嵐の森part1
フォル、アンと共に嵐の森へ向かう
町の外から嵐の森へは30分程歩かなければならない
いよいよ夢にまで見た旅が始まるんだ、そう考えたらワクワクが止まらない
「ところで、ラル。アンタはおばさん達の特訓で魔法はやったの?」
惚けながら歩いていると、アンから疑問が飛んでくる
「魔法なんてやってねぇよ。というかやった所で無意味なのはお前も知ってるだろ」
「そりゃそうだけど…」
アンがちょっと申し訳なさそうに言う
「まあ兄さんは町の司祭にも才能ナシってハッキリ言われるぐらいだからね」
「まあなぁ…小さい頃に見せてもらった親父の雷魔法は凄かったから、俺も大きくなれば使えるもんだと思ってたよ」
「父さんの魔法を見せてもらってからあんなに毎日練習してたのにね」
「流石に面と向かってお前は魔法が使えないって言われた時は一晩中泣いたもんだ」
「それもそうよね…。欲しいものが手に入らない辛さくらい、私にも分かるわ」
とアンにも少し思うところがあるようだった
「…ってこんな暗い話はやめにしないか?今に始まったことじゃないし、気にしてもしょうがないだろ?」
3人の雰囲気が重くなったのを察したラルがパンッと手を叩いて注意を引く
「それもそうね。それで?2人は特訓で何を身につけたの?」
「俺は親父から剣の腕前をしこたま鍛えてもらった。雷魔法の方もかなり強力なのに剣の腕前も一流なんだよなぁ親父…」
遠くを見つめながら地獄だった特訓を思い出す
「僕は母さんから水属性魔法を教えてもらったよ。今出来るのは、『水弾』とか『水糸』とかのあくまで補助が目的の魔法が多いかな」
「へぇそうなのか。でもなんで補助ばっかりなんだ?身を守るためにもっと攻撃系覚えさせられてると思ってた」
「母さんならアンさんが合流するのを知ってたからじゃない?」
「言われてみれば確かにそうだな」
ラルが前衛、アンが小回りの効く前中衛、フォルが後衛での補助という形が出来上がる
「そういえばアン、お前はいつおふくろ達から話聞いてたんだ?」
へぇ、と感心していたアンに1番気になってた疑問をぶつけてみる
「あれはちょうど2ヶ月前ぐらいからかしら。アンタ達がボロボロになり始めたぐらいにおばさんから話があるって言われたの。一緒に着いて行ってやってくれないかって」
「それでお前は軽くOK出して着いてきてんのか!?」
「しょ、しょうがないじゃない!考えたくはないけど帰ってこない可能性だってあるなんて言われたら断れないわよ!」
それを聞いたフォルが少し笑っていた
「なるほどね、アンさんは兄さんが居なくなってほしくないんだね」
なんてからかいながら言う
するとアンはみるみる顔が赤くなっていき、わーっと声を上げ、フォルの口を塞ぐ
「まあ気心知れた奴が居なくなるのはやっぱ寂しいもんな。んで、改めての確認なんだが、アンは戦闘では何ができるよ?」
口を塞がされたままフォルがやれやれと言った表情でアンの方に目線を送る
「…私は見ての通りレイピア使いよ。炎属性の魔法ももちろん使えるわ。でも決定打になるような火力は出ないからそこはあまり期待しないでちょうだい。」
と諦めたようにフォルの拘束を解く
「へぇ、剣で戦いながら魔法も使えるのか。器用だな」
「当たり前じゃない。でも幼少期から訓練してきた割にはどちらも中途半端な腕前だけどね」
と少し俯きながら自虐気味に言う
「ま、何にせよ、俺からしたら戦えるやつが居るってだけで心強いんだぜ?」
「そ、そう?そう言ってくれるなら嬉しいわ、ありがとうラル」
「兄さん!アンさん!嵐の森が見えてきたよ!」
アンからの拘束を解かれてからラルとアンの前を歩いていたフォルが声をかけてくる
「お、本当じゃねぇか。やっぱ嵐の森の木はデケェなぁ」
見上げながら言うラルの視線の先には、普通の木よりも2~3倍は高さのある木々が並んでいる
「近くまで来るとやっぱり圧巻ねぇ。最大で100mを越える木まであるらしいわよ」
「僕初めて近くまで来たけど、やっぱり緊張するね。」
と皆それぞれの感想を口々に言う。
ラルは一度大きく深呼吸をする
「さあ、行くか!」
ガサガサっと草の根をかき分けながら進み、ようやく少し開けたとこに出る
「うえ、濡れてるじゃない!この葉っぱ!」
「嵐の森は常に黒い雲がかかってるから雷雨の天候になりやすいんだったよね」
ふう…と一息吐きながらアンの後ろから続いて出てくる
「そう!そして嵐の森に生息している魔物は雷属性が多くて、森を抜けるのが大変なんだ!」
「なんか嬉しそうだね、兄さん」
「当たり前だろ!今まで親父たちに近づくなって止められてたんだ!興味がわかないほうが無理ってもんだろ!」
「だいたいなんで嵐の森を通るのよ?ちょっと遠回りすれば補装されてる道があるってのに」
「だってカレオの伝記に嵐の森について書いてあったからそっちの方が面白そうだろ?」
「アンさん、兄さんの事だから諦めて進むしかないよ」
「…はぁ。しょうがないわね」
一度決めたら曲げないラルの性格を思い出し、諦めるアン
その時奥の草むらからガサガサッと音がして、いきなりそいつは現れた
全身の毛が逆立つような感覚
さっきまでの空気間とは打って変わって三人に緊張が走る
ラルとアンは剣を抜き、フォルは杖を構える
「兄さん、あれって…」
「ああ、雷狼だろうな」
むこうもこちらの出方をうかがっているようだ
「…兄さんどうする?一匹ならみんなでかかれば倒せると思うけど」
「いや雷狼は群れで動いてるはずだ。うかつに近づけばやられるぞ」
「でも周りに他の狼の気配はしないわよ?サクッと倒してから早く進めばいいんじゃないの?」
「ダメだ、ここは迂回して別の道から行く」
すると、雷狼の身体から光が放っているのが見え、なにやら構えのような体勢をとった
(これはヤバい!)
