嵐の森part2
雷狼の死骸を尻目にその場を離れる三人
そのままかれこれ10分ほど歩くと、周りの木が小さく見えるほどの大木が立っていた
「んだこの木。バカでけえじゃねえか」
「ほんとね、上を見てもてっぺんが見えないじゃない」
ほえー、と上を見上げるアン
「でかい木なだけあって、根っこまででけえな。そこらへんボコボコでてる」
「ちょうどいいね。兄さん、アンさん。いったんここで休憩していかない?兄さんの背中の傷も気になるし」
「さんせーい!私もうへとへとなのよねえ…もう歩きたくない」
「…そうだな。よし!とりあえず根の陰に行こう!」
三人は大木を背にし、根の陰に入る
上は根から生えていた大きな葉っぱがあり、天然の天井になっている
念のため、自分たちが来た方向が確認できるような位置で休憩を取ることにした
荷物を降ろし、座る
雨にも打たれていたため、三人とも体が冷えておりお湯を作ることにした
フォルの出した水をアンが熱し、作ったお湯だ
衣服等も濡れていたため、各々着替え、一息つく
「背中見せて。兄さん」
フォルがずっと心配そうにしていたのは、最初に雷狼に突進された際に木に身体を激しくぶつけた際にできた傷だ
「…うわ!アンタすごいアザになってるじゃない!よくここまで歩いてられたわね」
「まあ痛いっちゃ痛いけど、親父に転がされた時の方が痛かったから平気だ」
「ダメだよ兄さん、応急処置はするからね。『水癒』」
フォルがそう唱えると、スライム状の水がラルの背中全体を包む
「おお…ひんやりしてて気持ちいいなこれ…」
「でもこれで治したりすることはできないから気休めだけどね…」
「いや十分だ。助かるよフォル」
「ほんとに…ラルはすぐ無茶するんだから…」
キュッとラルの服の裾を掴むアン
「…悪かったって。だけど、この勝利はお前らがいたから勝てた。ありがとう」
「僕は当然のことを下までだよ。ね?アンさんの判断もベストだったと思うよ」
とニコニコしながらアンにふるフォル
「ふ、ふん!当り前よ!でもフォルも説明してないのに幕を張るってよくわかったわね」
ハッとラルの裾を離し、照れ隠しなのか、ズズッとお湯をすする
「事前に使える技の共有もしてたし、横にそれて分断ならそれかなって思っただけだよ」
改めて、初めての勝利をかみしめる三人
「そういえばなんで雷狼は一匹でいたのかしら?群れから追放されたとか?」
反省会もそこそこにアンが気になってたことを共有する
「そこ僕も気になってた。雷狼は元々5~6匹の群れで生活してるはずだよね。でも追放はないんじゃないかな?雷狼は仲間を大事にするみたいだし」
「そうだな、カレオの伝記にもそう書いてあるし。この情報が間違ってなければ、だけど」
「待って。てことは私たちあの雷狼の群れに狙われてるってこと!?」
「多分そうだろうな」
「そうなると最後に聞こえた遠吠えは倒した雷狼の群れの誰かってことになるね。お仲間もさぞお怒りだろうし、早めにこの森抜けた方がいいかもね」
なるほど、といった感じでフォルがまとめる
「そういうこった。だからあと五分ぐらいしたら出発するぞ。今のうちにしっかり休んどけ」
そういうとラルは大の字で寝転がる
「うぅ…腹くくるしかないってことね…倒さなきゃこっちがやられてたんだもの、仕方ないわ」
頭を抱えながらアンが言う
「さて、そろそろ行くか」
「そうだね、もう体力も回復したし。アンさんのおかげで服もしっかり乾いてるね。」
「…私の魔法はこんなことのためにあるんじゃないんだけどね。しょうがなくよ!」
「はいはい、助かるよ、アン。ところで誰かエンライの方角がわかるやつはいるか?」
「それなら多分今いる位置から左に行けば森は抜けられると思うよ。」
「なんで分かるのよ?ここにくるまで割とでたらめに歩いてたわよ私たち」
「説明するね。兄さん、カレオの伝記貸して」
そういってラルから伝記を受け取ったフォルが開いたのは、カレオの手書きで作られた地図があるページだ
「嵐の森には僕らのいるこの大木と同じような大きさの木がもう一本あるんだけど…ほらここ。森の中に大きな丸が二つ付いてるでしょ?」
「ほんとだ。てことはこの大きな丸が大木ってことか?」
「僕はそう思ってるよ。それでここまでの歩いてる途中にちらっと見えたのをマークしといたんだ、ほら」
そういって見せてきたフォルの杖にはある一方向だけを指し示す小さな水の矢印があった
杖に合わせてその矢印も動くが、一定の方向を指し示し続けていた
「『導水』」
「なるほど…でも向こうに行ったからってエンライ側に出られる訳じゃないのよね?」
「うーん、そこなんだよね。正直僕も正確な方向まではわからないし。もしかしたら来た方に戻る可能性もあるんだよ」
