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第13話 この子を奪わないで

「ミアティーネ・ソーマを、確保せよ」


 司教の声が、大聖堂に響いた。


 その一言で、会場の空気が、凍りついた。


 成人の儀の鑑定で、ミアの加護は「超新星」――通常の千倍の攻撃力と出た。続けて司教は、ミアを「先祖返り」と呼んだ。魔族の血を色濃く反映した子だと。


 壁際の教会騎士。警備に立っていた各家の騎士。十人以上が、いっせいにミアへ足を踏み出した。


 頭の中で、何かが切り替わった。


 (――守る)


 考えるより先に、身体が動いていた。


 私は、ミアの前に出た。儀式台の脇に飾られていた装飾剣を掴む。ないよりはいい。


「ミア。私の後ろに」


「……お姉さま」


「大丈夫。お姉ちゃんが、ここにいますわ」


---


 最初の騎士が、ミアへ腕を伸ばした。


 その手首を、剣の腹で打つ。ロウェナ様に、十年。週に一度、休まず叩き込まれた剣技。けれど、力では勝てない。最初の一合で、それを思い知らされた。


 打ち返したはずの騎士は、びくともしない。むしろ、剣を握る私の腕のほうが痺れた。大人の、本職の騎士。体格も、膂力も、何もかもが違う。


 ――力で劣るなら、技で殺せ。


 ロウェナ様の声が、耳の奥で響いた。正面から受けず、流し、いなし、相手の力を、相手へ返す。


 私は、踏み込んできた騎士の刃を最小限の動きで受け流した。鈍い装飾剣を相手の剣に沿わせ、軌道だけを、ほんの少し逸らす。刃が、私の頬の横を通り過ぎた。


 返す動きで、相手の膝の裏を払う。騎士が、たたらを踏んだ。


 その隙に、ミアを背へ庇い直す。


「何をしているの! たかが小娘ひとりに!」


 甲高い声が、会場を裂いた。


 ヴェロニカ・グリムワルド。赤茶色の髪を逆立て、騎士たちに命じている。その何人かは、教会の紋ではない。グリムワルド家の紋章をつけていた。


「囲みなさい! 一人では、何人もは捌けないわ!」


 言葉どおりだった。


 二人目が左から、三人目が右から、同時に来た。


 私は、ミアを軸に、円を描くように動いた。前へ出れば背中が空く。退けばミアが晒される。だから、その場で回りながら、最短の動きだけで剣を捌く。一合ごとに、腕が、肩が、悲鳴を上げる。


 左の刃を流し、右の突きを身体ごと躱す。躱しきれなかった切っ先が、二の腕を裂いた。熱が走り、血が、白い礼装の袖を染めていく。


 それでも、足は止めない。止めた瞬間、ミアに刃が届く。


「その子は厄災よ! 災いそのもの! ソーマ家が隠してきた、汚らわしい先祖返り!」


 ヴェロニカの声が、裏返る。


「ゴミを掃除するのに、遠慮なんていらないでしょう!? みんなで捕まえなさい!」


 罵声が、ミアの小さな肩を打つ。


 ミアは、何も言わなかった。ただ、私の服の裾を、きゅっと握っていた。


 ……その握り方を、私は知っている。昔、力加減を知らなかった頃の、「ごめんなさい」の握り方だ。


 (謝るな、ミア。お前は、何も悪くない)


 四人目が、剣を振り下ろしてきた。


 受けた。受けて――膝が、がくりと落ちかけた。重い。一撃が、重すぎる。まともに受け止めることすら、許されない。


 私は、剣を滑らせて衝撃を地面へ逃がし、なんとか立て直す。息が上がる。視界の端が、白く明滅する。


 それでも。


 ミアの前から、半歩も退いておらず、それだけは、譲らなかった。


---


 五人目の刃を、習った型のとおりに受け流した。受け流したはずの切っ先が、流しきれずに脇腹を浅く裂いていく。また、切られた。白い礼装はもう袖から脇まで赤く染まり、指先まで血が伝っていた。


