第6話 蛙牛の価値
「蝶のように舞い蜂のように刺す!」
剣は空を斬った。踊るように振り回し切り払う。
生み出す力を『青水』と名付けてかなり使いこなせるまでになっていた。
硬度も自由、形も自由に変えられる。
熱湯にすれば蛙を茹でることができ、お湯にすれば風呂に入れる。さらには傷を癒せる。とにかく万能なのだ。
「そしてっ、時は来た!」
何日も頑張った修行の成果が自信を高め、気持ちが溢れて拳を天に突き上げる。
「拳に青水を纏わせパーンチ!」
(表面を硬化し内側をクッション化することで拳を守り最大限のダメージを与える。僕の考えた最強の攻撃)
「盾は使わず服の下に纏わせ身に着けている事を悟らせない。パリィを失敗した際にダメージの軽減も可能。剣と盾を装備するのは気恥ずかしさもあり、考えるも却下している。ゲームでは体術系ばかりを選択していた」
大きな音を響かせ壁を殴り続ける。殴り続ける、殴り続ける。
蛙が絶え間なく出てくる穴の先、水の流れる音、風の通り道なのか、ドラゴンの咆哮の如き音が鳴る先に、(開けた場所があるに違いない)
「きっと、出口があるはずだ」
更に殴る、殴る、殴る、殴り続ける。
小さな破片を飛び散らしながら削れていく壁、殴り続けること数十分。
「やったぁ!」
小さな穿孔、弾ける小石が壁から剥がれ孔少しづつ崩していく。
ボロボロと崩れ落ちてくる。大きな石から小さな石まで剥がれていく。そしてとうとうトドメを指すような大きな石が剥がれ落ちた。
その先で見たものは。
2メートルほどのアーチ状の扉がぽっかり口をあけていた。淡く青い光に満ちてうねるように輝き、手ぐすねを引いているようにも見える。
「えっと、出発前に食料を調達しておかないと」
牛柄の蛙を1匹拾い上げて扉の前に立った。手にある蛙の柔らかな感触、この空気この匂い、寝食を過ごした空間を離れるのが寂しい。
「もう1泊だけしようかなぁ」
背中を押される衝撃に痛みを生じる。『早く行きなさ~い』と間延びした声が背後から聞こえた。
大きく腕を回しながらフラフラと扉に飲み込まれた。視界の端に瑠璃色の靄がチラリと見えた気がした。
「あぁぁぁぁぁぁぁ吸い込まれていく~」。手にはヌルッとした感触、脳内に『*理**ス**を**入**し*』と響いたが叫び声でかき消され良く分からなかった。
* * *
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
うねりを生じる青い光が流れる。
「落ちる、落ちる~」
激しく枝の折れる音、体を擦る葉、樹木が暴れる匂い、大樹の合間を地面に向かって落ちていく。近づく地面、寸前で青水を広げて直撃を免れた。
跳ね返った勢いが回転を与え重力が坂道へと誘う。右に左に草が纏わり緑汁を擦り付ける。草の匂い、土の匂いをたっぷり服に染みこませながら転がり続ける。
小さく盛り上がった斜面を転がり道の真ん中に放り出された。
「うっわぁ~」
強い衝撃とともに回転が止まる。土と草汁で描かれた幾何学模様が美しくシャツに彩られていた。
転がった先には二頭引きの馬車が止まっており、何者かが降りて様子を窺っている。
「君、大丈夫ですかな」
声のする方を見ると、立派な口髭を蓄え赤いスカーフを纏う初老の男性が居た。ケープを羽織り胸元には水仙のようなブローチが陽光を受け煌めく。
周囲に目をやり声の主に再び目を向けると、ようやく安堵して「あ、はい。なんとか」と答えた。
男は何かに気付いたようで、目を見開き視線の先は牛柄の蛙を持つ手に固定されている。妙に興奮気味の男は足早に近寄り、肩を力強く掴まれ鼻息も荒い。
無意識に体を反らし逃れようとするも、お構いなしに右手首を掴んで引き寄せた。
「こ、これはどこで?」
目の色を変え興奮気味に問う男。手に握られた牛柄の蛙をまじまじと見つめている。白地に黒い斑模様の蛙はホルスタインのようでもある。
「え?」
暫く過ごしていたあの場所では無限に湧き出るその程度の存在。何が男を駆り立てるのか理解が及ばなかった。
「この蛙。間違いない」
「あのー。これがどうしたんですか?」
「ぜひ買い取りたい。どうだね? 何なら買値も弾もう」
「えっと。欲しいんですか?」
急かされる感じで話し掛けている。気付いたような顔をすると、「ああ、そうだね。名乗ってもいなかった。ワシはポンポ。キクと言う街で商人をやっている」
「ポンポ……さん」
無理やり立たされると「ささ、気が変わらないうちに馬車に乗ってくれ」と言い、誘拐されるが如く馬車に押し込まれた。