うーん、と二人が頭を抱えてると、パンっとラルが両手を合わせて二人の意識を引く
「そうなったらそん時はそん時だ。フォルのおかげで迷子にならずに済むんだ。それだけで十分」
そういうと、二人が笑う
「兄さんらしいね」
「それもそうね、たしかに一生を森の中で終える可能性がないってだけで十分だわ」
と、口々に言う
「うし!そうと決まればとっととこんな森抜けちまうか!」
三人は荷物をまとめ、フォルの言った方角へ向かう
「そういえばここ虫たちも雷属性なのね」
木々に止まってる虫を見てアンはつぶやく
「体の大きさも相まってせいぜい静電気ぐらいの電気しかだせないけどね」
雷狼に夢中で気付かなかったが、草木や地面の至る所に雷の跡がある
「まあ常に雷と隣り合わせの場所だからな。適応ぐらいするだろ」
「こう見る分には光があってキレイなのにね。雷狼さえいなければだけど」
そんなことを話しながらしばらく歩いていると、段々と空が薄暗くなっているのに気づく
「あ?こんなに暗かったか?」
「心なしか、雷も多くなってきたね」
さっきまであった虫たちの明かりが見えなくなっている
木々の間や草むらをかき分けながら進み、少しすると開けたところに出る
「鹿がいるわね…」
アンの目線を追うように広場を見る
そこには青い体毛に包まれ、頭から生えている両角の間にはプラズマのようなものが走っているのが見える
鹿はラルたちに気付かず、電気を纏った植物を食べている
「雷鹿じゃねえか。確かああやって電気を体内に蓄えるんだったな」
「自分の身が危なくなったら、角の間から電気を放出するんだったね。食事に夢中らしいから今のうちに抜けちゃおう」
「刺激しないようにそおっとね。ラル、アンタは突っ込んじゃ駄目よ。戦闘は無しね」
「さすがに行かねえよ!まあでも鹿肉って美味そうだなって思ったのは事実だけど」
三人は雷鹿から少し離れ、横を通り過ぎようとした時、ピクッと雷鹿の耳が動く
すると雷鹿はラルたちがいる方向とは逆の方向をじっと見つめ、何かに気付いたのか、ラルたちが来た方向へ走り去ってしまった
その時『ワオーーーン!!』と遠吠えが鳴り響いた
三人は直感した
あの雷狼の群れだ、と
各々武器を構える
遠吠えの位置がかなり近く、走っても逃げ切れないことは三人ともわかっていた
雷狼が二匹、姿を現す
「どうする?兄さん?」
フォルがラルに問いかけるもラルからの返答はない
「…兄さん?」
少し心配になり、ラルの方へ目線をやると、なにやら顔色が悪い
「…アン、フォル。自分が生き残ることだけを考えろ。アイツはヤバい」
ラルの視線の先には、先に出てきた二匹の雷狼の間から三倍ほどの大きさの個体の雷狼が出てきた
「なんなの…あの大きさ…他と全然違うじゃない…!」
一歩、また一歩とあの大きな雷狼が歩くたびに身体から電気が漏れ出ている
三人に緊張が走る
「…やるしかねえか」
腹をくくり、大雷狼を見据える
すると大雷狼の後ろからどんどん雷狼が出てきた
「5~6匹なんて可愛いものじゃないわ。10以上いるわね…!」
「囲まれたか」
あっという間に周りを囲まれ、逃げ道がふさがれる
「だいぶ手際がいいね。魔物ってこんなに賢かったっけかな」
「無駄話はここまでだ。来るぞ!」
ラルがそう言った瞬間、最初に出てきた正面の二匹がとびかかってきた
『水弾!』『炎弾!』
それを見たラルとフォルがそれぞれに一発ずつ魔法をぶつけひるませる
「…!流石だ二人とも!」
この好機を逃すラルではない
空中で当てられたため地面に落とされた雷狼の元へ一瞬で距離を詰め、二匹の首を落とすように刃を入れ、倒す
それを見た雷狼たちがさらに激怒し、次々に襲い掛かってくる
ラルは爪や牙での攻撃ならなんとか剣で受けきり、その隙にラルの後ろからアンが雷狼の脳天を貫く
アンがレイピアを引き抜く際の隙を、フォルがカバー
なんとかなるかもしれない、三人の中でそう認識される
6匹ほど倒した頃、大雷狼が吠える
すると雷狼達が下がり始める
大雷狼が前へ出てくる。次は自分が相手だ、そう言ってるように感じた
大雷狼が構えを取る
(いきなりかよ…!)
突進の構えだと瞬時に悟り、左足を大きく前に出し、カウンターの構えを作る
次の瞬間、大雷狼が視界から消えた
全く目で追うことができず焦る
最初に戦った雷狼とは速さが違いすぎる
ほとんどヤマ勘で剣を振る
(直線ならここ…!)
そう思い、大雷狼の通過地点に剣を置いとくが、剣に触れる前に大雷狼の軌道が変わる
「う…!」「…ッ!」
声のする方を見るとフォルは右足を、アンは左腕を爪で切られていた
「んな!?大丈夫かおま…っぐ!」
遅れて自分の脇腹から鋭い痛みがやってくる
(俺も切られてたのか!クソ…!)