 (……おかしい。捕縛のはずなのに、なぜこんなに切れる)


 ロウェナ様の講義を思い出す。この世界の騎士の剣は、人を取り押さえることを優先して、刃の歯をつぶしてあるのが普通だという。現に教会騎士の剣は、受けるたびに鈍く重いだけで、私の肌を裂きはしなかった。


 切ってくるのは、グリムワルド家の紋章をつけた騎士たちだった。あの家の剣だけは、歯をつぶしていない――切れる剣だった。


 (つまり、あちらは最初から、取り押さえる気などないわけだ)


 息はとうに上がっていた。汗と血で柄が滑り、構え直すたびに腕のどこかが小さく悲鳴を上げる。ロウェナ様に習った型だけが、ぼろぼろの身体をかろうじて立たせていた。


 会場の遠くで、「ユリナ!」と叫ぶ声がした。アリアンドラの声だ。続けて「ユリナ様……!」と、サリナの声も聞こえた気がした。けれど、二人とも近づいてはこない。たぶん、人垣の向こうで、周りの大人たちに押さえられている。


「なりませんわ、アリアンドラ。出てはなりません」


「いや……いやですわ! お母様、離してくださいまし! ユリナが……ユリナが、斬られておりますのよ……!?」


「なりません」


「いや、いや……っ、いやぁ……! ユリナ……!」


 泣き声だった。あの誇り高いアリアンドラの、聞いたことのない声だった。


 ……正しい。正しいですわ、カトリーナ様。いまここに出てきていいのは、斬られる覚悟のある者だけだ。


 視界の端に、エリオラ様とアッティーネ様が見えた。お二人とも、動いていなかった。娘の鑑定結果と、「先祖返り」の一言と、剣を取った娘と――たぶん全部が一度に来て、処理しきれていない。茫然と、立ち尽くしていた。


 (――もとから、期待していない。あの人たちに助けられた記憶など、ないのだから)


 ただ、誰も助けに来ないという事実だけが、静かに確定していった。私が止まれば、ミアに刃が届く。それだけを考えて、私はまた剣を上げた。


---


 ヴェロニカ自身が、人垣を縫って、ミアの背後へ回り込んだ。


 小さな手が、ミアの黒髪へ伸びる。


 ――させるか。


 私は身を翻し、その手首を掴んだ。


「ミアに、触るな」


「っ……離しなさい! あなたまで、厄災に味方するの!?」


「厄災じゃない!大切な妹よ!」


 手首を払い、ミアを引き寄せ、再び背に庇う。けれど、もう限界が近かった。


 十人。前から、横から、後ろから。剣一本では、捌ききれない。ミアを庇いながらでは、なおさらだ。腕は鉛のように重く、斬られた二の腕は感覚が薄れてきている。


 また一本、刃が肩をかすめた。息が続かない。足が震える。


 (足りない。このままでは、守りきれない。もっと、力を。ミアを守れるだけの、力を)


