番外編② 〜星に願いを〜
子供達は、我先にと短冊を奪い合った。
「お腹いっぱいごはんが食べたい!」
「新しい靴が欲しい!」
「早く、お母さんとお父さんが見つかりますように!」
賑やかな声の中、一人だけ、隅で黙って鉛筆を握る少年がいた。
まだ、名前も呼ばれ慣れていない、小さな体だった。
少年は、しばらく短冊を見つめたまま、動かなかった。
やがて、ゆっくりと、拙い字で書き始めた。
〜あたらしい なまえを ください 〜
「なあ、それ何て書いたんだ?」
隣にいた年上の子供が、少年の短冊を覗き込んだ。
「あたらしい……名前?」
少年は、短冊を隠すように胸に抱えた。
「なんだよ、それ!変なの!」
その声に、周りの子供達が集まってきた。
「見せろよ!」
「や、やめて……」
抵抗も虚しく、短冊は奪われた。
「──あたらしい、なまえを、ください、だって!」
声を上げて読み上げられた瞬間、笑いが起きた。
「なんだよそれ!自分の名前、嫌いなのか?」
「確かに自分の名前がウィーニーだったら、絶対嫌だ!」
「ウィーニー!Weeny!ちっちゃい、弱虫って意味だろ!ぴったりじゃんか!」
囃し立てる声が、裏庭に響いた。
少年は、下を向いたまま、何も言い返せなかった。
「星に願ったって、名前なんか変わるわけねえだろ!バーカ!」
短冊は、地面に落ちて、踏みつけられた。
シスターが慌てて駆け寄ってくる頃には、子供達はもう別の遊びに夢中になっていた。
「大丈夫?……あら、これ」
シスターは、汚れた短冊を拾い上げた。
「これ、あなたが書いたの?」
少年は、答えなかった。
シスターは、短冊についた泥を、指でそっと払った。
「願い事はなんでもいいのよ」
少年は、小さく、首を振った。
「……バカって、言われた」
「そう」
シスターは、それ以上何も言わず、短冊をそっと少年の手に握らせた。
「でもね。願うことは、恥ずかしいことじゃないわ」
少年は、握らされた短冊を、しばらく見つめていた。
泥で汚れた文字は、もう半分、読めなくなっていた。
その夜、少年は、その短冊を、誰にも見えない場所に隠した。
── 星に願ったって、新しい名前なんて降ってこない。
──そんなの知ってた。
── だったら自分で、勝ち取ってやる。
そう思ったことすら、その頃はまだ、うまく言葉にできなかった。




