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涙の海  作者: 黒米 紅子
くるみの海
20/32

花時計公園

「澪さぁーん」


振り返ると


黄色麦わら帽子に白いシャツ


淡いグリーンのバギーパンツの


アンちゃんが坂の下で手を振っていた。


こころなし、周りのキノコ達も


楽しそうに揺れている。


「アンちゃん?!可愛い」


「えへへ、着替えちゃった。


乙女さんに『澪さんに会う時は神秘的がいいよ』なんて言われたから…」


「それで天女姿だったのね。

素敵だったよ。似合ってる…」


サクサクと坂を降りながら笑った。


「でもさ、私が頑張ったその天女姿見てもなーんも言わないんだから…乙女さん」


「もしかして根に持ってる?」


「内緒…うふふ、次こそだわ!!」


奮起とばかり拳をあげて照れくさそうに笑った。


ホテルの前には既にボコが鎮座していた。


ボォォォー


澪に気づくと 短い首を伸ばして


小さく鳴いた。


「お待たせボコ 今日は公園だからいっぱい遊べるね」


アンちゃんはそう言って


ボコの頭を爪先立ちしながらヨシヨシと撫でた。


ボコも頭を下げて気持ち良さそうにしている。


 ボォぁぁぁぁ~ 


ソリに飛びのった二人に合図するかのようにボコが大きく声を上げた。


ボコとアンちゃんの間で

決定済みなのか、


「さぁ今日は飛ばすわよ!」


手綱をボコの甲羅へ、勢いよく当てる。


パチン。


乾いた音が響く。


すると、ボコの周りに無数の水玉が浮かび上がった。


大きなもの、小さなもの。


まるでシャボン玉のようにきらきらと輝きながら、


二人と一匹を包み込んでいく。


「行くわよ。」


澪は思わず、ごくりと唾を飲み込んだ。


座席の横にある手すりをぎゅっと握る。


アンちゃんの笑い声なのか


それとも首飾りの貝殻の鈴なのか。


シャン、シャン。


澄んだ音色が海へ溶けていく。


シャン、シャン。


澄んだ音色が海へ溶けていく。


次の瞬間。


ぐんっ、と背中が背もたれへ押しつけられた。


「きゃっ!」


体がふわりと浮く。


アンちゃんは両手を高く上げ、


まるで遊園地のアトラクションに乗る子どものようにはしゃいで叫んだ。


「ボコーーっ! 超特急よー!」


ボコは首を少し持ち上げ、


「ボォアァッ!」


と誇らしげにひと鳴きした。


その声と同時に、亀ソリは青い光の尾を引きながら、


海の底を一直線に駆け出した。


みるみる景色が飛んでいく。


遠くにある色のシャワーが


グイグイと近づいて来た。


「ぶつかる!!」


「平気平気!ボコ上昇!!」


アンちゃんが叫ぶと、仰け反るほど


ボコが上昇していく。


キラキラとした噴水の残像が目の端に映る。


澪はもう声すら出せず、必死に手摺りに掴まった。


「ヒャッホー」


噴水のてっぺんを乗り越えた。


ボコがゆっくりと回旋しながら降りていく。


大きな噴水はイルミネーションのように輝いていた。


色づいた水玉が まるで妖精のように


飛び跳ねている。


その片隅でこちらに手を振る女の子。


栗色の髪をおさげに編んでいる。


編み上げ靴をぴょんぴょんさせながら跳ねていた。


その隣には静かに佇む女性。



二人の後ろには 真っ赤なキノコの珊瑚


珊瑚からは鈍色の鎖のブランコが


誰もいないのに揺れていた。


ブランコから少し離れた場所には


転がした岩のようなテーブル。


椅子は小さなキノコになっていた。


ズン!


勢いが余ったのか、ボコが音を立てて降りた。


足がガクガクしている澪だが、


アンちゃんは平気な様子で


「ジェットコースターより興奮したでしょ」


などと言っていた。


震える足で、地面に降り立つと


女の子が跳ねながら寄って来た。


タタンとスキップするたびに砂が舞い上がり、


噴水の光を帯びてキラキラと舞い上がっている。


一度しゃがむと立てそうにない澪は


腰を屈めて女の子に声をかけた。


「こんにちは…あらあなたは…」


女の子は澪に招待状を届けた子だった。


「今日はご招待ありがとうございます。」


アンちゃんが母親らしい女性に挨拶した。


「こちらこそ よろしくお願いします。」


「私はくるみ、娘は…ミクと言います。」


穏やかそうな、


それでいて少し疲れを隠せない様子で自己紹介をした。


「私はアンちゃんと呼んで下さい。


こちらは澪さん、よろしく」


女の子の手が澪に触れ


テーブルへと引っ張って行った。


テーブルの上には 

お茶セットが供されていて、

ミクの読みかけの本が

小さなキノコに乗っていた。


「どうぞこちらへ」


くるみが声をかけて誘う。


二人は顔を見合わせて腰掛けた。










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