 その瞬間。


 胸の奥の、温かいものが応えた。


 いま、この場でミアを庇ったことで、初めて形を取った感覚。それが堰を切ったように、全身へ広がっていく。


 私は、左手を前へかざした。


 光が、生まれる。


 透明で、けれど確かにそこにある、光の防壁。


 騎士たちの剣が、いっせいに叩きつけられ――


 すべて、弾かれた。


 硬い音すら立てず、ただ、なめらかに。十人の全力が、まるで凪のように受け止められていた。


---


 騎士たちが、たじろいだ。


「な……未鑑定の小娘が、光の防壁だと……?」


 誰かが、呟いた。


 そうだ。私の番は、まだ来ていない。


 司教は、さっき言った。先祖返りの制御は聖女の加護でしか成し得ず、現代に聖女はいない、と。


 なら。


 もし私に聖女の力があると示せれば、この水晶がそう告げれば、ミアを奪う理由は、消えるかもしれない。


 私は、ミアを背に庇ったまま、装飾剣を床へ落とした。

 左手で防壁を維持し、右手を儀式の水晶へ伸ばす。


 お願いだ、何でもいい。この場の全員が黙るだけの名前を、出してくれ。


 弱い星の光が浮かんだ。


「……騎士の加護。6等星」


 司教の声が、震えた。6等星、騎士としては、平均以下。


 その瞬間、包囲の空気が変わった。緩んだ、のではない。勢いづいた。


「……なんだ、6等星か」「さっきの防壁は、まぐれだ」「囲んで押さえれば終わるぞ」


 囁きが伝染して、止まっていた騎士たちの足が、また前に出はじめる。


 黙らせるつもりで触れた水晶が、逆に士気を上げてしまった。


 ……違う。


 これじゃない。

 今ほしいのは、ミアを守るための力だ。聖女でも、姫でも、何でもいい、この子を「確保」させないだけの、誰にも文句を言わせない力だ。


 水晶の光は、まだ消えていなかった。胸の奥で、怒りが弾けた。


 (ティア。あんた、力をくれるって言っただろ)


 ハーレムを作れるくらいの力、いつか誰かの命を支える灯になる魔力。


 そう言ったのは、あんただ。


 それが、6等星?

 平均以下?

 この子ひとり守れない力を、今ここで出してどうする。


 (……俺はまた、あんたにだまされたのか。転生の時と、同じように)


 私は、女神ティアへの怒り拳を水晶へと、叩きつけた。


 ――誰も知らなかった。

 二つの加護を持つ者は、二度触れたとき、二つ目の加護が映ることを。


 水晶が、まばゆく輝いた。


 さっきの、騎士の光とは比べ物にならない。水晶の奥に、三つの星が円を描いて舞うような紋様が浮かび上がった。


「……三姉妹の天舞……っ。姫の加護にして、通常の、千倍……」


 司教は、よろめくように一歩退いた。


「いにしえに、ただ一人――『大聖女』とのみ呼ばれた者が宿したという、桁違いの……っ。なぜ、それが、今……っ」


 ざわめきが、波のように広がる。騎士たちの足が、完全に止まった。


 大聖女。


 その言葉の重さが、会場をゆっくりと沈黙させていった。


---


 私は、ミアの手を握った。


 そして、会場をまっすぐ見渡した。


「司教様。教会の皆様。そして――ヴェロニカ嬢」


 声が震えないように。


「この子は厄災ではありません」


 はっきりと、言った。


「私のたったひとりの妹です。生まれた日から、ずっと隣にいた、大切な家族です」


 背中で、ミアが息を呑むのが分かった。


「聖女の力でなければ先祖返りを止められないと仰るなら、見てください。今ここに、その力は出ました」


 水晶の光は、まだ消えていなかった。司教は、わなわなと唇を震わせたまま、固まっていた。


 大聖女。

 千倍の姫の加護。


 それだけの言葉が並んだのに、誰も剣を下ろさなかった。怖いのか……そんなに、先祖返りが怖いのか。


 ミアはミアなのに。

 私の妹なのに。


 名前より、顔より、声より、今ここで震えている小さな身体より、血の言葉ひとつのほうが重いというのか。


 教会騎士たちは、まだ構えを解かない。グリムワルド家の騎士たちも、ヴェロニカの合図を待つように、じり、じり、と距離を詰めてくる。


 防壁を維持する左腕が、重い。ミアの指が、私の服の裾をきゅっと握った。


「……お姉さま、いったい何が、ですの……」


 その声は小さかった。不安で、震えていた。


 私は振り返らず、声だけを返した。


「ミア、もうちょっと待っててね」


 息を整える。


「お姉ちゃん、今、世界からミアを守っているから……」


 焦りが、胸の奥で膨らんでいく。


 聖女でも足りない。

 大聖女でも、まだ足りない。


 この場の人間が動きを止めないなら、人間ではないものに認めさせるしかない。


「それでも、認めないというなら、この子を奪うと言うのなら――女神ティア」


 名前を呼んだ瞬間、自分でも驚くほど腹が立っていた。

 そして、思い出していた。


「あなたが言ったのでしょう。真実の愛が見つかったら、祝福に来ると」


 服の裾を握るミアの指の震えが、背中越しに伝わってくる。


「私は、この子が先祖返りと知る前から――超新星と知る前から、この子の姉です。生まれた日から十六年、毎晩この手で魔力を分けてきました。骨を折られた夜も、この子を怖いと思ったことは、ただの一度もありません」


