第8話 生活の糧、ギルドと仕事
「ふぅ……ここに来てから色々あったなぁ」
普通の高校生活を送っていたはずがゲーム世界のような所に飛ばされ、勇者に祀り上げられたと思ったら騙されて『属性の理』と思わしき力を得た。
さらには蛙を売ったら大金をもらって女の子まで拾った……。なんていう激動の日々だろう。
ふかふかのベッドの上、頭の裏で手を組んで天井を見上げると西洋風の部屋が異国の地を実感させる。隣にいるひなつ。一体なんであそこに……って!
「服を脱がなくていいから」
何とかしてお礼をしようとする彼女を窘める。元々着ていた服は女将に洗濯をお願いして、借りた黄色いワンピースの寝間着に着替えている。
濡れた髪のまま猫耳ヘアー、お風呂後くらい解けばいいのに……。肩甲骨あたりまである髪が動くたびにフワフワ揺れて優しい石鹸の香りを振りまいていた。
いつまでも貯金で生活する訳にもいかないよなぁ。ひとりで寂しくないのは良いけど、ひなつが元気になるまでに生活の糧を作っておきたいな。
「ひなつ、ちょっと女将に相談に受付へ行ってくるから待っててね」
「(゜ω゜)(。_。)ウンウン」
最初はひなつさんて呼んでいたけど、呼ぶたびに左右に手を振って人差し指で力強く【ひ】【な】【つ】と大きく口を開くのでそう呼ぶようになった。
3階建ての香月は人気があるようで一歩廊下に出れば様々な人とすれ違う。初めて見る獣の姿をした人形と挨拶すれば不思議な姿にドキドキする。
さっきの獣人、カッコよかったなぁ。本当にゲームみたいだ。じゃあ人の姿に耳や尻尾が生えてる人もいるのかな……。
考え事をすると目線がつい上にいってしまう。周りが見えずに他のお客と肩がぶつかってしまった。深くお詫びをして階段を駆け下りた。
カウンターには両手を重ねて顎を乗せている七桜が半分瞼を閉じてうつらうつらしている。
「あれ、女将さんは?」
「お母さんなら仕込みをしてるよ。困ったことがあったら私が聞くね」
「この世界って職安みたいなところはないの?」
「職安? 何それ」
「うーん、仕事を紹介してくれるところだよ。職業斡旋所って言うのかなぁ」
「あ~、職業斡旋所ね。広場の北西にある大きな建物がそうだよ。いろいろ仕事はあると思うけど、タマサイに住民登録してないとギルド手伝いか冒険者ギルドにしか就けないよ。あ~、自分でお店を開くっていう手もあるけど」
「じゃあ明日当たり行ってみようかな」
「ギルドなら24時間やってるからいつ行っても大丈夫だよ。うちも募集してるから日向夏さんだったら喜んで採用するよ」
「ひなつ限定なんだ……。じゃあこれからちょっと見てくるよ」
「日向夏さんは私と違った可愛さがあるでしょ。きっといい看板娘になると思うんだよねぇ。お客が増えれば儲かるじゃん」
はぁ……商魂逞しいっていうかなんというか……。鈴の音を響かせ扉を開けると夜の匂いを乗せた風が吹き抜けてくる。日本なら6月の風といったところだろう。
空には半月が浮かび周りには星が煌めいている。日本にいた時とは違って多くの星が見えた……
「あれがギルドか」
宿屋の直ぐ近く、赤い屋根の大きな建物。ローブを着た者や鎧を着た者だけでなく普通の服装の人など多くが出入りしている。
開かれている2枚扉、緩やかなアーチ状の大きな扉が出迎えてくれた。
アーチ状の出入口を見ると心が重くなる。いい思い出がないんだよなー、仕方ない行くしかない。思い切って足を踏み入れた。
荒くれ者が依頼ボードを陣取ってあーだこーだ言い合ったり、受付に仕事を求めて長蛇の列が作られていることを想像していたがそんなことはまったく無く受付前はガラガラだった。
50畳程の部屋に幾つかの掲示板。中央にはカウンターが置かれ人がまばらに掲示板を眺めている。多くの人は奥に繋がる扉を行き交っていた。
「初めて見る顔だね。ギルド登録かな」
ふわふわした猫、豹柄のスラリとした獣人が座っていた。声からすると女性かな。
「は……はい。仕事を探そうと思って相談に来たのですが……」
