①ボコのぼやき
ボボボボッ
ボコはため息をついた。
おいらは悪くない。
目の前にはアンちゃんが腰に手を当てて
ガミガミ怒っている。
足元のは折れたデッキブラシ
海の中なんだから
身体を洗わなくったっていいんじゃない?
ボォォ
ボボ
とりあえず謝っておかないと
ご飯が遅れる。
ボコは首を小さくすくめて下げた。
ご飯は大事だ。
ボコの記憶は
白い砂浜で石を投げられ
ひっくり返えされ
棒で突つかれたところから始まっていた。
助けられて
その人が「嫁さんも居ないし美味いもんも食べれんし」
って言うから
竜宮ホテルへ連れって行った。
あそこのご飯は美味しいから。
そりゃ途中
お腹が空きすぎて、急いでたのもあるけど、
あの人だって
「あっちは何?こっちは?」
って甲羅の上で暴れるから落ちるんだ。
そのくせ 落ちるの嫌だって言うから
歩き出したら
「おっそー」だって言うし。
でさ、竜宮ホテル着いたら
鼻の下伸ばしちゃって、
毎日宴会してるし。
それから色んな人乗せたなぁ。
今、怒ってるアンちゃんだって
おいらに乗ってやって来たんだ。
ずっと黙ってたなぁ。
こんなに煩くなかったなぁ。
ボッ、ボボ
でも…
懐かしいんだこの人。
似ている気がするんだ。
誰に?誰だっけ…。
おいらが路地裏にいた時…
あれは路地裏って言うんだっけ?
そうそう壁と壁の間の
細っこい所にうずくまっていたら、
毎回 「おいで」って声かけるお姉さんがいてさ。
トコトコついていくと
ドアを開けて 美味しい食べ物をくれるんだ。
最初は声をかけられて
ついて行ったんだけど、
そのうち ドアの前で待つ事にしたんだ。
お姉さんが出てくると寄って行った。
大きな器にたっぷりご飯をくれるんだ。
だけど、時々
手を出して撫でようとするから
おいら 威嚇してやるんだ。
お姉さんはクスクス笑って
「次こそだわ」って言ってたな。
毎日毎日そうやるから
もう面倒になって好きにさせてやったんだ。
頭を撫でられた時
嫌じゃなかった。
うーん 良かったなアレは。
ぼぁー
ボコの首筋を優しく撫でる手があった。
「ボコ ちゃんと洗わないと
カビちゃうんだからね」
ボコは首を引っ込めた。
…そうだ
昔も同じような事言われたなぁ。
ある日 おいらを抱きしめて
ドアの中に連れ込んでさ
甘い匂いでゴシゴシ洗われたんだ。
「綺麗にしないと病気になっちゃうからね」
ってさ。
嫌だったさぁ。
でも…嫌じゃなかった。
優しく撫でられ
タオルで拭かれて
その後 部屋の中でフアフアのクッションに下ろされて
「今日から家族よ」
「もう一人じゃないからね」
一緒にご飯を食べて
一緒に寝たんだ。
一人で食べるより美味かったよ。
そのうち…
ビョーインとやらに連れて行かれて
あっちこっち触られたり
臭いの塗られたり
でもそこの センセって人が
ガリガリする美味しいものをくれるから
我慢してやったんだ。
いつの間にか
センセとやらも一緒ご飯食べたりするようになったけど
ご飯は豪華になったから
許してやったんだ。
「ボコ!!反省してないでしょ!」
ベシっと鼻面を叩かれた。
「ちゃんと聞いてる??」
ボォ
懐かしい記憶がフッと飛んで行った。
ボコはアンちゃんを見上げる。
やっぱ似てない。
あのお姉さんはもっと静かだったし
おいらを抱きしめてよく泣いてた。
もっと…寂しそうだった。
「ボコ?」
アンちゃんが首を傾げる。
ボコは大きく欠伸をした。
ボァァ。
考えるのはやめた。
だって今は…。
ノソノソとボコは踵を返す。
パンの焼ける香ばしい匂いがして来た。
思い出すよりご飯が先だ。
「ボコォ!!!」