 会場の誰かに、ではない。天に向かって、私は続けた。


「ここにいる誰もが、この子の血を見ている。でも私はずっと、ミアを見てきた。血が何色でも、この子は私の妹です」


 はたから見たらばかげたことを言っているように見えるだろう。それでも続けた……


「ティア。九歳の春――私とミアは『姉妹の誓約』を交わしました。花を交換して。姉妹として一生寄り添うと、女神であるあなたに誓いました」


 あの日、ミアは小さな声で聞いた。「……ずっと?」と。私は答えた。「ええ、ずっとですわ」と。


「あの誓いを受け取ったのなら――見なさい。私は今、あの日の誓いを果たしています」


 あの日と同じ、白い礼装。それが今、血で染まっている。口先だけの愛なら、こんな色にはならない。


 (――命に代えても、なんて言えない。お姉ちゃんは、死ねない。ミアは毎晩、お姉ちゃんの魔力で生きているのだから)


 水晶の光が、さらに強く脈打つ。


「これが、真実の愛なら、私たちを祝福して!」


 何も起きない。もう、何も考えられない……


「これが、真実の愛じゃないというなら……何が愛なのよ……」


 分からない。愛も、打開策も……体が震え、目には涙だ溜まる……


「……お願いよ。ティア……ミアを、奪わないで……」


 怒っていた。でも、限界だった。最後の声は、涙声になっていた。


 怒りではなく、願いとして、助けてほしいと、強く、強く、女神ティアに乞うてしまった。


 その瞬間だった。


---


 大聖堂の床が光った。


 ……床が。


 静かに、しかし、まぶしく、地面から、何かがせり上がってきた。


 巨大な、女神だった。


 大聖堂の天井を突き抜けそうな――いや、明らかに建物より大きいのに、なぜか視界にはちゃんと収まっている。矛盾した、荘厳すぎる存在感。


 金色の輪郭。ティアだ。


 けれど。


 (……地面から? 女神って、普通、上から降りてくるものでは?)


 光の防壁を維持したまま、俺は内心でツッコんだ。


 巨大すぎるし、位置もおかしいし、何より、地面から生えている。


 その肩の向こうで、淡い水色の光が一瞬だけ揺れた気がした。


 (……これ、エリスの仕業だな)


 根拠はない。


 ただ、転生前に見た、あの「私がやるの?」という嫌そうな顔を思い出すと、妙に納得できた。


 ティアをまともに降ろす気がなかったのか。

 それとも、細かい演出を整えるのが面倒だったのか。


 (エリス……あんた、絶対ティアに嫌がらせしてるだろ)


 地面から生えた巨大な女神は、何も言わなかった。ただ――鐘を、鳴らした。


 どこからともなく、荘厳な祝福の鐘の音が、大聖堂に満ちる。


 その音は、言葉よりも雄弁に、ひとつのことを告げていた。


 この娘たちの愛を、女神は認めた。


---


 鐘の音を聞いた瞬間。騎士たちが、ばらばらと剣を下ろした。司教が、膝をつく。


「……女神の、ご祝福……」


 会場の親族たちが、次々と頭を垂れた。神の顕現。この世界で、滅多に起こらない出来事を前に、誰もが本能的にひれ伏す。


 けれど、ひとりだけ。


「認めない……っ! こんなの、認めるものですか……っ!」


 ヴェロニカが、騎士の剣を奪い、私めがけて飛びかかってきた。その目尻に、涙が滲んでいた。


 私は半歩だけ退き、その剣筋を躱した。腕を軽く取り、力の流れに沿って、ぽてん、と床へ転がす。


 ロウェナ様に、いちばん最初に習った受け流し。あっけなかった。


「っ……は、離して……っ」


「ヴェロニカ嬢」


 できるだけ、静かに言った。


「あなたのお話は、また今度、伺いますわ。今日は――どうか、お引き取りを」


 ヴェロニカは、唇を噛み、家の騎士に支えられて、よろよろと会場を去っていった。最後に一度だけ、こちらを睨んで。その目に宿っていたのは、憎しみだけではなかった気がした。