「その顔、あなたは私のような姿を見るのは初めてかしら」
「いえ……宿屋で何人かはすれ違いましたが話すのは初めてで」
「そっかぁ。この姿はね転移組とこの地で生きる魔物の子孫なの」
「魔物との……子?」
「魔物と言っても魔人ね。ほら、人形だっていい人もいれば悪い人もいるでしょ。同じように魔人にもそういうのがあるのよ。私は転移組の母と父の混血なの。魔人の血が入ると転移組の元の容姿が強く出る場合があるの。いわば人形の希少種で亜人と呼ばれているわ」
不思議な話である。まあ世間一般の常識を持ち出しても仕方がない。受付と話している間、奥へと続く出入口を行き交う人は多いが、受付に来る者はいない。思わずチラチラと目線で追ってしまう。
「ギルドって暇なんですか?」
「まあ、この受付に来るのは転移したての人形か、転職希望者だからね」
「そうなんですか」
「君は何をしたいの?」
「とりあえず生活するために稼げればいいなぁと思ってます」
「じゃあ、冒険者ギルドかな。他のギルドでも良いけど国民じゃないとギルド手伝いになっちゃうの。働くのは1日単位だから冒険者が路銀が無くなったときに宿代を稼ぐ程度かな」
「転移組と呼ばれる人はどこに所属されるんですか?」
「うーん、説明があったと思うけど、その場で登録したなら話しを聞いた国だけど……」
(僕の場合は例外なのだろうか……そんなの無かったし……とりあえず冒険者ギルドに入って貯金をつかいながら考えればいいかな)
「では冒険者ギルドの登録をお願いします」
冒険者ギルド──
数多の依頼から好きなものを選んで達成すると報酬を獲得。依頼は難易度ごとにポイントが割り振られ、ポイントを稼げば昇格、ランクが高ければ難度の高い高額報酬の依頼が受けられるようになり一攫千金が狙える職業。
「じゃあ『登録』とイメージしてプレートからこの装置に必要事項を送ってください」
プレートに指を当て『登録』とイメージして装置に向かって指を払う。受付の亜人は装置を確認すると返すよう僕に指を振り払った。
脳内に『冒険者ギルドに登録しました。ランクは茶です』と響いた。
「三流さんは、ランクが三流でLV1だから文字通り1からの出発ですね」
「あっ、それ三流って読みます。ちなみにランクの三流って何のことですか?」
「所属国に対する貢献度だと思って下さい。一流~三流が一般的ですが、場合によってはその上にも下にも行くことがあります。でもあなたの所属国はブランクね」
「ブランク……ですか……」
「まあ登録したくなったらその町の長の所に行きなさい。途中登録はちょっと面倒なのよ」
「ありがとうございます。貢献度にギルドランク……そしてレベル、難しいですね」
「まずは村の近くでレベルを上げるところから始めると良いと思います。みるるさんはレベルが低いので基礎作りにもってこいです。もしお金が足りなくなったらアルバイトをして宿代を稼いでくださいね」
その後、細かい説明を受けた。依頼を受けたまま放置するとポイントが下がる。収集依頼は集めてから受けても良いが先を越される可能性があるとか、討伐の場合は先に依頼を受けていないとダメだが失敗するリスクがあるとか。依頼に関わる個人的な争いにはギルドは不介入、ケンカ程度ならいいが奪い合いや私闘は禁止。破ると罰則があるので注意するように言われた。
「ギルドランクが低いと受けられない依頼があります。最初は『茶』だからがんばってくださいね。以上で説明は終わりです。わからないことがあったらその都度お尋ねください」
彼女から『冒険者ギルドへようこそ』というぶ厚い冊子をもらって宿に帰った。
ギルドランク:
低い→茶、黄、橙、緑、紫、黒、赤、銀、金、白→高い
《登場人物紹介》
・速水 三流 三流: 茶:LV1:絶対パリィ
所持金:金貨999枚 冒険者ギルドに登録した。
・日向夏 ????
路地裏で助けた猫耳ヘアーの女の子。喋れない。
キクの街
宿屋香月
・女将:百合子
・看板娘:七桜
ギルド
・受付:ネコミ・バルキ
ギルドの受付嬢、サーバルキャットの亜人




