはだかるな。魔族の王でありたければ、その玉座に黙って座って見てろ──デビルズが開くNew Worldをな」


 長い沈黙。


 そして、ダマトは小さく息を吐いて玉座に座った。


 同時に、親衛隊は影となって暗闇に消えた。


「よかろう。好きにしろ」


 デヴィンは、ダマトに背を向けるとマイクとウィーニーの首を掴んで笑った。


「ストリートデビルズは、初めから──自由だ」


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