一瞬でもこの危機をのりこえられそうなんて思った自分が浅はかだった
ふぅ…と大きく息を吐きだす
絶望で埋め尽くされそうな思考をクリアにするために
大雷狼は今の一撃で取るに足らないと思ったのか、周りから電気をチャージしながらラルたちの出方をうかがっているようだった
大雷狼から目を離さず、ラルが言う
「アン…走れるか?」
「…なんとかね」
「フォルはどうだ」
「ごめん走れない」
「わかった。お前は俺が担いでいく。アン、雷狼を退かせるほどの火力の高い魔法はあるか?」
くいッと顎で元々行く予定だった左の通路を指し示す
「…少し溜めがいるわ。それを使うと私動けなくなるわよ」
「了解。俺が時間を稼ぐ、頼んだ」
「…わかった。」
コクッとアンをみて頷き大雷狼の方へ駆け出す
それを見てすかさずアンはレイピアの先に炎を溜める
フォルは自分とアンの周りに水幕を張り、簡易結界のようなものを作ってた
それを尻目に見届け、自分は大雷狼へ斬りかかる
大雷狼はそれを軽々かわし、雷を纏った爪や牙で襲い掛かってくる
脇腹の痛みが徐々に増していき、思考が鈍る
紙一重のとこで致命傷は防御するが、すべてを捌くことはできず、脚や腕に爪や牙がかする
(考えろ…!こいつの足止め方法を…!)
すると後ろから『水癒!』と聞こえてきた
少しでも助けになればと思い、フォルが呪文を放ったのだろう
まっすぐこっちに向かってくるスライム状の水をクルッと剣を回転させ、剣にまとわせる
そのままそれを大雷狼の顔目掛けて、剣を振り、思いっきり投げつける
大雷狼もそれは予想外だったのか、左に避けきれず、右半分の顔に受けてしまう
スライム状のため、上手く剥がすことができず大雷狼が戸惑っている
ラルはスライムの付いていない左目へ即座に周り、そこ目掛け斬撃を入れる
『ぐオオオオオオ!!!!』
とすごい声量で大雷狼が鳴く
「ラル!行けるわ!」
アンの合図が聞こえ、意識を一瞬アンの方へ向けたその時だった
次の瞬間、ラルのお腹付近に鞭のような鋭い攻撃が来る
なんとか剣でガードするが、威力を殺しきれず飛ばされてしまう
大雷狼の回転した時の尻尾攻撃に弾き飛ばされた
壁に激突するかと思ったが、バシャッと柔らかい衝撃がラルを包む
「『水幕!』」
飛ばされた先はアンとフォルがおり、フォルが受け止めてくれた
アイコンタクトでフォルに感謝し、アンに指示を飛ばす
「アン!」
「ええ!『火炎突!!』」
次の瞬間すごい勢いの炎がまっすぐに横道に向かって飛んでいく
突きで繰り出されているため、弾速がかなり速い
地面にぶつけるように放ったため、地面に着弾
するとその位置で軽い爆発を起こる
その場にいた雷狼は焼き焦げ、周りの雷狼達も一歩、二歩と後ずさりしているのがわかる
爆発の勢いに気圧された雷狼がその場から離れていく
「あとは…頼んだわよ…」
そう言い残し、気絶するアンを受け止める
フォルとアンを小脇と肩にそれぞれ担ぎ、一気に走り出す
その際にフォルが脇腹に水癒を止血変わりにと貼ってくれた
すると水癒が顔から取れた大雷狼が腹の底まで響くほどの大声で鳴くと、他の雷狼は爪に雷を纏わせ、斬撃を飛ばしてきた
(そんなこともできんのかよ…お前ら!!)
「『水弾!』」
フォルが斬撃一つ一つに合わせ斬撃を相殺していく
「防御は任せて、兄さん!走り抜けて!!!」
予想外の出来事に肝を冷やしたが、後ろは振り返らずにひたすら走る
絶え間なく降り注ぐ斬撃や雷
それすべてに的確に魔法選択をして防ぐフォル
すると正面の木々の間から光が差し込んでいる
(出口だ…!)
そう思い最後の力を振り絞る
フォルも息切れが激しく、体力の限界ももう近かった
最後の木々を抜け、草原に身を投げ出す
すぐ後ろには大雷狼たちが迫ってきている音がする
もう戦う力も残っていない
だが思考を止めず、どうするか考えようとしたその瞬間
ピタッと雷狼たちの動きが止まった
ちょうど森と草原の堺で止まっている
すると立ち止まってる雷狼たちの後ろから大雷狼が姿を現す
斬られた左目は開いておらず、血を流していた
ラルたちをじっと見つめた後、くるっと背中を向け、森の奥へ戻っていく
この借りは必ず返す、そういわれてる気がした
(助かった…のか?)
雷狼が返っていくのを見届け終わり、草原に吹き渡る風の音しか聞こえず、緊張の糸が切れる
(これやべえな…血を流しすぎてる…)
バタッと倒れ、誰かの声がかすかに聞こえてきたが、そのまま意識を失ってしまった