乗り込むと座席に座らされ、ポンポが御者に声を掛けると馬車は走り出す。
馬車内で姿勢を正し男は徐に話始める。
「君はあれだろ。この地に飛ばされてきた人族だろ」
「知ってるんですか」
頭から信用は出来ない。この地のことは何も分からないし勇者様と騙されたばかりだ。
「その蛙牛を譲ってもらうサービスとして教えてあげよう。大丈夫だ情報料は取らないから」
ポンポの話によると、この地にいる人型を辿れば必ず転移者に辿り着く。元が人間だったり動物だったり……僕たちの考える亜人という生物や神も存在するようだ。
この地に存在した瞬間に固有スキルとプレートを与えられ、「鍵を集めよ」という言葉と共に放られる。しかし、こんな言葉を真に受けている人はあまりおらず、好き好きに生活をしている人が大半だと言う。
その積み重ねによって何年もかけて国が作られ経済が発展したことで今の世界になっているとの事だった。
「なるほど、そんな場所なんですね」
「でも、こっちに来た時に先人者によって教えられなかったかな?」
「そんなのありませんでした。あれ、ということはこの蛙は人形をしていないから原生生物ってことですか」
「その通り、食料になったり家畜になったり。魔物と呼ばれる生き物もいるから注意しなさい」
馬車から見えるのどかな風景を肌に感じる。日本の田舎とは違った見たことのない世界感。ロールプレイングゲームの中で街から街へ移動しているような気分になる。
揺れに揺られて約半日、キクの町に到着した。
兵士たちの鋭い目線の中、アーチ状の入口を馬車のまま通り抜ける。扉をくぐるたびに向けられる兵士たちの視線、妙な緊張感が漂う。
「これは、探知機か?」
通るたびに点灯する光、衛視たちの目線に疑問を持った。
その言葉を聞いたポンポは驚きの表情をすると、次第にウンウンと納得した顔へと変わる。
「そうだよ。あれはアーチ状の入口。あの形をしたものは全部ミリオンと呼ばれているんだ。あのミリオンで通った者のプレートにペナルティーがないかチェックしているんだよ」
町の中には石で作られた西洋風の家が並んでいる。外での風景、この街並みからゲーム世界に迷い込んだように思えて仕方がない。
整備された石畳の上を馬車は進んでいく。新幹線にでも乗っているかのように静かで揺れもない。聞こえてくるのはポンポの息遣いと賑わう人々の喧騒だけ。
そんな音も徐々に賑わいが薄れてくる。しばらく進んだ一軒の店の前で馬車が止まった。
今まで見た建物より立派な店構え、ウィンドウには綺麗に商品がディスプレイされている。店に入ると「おかえりなさいませ、ポンポ様」とスタッフたちが出迎えてくれた。
「ポンポ。様?」
「ああ、ここはソリカ商会の支店。私のお店さ」
「左様です。ポンポ・ソリカ様はこの店のオーナーでございます」と女性スタッフ。
「誰か、彼に新しい服を見繕ってあげたまえ」
ポンポの言葉と共に女性スタッフに試着室へと連れ込まれた。数名のスタッフが代わる代わる洋服を取り換え似合うものを見繕ってくれている、その様子をじっと見つめるポンポの目が怖かった。
「その汚れた服も売ってもらっていいかな。転移したての人族の洋服なんて珍しいからね」
商魂逞しい。
ポンポは服の上からプレートを2本指で当てると僕の方に小さく振り払った。
プレートを介して『金貨1000枚入りました』と脳内で聞こえた。
「みるるくんかな。君はなかなか見所がある。もしいつか『属性の理』というものを見つけたら持ってきて欲しい」
「『属性の理』?」
「そう、火や水など各属性に各1つ、全部で8個あるらしい。それを使えば自分の中に属性を取り込んで自由に扱えるという代物だよ」
「それは凄いですね!」
「情報だけでもいいんだ。こんなのを追っていると知られるだけで魔人に命が狙われ兼ねないからね。わざわざ聞き取らなくても、噂を聞くことがあったら教えてくれるだけでいい」
恐ろしい話しだ。まあ僕には関係ないことだろう。
僕の持つ青水が属性の理というレアスキルであることはこの時はまだ知る由もなかった。
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《登場人物紹介》
速水 三流 三流 ─ LV.1 絶対パリィ
所持金:金貨1000枚
青水にも随分と慣れた。ゲームのような世界に放られたが軍資金が入っただけありがたい。1枚あたりの価値は分からないけど……どうせなら電子マネーみたいにしてほしいなぁ。




