第八夜 愛しの眼鏡さん(後編)
少しの間、雫と見つめ合っていたが、少し落ち着いてきたようだ。
「そろそろ次の授業が始まるし、教室に戻ろうか」
「ん、もうちょっとだけ、一緒にいて……」
「そうか……いいよ」
なんだろう、雫のやつ、下を向いて少し震えている。
「どうしたんだ雫? まだ具合い悪いのか?」
「ん……あのね、つぐのぶ。さっき私、とても思い切ったことを言ったんだけど――」
「え? なんだっけ?」
「またー、そうやってその雰囲気になると話をはぐらかすんだから、つぐのぶは!」
「えーっと」
ちょっとすっとぼけた。分かっていたけど。僕が惚れるとかどうとかそういう話だろ?
「さっちゃんが言ってたとかいう、あの?」
「そう! ね? どおだった? 眼鏡を外した私……」
「どおって……さっきも言ったけど、雫は雫だよ。眼鏡はあまり関係ないよ」
雫は、ぐっと両手を握りしめて、一呼吸おいて、うん! と、なにかを決断。
「……聞いて! 私ね、つぐのぶのこと、ずっと前から好きだったんだ」
告られた――
でも、言われなくても分かる、分かってた。
以前から態度でずっと猛烈アピールしていたもの。ただ僕も口に出すのが照れくさかったから言わないでいたけど……僕だってずっと好きだったんだ。
そして雫は、急に真面目な顔をしてしずかに話をしだした。
「実は、昨日の放課後……、タケシくんに告白されたんだ。付き合ってくれって。
それで、いきなり眼鏡を外して、眼鏡のツルをかんだの。で、ぺろぺろぺろぺろとツルやレンズをね、ああっもう……舐めてたのよ!」
「……!」
まじか、あいつ!!
「ええっ、それはドン引き……」
「でしょう? もう私、怖いやら気持ち悪いやらで……」
あのやろぉぉぉ。やっぱり雫より、雫の眼鏡の方に興味津々だったのか。
「それもあって、さっちゃんのオススメのコンタクトレンズを使ってみようかなって思ったの。あまり乗り気ではなかったのだけれど」
「そうだったのか」
「ねえ……つぐのぶ、私を守って。お願い」
「守るったって、どうすりゃいいんだ? タケシを成敗すればいいのか?」
「いや、そういうんじゃなくって、公然と私たちは付き合ってますって仲になっちゃえばもうタケシくんも何も出来ないでしょう?」
「まあ付き合うっていったって、今までだって結構仲良くやってたと思うけどな。付き合うとどうなるんだ?」
「えっ、知らないの? 付きあったら……私は彼女で、つぐのぶは彼氏になるんだよ!」
「彼女は何をするんだ? 彼氏って、僕は……むぐっ」
二人にそれ以上の言葉は不要だった。雫は、「もう黙って!」といわんばかりに自身の唇で僕の口を塞いだ。
コツン――
お互いの眼鏡がぶつかって、ずれ落ちた。
そう、僕もまた眼鏡をかけていた。
というよりクラスのほとんどの生徒が、眼鏡かコンタクトレンズを着用していた。眼鏡もコンタクトも使っていなかったのは、転校してきたタケルくらいのもんだった。
二人は見つめ合いながら苦笑い。
眼鏡を外して熱いキスを続けた。
――キンコーン・キンコーン
始業のチャイムが校舎に鳴り響いた。
すると、保健室の入口が勢いよく開いた。そこには……。
「おおおお、お前ら一体なにやってんだああああ?」
タケルだった。どうやらいつまでたっても教室に戻ってこないから心配して様子を見に来たらしいが……。
僕と雫は、お互いを手で跳ね除けて慌てて離れたが、もう手遅れ。ばっちり目撃されてしまった。タケルがなんだか震えている。ワナワナ? 手に拳を握って震えている。
雫は、口の周りに垂れている唾液を手で拭き取り、タケルに向かって言い放った。僕も、口の周りが二人の唾液でヌルヌルだったので、名残惜しいが拭き取った。
「あのね、タケルくん、聞いて! あのね、私ね、ずっと前からつぐのぶのことが好きだったの。だから決してタケルくんの行為が気持ち悪くて交際をお断りしたんじゃないの」
「はっ……!? もしかしてつぐのぶに昨日のことを……」
「ええ、話したわ(キリッ」
「あちゃー」
タケルは、とてもバツの悪そうな声をだし、顔に手をあててため息を出した。
「そんなわけでな、僕たちは、付き合うことになったんだ、すまんなタケル」
「おぉぉぉん! 雫ちゃあぁぁぁん」
「タケルくん、キモっ!」
雫、結構言い方きついな。それ、タケルに新たな性癖が芽生えてしまうぞ?
(了)




