第94話 一本角の隕石 〜地獄が捨てたOne Horn Streetが育てたOne Soul 折れるのはPride 折らねぇMy Road〜
「来い、ジャロン」
ロベルトは、笑った。
ジャロンは、小さく呟いた。
「来い、か。オレに向かってそれが言えるようになっただけでも大したものだ」
ジャロンが一歩前に出る。
ロベルトは構える。
消えた。
その瞬間──
ロベルトの顔が大きく後ろに跳ねた。
ズドォンッ!!
音が遅れて届く。
「カハァッ!!」
仰け反ったロベルトが、血飛沫を上げる。
拳も、腕も、何も見えなかった。
ゆっくりと仰向けに倒れるロベルト。
ドゴオオォォッ!!
今度は上から拳が突き刺さった。
「ゴホオッ!!」
地面に叩きつけられる。
ドグシャッ!!
体の形に地面が陥没した。
一瞬、静寂が落ちた。
ロベルトは、動かなかった。
「どうした、奇形」
振り上げられたジャロンの拳は、容赦なくロベルトの顔面に落ちる。
ドゴオオッ!!
「どうした、落ちこぼれ」
ドゴオオッ!!
止まらないジャロンの連打。
最上位魔族のパウンド。
ドォォンッ!
「弱い」
ドォンッ!
「遅い」
ドォンッ!
「二千年経っても、それがお前だ」
ドォンッ!
拳が振り下ろされる度、大地が揺れ、ロベルトの体が地面に埋まっていく。
ウィーニーが思わず叫んだ。
「ロベルトッ!!」
ジャロンは、拳を止め、ロベルトの首を掴んだ。
「おい弱虫」
ジャロンは、その大きな翼を広げると、ロベルトを掴んだまま飛び上がった。
「落ちこぼれ故、落ちるのが好きだったな」
ジャロンは、ニヤリと笑うと、ロベルトを地面に向かって投げつけた。
ドゴオオォォンッ!
既に意識を失っているロベルトは、頭から地面に激突した。
「フン」
ジャロンは、さらに赤いオーラを身に纏うと、ロベルトに向かって、急降下した。
ズドオオォォンッ!!
再び、大地が揺れる。
ウィーニーの拳は震えていた。
「ロベルト……ウソだろ……。あのロベルトが、手も足も出ない……なんて」
ジャロンは、首を鳴らした。
「二千年か。何も変わらないな、一本角」
ウィーニーは、デヴィンを振り返った。
デヴィンは、表情を変えず倒れたロベルトを見ていた。
「立て。貴様の命が尽きるまで、二千年でも三千年でも、続けてやろう」
「……う……くっ……」
ロベルトは、膝を突き立ち上がろうとした。
だが、大量の血を吐き、地面に手をついた。
ジャロンは、哀れむようにロベルトを見下ろした。
「思い出したか、一本角。貴様には、何も出来んことを」
ロベルトは、口を拭ってフラフラと立ち上がった。
ジャロンは、腕を組んだまま、それを眺めていた。
「まだ終わるなよ。地獄の粛清はこれからだ」
「ハア……ハア……」
ロベルトの荒い息遣いだけが響いた。
「思い出したか。泣いて命乞いしたあの日のことを」
ロベルトは、血を吐きながら笑った。
「カハァッ! ……へへ……へへへ」
「何がおかしい?」
「ああ、思い出したぜ……。てめえの強さを……」
「フン」
それでも、ロベルトは再び、ゆっくりとジャロンに拳を向けた。
「思い出したぜ、その拳……強え。……強えけど」
ロベルトは、身を屈めた。
「──空っぽの拳だぁ」
ロベルトが地面を蹴った。
ジャロンは避けない。
ドンッ!!
衝撃音。
突き刺さったのは、ジャロンの拳。
「ガッカリしたぞ、一本角」
ズドンッ!!
もう一発。
「貴様が二千年かけて身に付けたもの──」
ズドオオォンッ!!
もう一発。
「それが、言葉遊び、とはな」
ズドオオォンッ!!
もう一発。
「下級は、どこまでいっても下級だ」
ジャロンが、大きくその拳を振りかぶる。
「十分だ、もういい。死ね」
ブンッ!!
空気を裂いて、拳が振られた。
ロベルトは動かなかった。
ズボオオォォッ!!
突き刺さったジャロンの拳。
瞳が揺れた。
「……へへ」
──ジャロンの瞳が。
ロベルトの手が、その腕を掴んでいた。
ロベルトは、ジャロンの顔を見上げるとニタリと笑った。
「空っぽの拳じゃ、オレは……ストリートデビルズは、倒せねえんだよぉ」
「何っ!?」
ロベルトは、腕を掴んだまま懐に飛び込むと、ジャロンを投げつけた。
一本背負い。
ズドオオォォンッ!!
今度は、ジャロンの体が地面にめり込んだ。
「ぐぅ……」
ロベルトは、拳を振り上げ、ジャロンを見下ろした。
「これだ。コレを見たかったんだ」
「貴様……」
「教えてやる。地獄に捨てられて、ストリートに鍛えられた──本物の拳をなああぁぁぁ!!」
赤い閃光が、ジャロンの顔面を貫く。
ズドオオォォンッ!!
「グハァァァッ!!」
赤い衝撃波が、戦場を駆け抜けた。
ジャロンの牙が、宙を舞った。
たった一撃。
ジャロンの、視線は、飛んでいた。
ロベルトは、その拳を手刀に変えた。
「立派なのは、その角だけか、ジャロン」
ブンッ!!
赤い閃光が、今度は大きく弧を描いた。
バキンッ!!
ジャロンの曲がった大角が真っ二つに折れた。
「ジャロン、ワンホーンてか」
ロベルトは、もう一度、腕を振り上げた。
「てめえには、一本角すら……勿体ねえなぁ!!」
バキンッ!!
ロベルトは、角の無くなったジャロンを無表情で見下ろして言った。
「今では感謝すらしてるぜ、ジャロン。てめえみてえなクズがいたから、オレは強くなれたんだぁ」
そう言うと、ロベルトは、空高く飛び上がった。
その頂点で、ロベルトの体が赤く光る。
炎のように燃え上がる復讐のオーラ。
戦場の誰もが、ロベルトを見上げていた。
ロベルトは、静かに目を閉じた。
そして──
「これで、終いだぁ」
──One Horn Impact.
一本角の隕石が────落ちた。




