第7話 商人と宿屋と路地裏の少女
「この町に泊まれるところはありませんか。日も落ちてきたのでこのままだと野宿になちそうなので……」
ポンポは僕の問いかけに一瞬考える素振りを見せるとお腹をポンと叩いた。
「ここから東にある中央広場に宿屋があるよ。お勧めは『香月』、信用できる宿だよ」
鈴の音を響かせ扉から出るとポンポの「珍しいものがあったら何でも持ってくるんだよー」と声が聞こえた。
それにしてもこの石畳は歩きやすい。クッション性の高いシューズを履いているかのようだ。見渡す限りに建つ西洋風の建物はゲームの中に飛ばされたようにも思えた。
「あぁぁ!」
思わず叫んでしまった。
みんなの視線が痛い。慌ててヘコヘコと頭を下げたりポリポリ掻いたりして誤魔化す。
ポンポの属性の理の言葉 、青水のことなんじゃ。『追っていると知られるだけで魔人に命が狙われる』という言葉が頭をリフレイン。湧き出る冷たい汗が背中を滴る。背中にべたつく気持ち悪い感触。
よしこのことは隠しておこう! 恐れが僕を決意させた。
焦った心は人々を訝しんでしまう。あの人か、この人か。あっちの人か変装しているのかもしれない……挙動不審を必死に抑えるが、目線だけは僕の心と裏腹にチラチラ踊ってしまう。
「あれ? 誰だろう」
宿屋と宿屋の間にある細い路地奥に座り込んでいる。賑わう人々の何人かは目線を向けるが気づかないフリをして通り過ぎていった。
「どうしましたか」
自然と足が向いた。見上げた女性は猫耳ヘアーの女の子、綺麗な菜の花色の珍しい髪型だ。
ダボっとした白いシャツに赤茶色の長いスカート、ゲームで言うところの村娘のような服装をしておりひどく汚れている。
「…………」
「どうしましたか?」
「…………」──プレートを指さして無いと伝えるように手を振られる。
路地に差し込む光が徐々に小さくなってくる。いくらなんでも女性をひとりこんな場所に残しておくわけにはいかない。
「こっちへ」
彼女の手を引いて走った『香月』と書かれた看板、「あった! 行くよ」と彼女を無理やり引っ張る。
体当たりする勢いで扉を開くと、入店を知らせる鈴の高い音が耳に痛い。宿にいたふたりの女性が慌てた顔で視線を向けた。眉間に皺をよせた毛虫を見るような視線。そんな状況はお構いなしに声を上げた。
「ふたりお願いします」
怪訝そうなふたりの女性、心の奥を読むような深い目線を向けられると、すぐさまスマイルに切り替わり「「いらっしゃいませー」」と声をかけられた。
彼女たちのスマイルに心の焦りを認識し冷静さを取り戻した。考えてみればそんなに急ぐことなんてない。
「僕と、彼女……ふたり分お願いできますか」
息を切らしながらフルフル首を振っていた。
「あなたたちが悪い人でないことはスキルで分かるんだけど、まずは事情を説明してもらってもいいかい」
大人の女性に椅子に座るように促される。木の円卓テーブルは食事に丁度いいサイズ、4つの椅子が置かれており座ると座面がフワフワしていた。
「ポンタさんにこの宿を紹介されて向かっていたら、路地裏で彼女が座り込んでいたので心配で連れてきちゃいました」
「私はここで女将をしている百合子って言うんだ。彼が手を差し伸べてたことを善意と感じるなら話しを聞かせてもらってもいいかい。悪意と感じるなら逃げた方がいい」
百合子の優しい問いかけ、猫耳ヘアーの女の子に視線が集まる。
服の上からプレートと口を交互に指さしながらフルフルする。何かに気づいたような顔をして女将の娘は立ち上がった。
「もしかして喋れないんじゃない!」
「|(゜ω゜)(。_。)《素早く首を上下に動かす》」
猫のように変わる表情が可愛い。指でテーブルをなぞっているが何かを書いているのかいまいち分からない。
「七桜、紙とペンを持ってきて」
「おっけー」
腰ほど高さのあるカウンター、そこからゴソゴソと紙とペンを持ってテーブルに置いた。
猫耳ヘアーの女の子はそれを拾い上げるとサラサラと文字を書き始めた。滑るように動くペン先を目で追ってしまう。
日向夏です。助けていただこうとしているのは分かるのですが、対価としてお支払いできるものが何もありません。
可愛らしい丸字、湾曲部分の滑らかさがたまらない……つい見入ってしまう。
「それで君はどうするの? 宿屋に来たんだから無一文って訳じゃなさそうだけど彼女の分も面倒をみてあげるの?」
百合子の言葉が突き刺さる。確かに宿屋は慈善事業でやっているのではないだろう。行きずりの女の子を拾うなんて下心がありそうに思われるかもしれないけど何故かほっとけなかった。
「ねえ 日向夏さん、僕はこの街のことは何も分からないんだ。ひとりだと寂しいし暫くこの街を案内してくれないか。対価として生活費は全て僕が払う。もちろん部屋は別にするよ」
「Σ(゜Д゜)」──ビックリする彼女、両目から涙が頬を伝わってテーブルを濡らす。申し訳なさそうな表情──
ぐぎゅるるるるる。盛大に鳴り響く 日向夏のお腹、頬を染めてうつむいた。
「女将さん、金貨1枚で2部屋とったらどれくらい泊まれるんですか」
「悪いけど、1部屋しか空いてないんだ。大きい部屋だからふたりなら大丈夫だから安心しな」
「んぐっ……」思わず身を引いてしまう。同年代の女性と一部屋、僕は良くても彼女は……。
目の前に紙をペラっと突き出される。そこには『わたしは大丈夫です』と書かれていた。
「決まったね。ポンポの知り合いだ、それで1カ月貸してやろう。ちょっと待ってろ」
カウンターの奥に消える百合子、お皿に乗った丸くて茶色いもの。甘い香りに一筋の感じる生姜の香り。
「お母さん特製のジンジャークッキーよ。お土産でも売ってるんだけど人気で直ぐに売り切れちゃうのよ」
「ほらお嬢さん食べな。お腹が空いているんだろう」
上目づかいで見つめるひなつ、物凄い遠慮しているのは表情で分かるが手は物欲しそうに動いている。
「ひなつさん、食べな」
大きくうなずくと『(o^-^o)』で食べ始めた。本当に猫のような女の子、ひとつひとつの動きも可愛らしく見ていて飽きない。
「百合子さん、支払いしちゃっていいですか?」
ポポンの仕草を真似て2本指でプレートを指さす。頭の中に『金貨1枚』を思い浮かべて女将に指を払った。
脳内に『金貨1枚を支払いました』の言葉、百合子の「ありがとうね」の言葉に続けて「ありがとうございました」と七桜の言葉が追いかけた。
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《登場人物紹介》
速水 三流 三流 ─ LV1 絶対パリィ
所持金:金貨999枚
日向夏 ?流─LV? ???
路地裏で助けた猫耳ヘアーの女の子。喋れない。
キクの街
宿屋香月
女将:香月 百合子 ??
看板娘:香月 七桜 ??




