第19話 後編 思っていたより大事な一夜
1部-完- ですが、あと1話続きます。アリアンドラ視点の本当の意味での1部-完-のお話です。よろしくお願いたします。
告白を受け止めた静寂の中、ミアが私を見上げた。
ミアが私を見た。
「お姉さま」
「なに」
「ハーレムですの」
私は数秒、何も言えなかった。
「……それ、今言うのですか」
「うん。8歳の時に言ってたやつ。お姉さまのハーレム。ミアが作るって言いましたの」
「覚えてましたの……! 忘れてくれると思っていましたわ!!」
「覚えてた」
ミアが満足そうに微笑んだ。
「ミアはずっと覚えてた。お姉さまが絶対忘れてるから、ミアが作らないといけないと思ってた」
アリアンドラが呆れた顔で言った。
「……ミアティーネ、あなたってこういうことを計算してやっておりましたの?」
「計算じゃない」
ミアが静かに答えた。
「お姉さまのために、いてほしい人を集めた。それだけ」
アリアンドラがしばらくミアを見た。
「……この子、怖いわ」
「自然体なだけですわ」
私が言ったら、アリアンドラが「あなたの感覚はどうかしていてよ、これだから漢は」と言った。
サリナが記録帳を持っていないのに、そっと何かを心に書き留めるような顔をしていた。
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アリアンドラが腕を組んで言った。
「訓練は通常通りでしてよ」
「え、明日もですか?」
今度は騎士の訓練。今までと違って、痛くない……はず?
「感動的な夜の翌日でも、訓練は訓練ですわ。来月から、と言いたいところですけれど」
サリナが静かに微笑んだ。
「スケジュールは変えておきませんでしたわ。着実に」
ミアが私の袖を引いた。
「お姉さま」
「なに」
「みんな、ずっと一緒ですの。よかったですの」
私はしばらく返事ができなかった。
周りを見た。
アリアンドラが仏頂面で、でも少し嬉しそうで。サリナが静かに微笑んでいて。ミアが私の袖を持ったまま、満足そうで。
漢として、これが俺、いや、私のハーレムか、と思った。
思っていたのとは少し違う——でも、悪くない。
全然、悪くなかった。
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……翌朝、台所で、ハナがリサに、おずおずと聞いた。
「あ、あの、リサさん……」
「なに、ハナ」
「お、お嬢様お二人と、ディーテ家のお嬢様と、それから、サリナさんが、これから一緒に、お住まいになる、ということで、よろしいんですよね……?」
「ええ、そうですわよ」
「で、では、その……お、お部屋は、いくつ、お、お、お貸しすれば、よろしいので……?」
ハナは、お盆を握りしめて、目をまんまるに見開いていた。
「お一人ずつで、四部屋……あ、いえ、お二人ずつ並んで、二部屋……あ、それとも、皆様で、一つの大きな……」
「ハナ」
リサが、おっとりとハナの肩を軽く叩いた。
「お部屋の数は、お嬢様方が、お決めになりますわ」
「は、は、はい……」
「あなたが、心配することではないの」
「……はい……」
ハナは、ぺこぺこと頭を下げた。
茶色の猫耳が、混乱でぱたぱたと揺れていた。
「で、でも、リサさん、わたしの平民の感覚ですと、ちょっと、ご当主様が、四人……? いえ、お嫁さんが、三人……? いえ、ご姉妹で……? それも、ご姉妹のお片方が騎士で、もうお片方も、ご当主の……?」
「ハナ。お聞きなさい」
「は、はい」
「お貴族様の制度は、平民の感覚で考えると、永遠に、追いつきませんわ」
「は、はい……」
「気にしないことが、いちばん」
「は、はい……」
ハナの茶色の猫耳が、最後には観念したように、ぺたん、と垂れた。
「お姫様の世界、本当に、本当に難しすぎます……」
漢として、台所からのこの呟きが、私たちの物語をいちばん優しく締めてくれた気がした。
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後で知ったことだが、リサはこの数日間のことを全部エリオラへの手紙に書いていた。
「ユリナティーネ様の御縁が、正式に整いました」と。
もう、受け入れるしかなかった。
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その夜、四人で並んで眠った。
ミアが私の腕にくっついていた。アリアンドラがその反対側で、何度も寝返りを打ちながらも、最終的に静かな寝息を立てていた。サリナがそのさらに隣で、まるで毎晩そうしているかのように穏やかに眠っていた。
それぞれの女の子が、それぞれの場所にいた。
全員が、私の隣にいた。
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漢として守る。それは間違っていない。
でも、私は今、この子たちにいてほしいと思っている。
義務ではなく、ユリナティーネ・ソーマとして、自分の意志で選んだ。
私は、ユリナとしても、ちゃんと生きていたらしい。
梁の上で、ベル・ロウが、寝言で言った。
「ティア様……ベル、見届けました……第1部、完……」
……ベル、あなた、いつから物語の進行を意識していたのですか。
私は、小さく笑った。
漢の物語は、まだ続く。第2部が、もうすぐ始まる。
でも、今夜は——。
今夜は、ここまで、でいい。
(続きは、また明日だ)
―― 第1部 完 ――