 ……まあ、それは、また今度だ。


---


 女神は、いつの間にか消えていた。最後に、鐘の余韻だけが大聖堂に残っている。


 (……結局、謝罪はなしか)


 あの女神は、私を「女の子だけの世界で唯一の男」と誤解させたまま、女の子に転生させた張本人だ。


 祝福はいい、正直助かった。


 だが。


 (謝罪は――後日、請求する)


---


 司教が、ゆっくりと顔を上げた。その顔から、もう「確保」の二文字は消えていた。


「ミアティーネ・ソーマ様の件は……女神のご祝福を受けた、特例として記録いたします。教会が干渉する理由は、もう、ございません」


 会場が、少しずつ息を吹き返していく。司教は、もう一度、深く頭を下げた。


「ただし、記録を確認しなければならないことがございます。明日、改めて伺わせてください」


 エリオラ様とアッティーネ様が、無言で頷いた。その重さを、今の私はまだ、きちんと理解していなかった。


---


 アリアンドラが、人ごみをかき分けて駆け寄ってきた。顔は青ざめて泣いた跡があったが、目だけはしっかりしていた。


「……ユリナ。その腕、血が……っ」


「かすり傷ですわ」


「かすり傷で、そんなに染まりませんわよ!?」


「……少し、深いかすり傷ですわ」


「ミアティーネは」


「無事です。ありがとう、アリアンドラ」


 アリアンドラは、少しだけ言葉に詰まってから、ぷいと顔を背けた。


「……お礼など、ご不要でしてよ。ただ」


「何かしら?」


「傍に、おりますわ。それだけでしてよ」


 その金色のしっぽが、本人の意思とは無関係に、ぱたぱた揺れていた。


 サリナも、いつの間にか、私のすぐ後ろに立っていた。手には、すでに包帯が握られている。姫の加護があるため、傷はすぐに治るし、サリナでも治せるのを知っている。


「サリナ」


「はい」


「ありがとう」


「……はい。お手を貸し下さい……」


 静かな声だった。けれど、確かな声だった。


---


 しばらくして、司教は成人の儀の続行を告げようとして――やめた。


 女神の顕現、先祖返り、超新星、大聖女。ひとつの儀式で、あまりに多くのことが起こりすぎていた。


「本日の成人の儀は、ここまでといたします。未鑑定の方々については、明日、改めて教会が責任を持って確認いたします」


 サリナが、ほんの少しだけ目を伏せた。


 まだ自分の番が来ていないことを、気にしているようにも見えた。

 けれど、その時の私は、ミアのことで頭がいっぱいだった。


---


 その夜。


 ミアが、私の袖を引いた。包帯を巻かれた私の腕を、そっと避けながら。


「お姉さま」


「なに」


「……ハムハム、していい、ですか? 今夜」


「あたりまえだ」


「よかった」


 ミアが、ほんの少しだけ笑った。その笑顔を見て、ようやく全身の力が抜けた。


 (やばい。泣きそうだ)漢として、こんなところで泣くわけにはいかない。


 でも、目の奥が熱かった。


 今日、ミアを守れた。


 女神の鐘が鳴る前に、加護の強さを知る前に。


 この足で前に出て、この手で剣を振るい、この口で家族への愛、ミアへの愛を「真実の愛」と言い切れた。


 女神の祝福は、そのあとについてきただけ。


 それだけで――今日はもう、十分だった。


次回から、17:30ごろに毎日1話ずつアップロード予定です。ブックマークをしてお待ちいただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。

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