本能でそう感じた
とっさにラルは二人を突き飛ばし、防御の構えを取る
ドゥ!と雷が近くに落ちたのかと思うようなすごい音を立てた
次の瞬間、雷のような速度で突進してきた
雷狼を受け止めきれなかったラルは後方にあった木に身体をぶつけた
「…ガッ!」
なんとか体勢を立て直したいが、呼吸がうまくできない
「兄さん!」「ラル!」
二人の声が重なる
雷狼はラルに狙いを定め、もう一度同じ構えを取る
「水糸!」
思考がまとまらない中、フォルの声が聞こえる
次の瞬間グイっと引っ張られ、身体が宙に舞いフォルとアンの近くに落ちる
「あで…!おいフォル!もう少し優しく降ろしてくれ…!」
「意外と元気そうでよかったよ兄さん」
「…!助かったぜフォル!アン!雷狼の足止めを頼む!作戦を考える!」
「わ、分かったわ!火弾!!」
そういうとアンは火の弾を雷狼に向けて何発か放つ
だが余裕綽綽といった感じで雷狼は華麗に避ける
「この状況どうするの?兄さん。けがも心配だし、やっぱり下がる?」
「…いや、アイツは俺が倒す。この痛みの借りを返さないと気が済まねえ」
「でも仮に倒せたとしても群れはどうするの?」
「こんだけ時間が経ってるのに群れのやつらが全く見えない。ヤツは今群れから孤立してる!」
「ちょっとまだ!?そろそろ体力の限界なんだけど…!」
ぜえはあと肩で息をしながらこっちを見てくるアンと心配そうな表情のフォルを交互に見る
「お前らに頼みがある!俺とアイツで一対一の状況を作ってくれ!」
「はあ!?アンタ何言ってんのかわかってんの!?またやられるわよ!!」
「頼む!俺を信じてくれ。」
「ッ…!!もう!知らないんだからね!」
そういうとアンは、ラルと雷狼を正面に見据え、右に展開していく
フォルもそれを見て、そういうことかといった風に左に展開する
フォルが位置に付いたのとほぼ同じタイミングで『炎幕!』と唱え、薄い炎のカーテンのようなものを作り出した
フォルもそれに合わせ『水幕!』と唱え、同じように薄い壁のようなものを作った
ラルは目の前の雷狼に視線を送り、深呼吸
雷狼はフォルやアンには目もくれず、ただ目の前にいるラルを見ている
突進の溜めが終わり、すぐにでも向かってきそうな雰囲気だ
ラルはチャキ…と剣を構え、今度は防御ではなく、しっかりと構えを取る
左足を大きく斜め前に出し体勢を低く、剣を顔の真横で構え、切っ先を相手に向ける
雷狼もすぐには向かってこない
お互いにらみ合っているこの時間は止まっているような感覚だった
その時ピカッ!と雷が落ちる時の光があたりを包んだ
雷狼はそれに合わせ、身体から光を放ちながら、突っ込んでくる
ラルも雷の光に合わせ、雷狼の姿が消える前に身体を動かす
自分の勘がこのタイミングだと言ってる
(今だ…!)
そう思うとラルは重心を左足の方へずらし、雷狼が通るであろう位置から少しだけずれる
あの速度なら剣を振る暇はない。
なら向こうが飛び込んでくる場所に刃を置く。
雷狼が横を通る前に切っ先をわずかに寝かせた。
雷狼は自らその刃へ飛び込むように脇腹を切り裂かれ、そのまま勢いを殺せず地面を転がった。
するとフォルとアンは幕を消し、ラルのもとに走ってきた
「すごいすごい!アンタどうやったの?見てたけど全然わかんなかったわ!」
キャッキャと今にも飛び跳ねそうなほど喜んでるアン
「兄さんは雷狼が雷を纏いながらだとまっすぐにしか突進できないのを知ってたんだね」
「だから一対一の状況が欲しかったのね。私やフォルが狙われて、カウンターができなくなると困るから!」
「んあ?アイツまっすぐにしか来れねえのか」
二人はポカーンとした顔をしていた
「アンタ気付かずにやってたの!?このバカー!」
アンがラルの両肩を掴んでぐわんぐわんと前後に揺らす
「い、いや向かってくるならそれに合わせればいいかなって思っただけだ…!一回突進受けてるし、速度はわかってるから…って俺ケガ人!優しくして!」
するとアンはハッと気づいたのか両手を離し、ラルを振り回すのをやめる
「いてて…まあなんとか勝ててよかった…」
二人には澄まし顔をしているが、手は震えており、心臓は痛いほど大きく音を出している
しかし今回の戦いで自分に戦える力があることが分かり、嬉しくなる
三人で勝利に浸っていると、遠くから『ワオーーーン!!』と遠吠えが聞こえてきた
「…っとのんびりしてる場合じゃないな。今の騒ぎを聞いて仲間の群れが来ちまう。その前にずらかるぞ!」
一目散に横道に向かうラル
それを見て二人はラルの方へ走り出すのであった




