第42話 絆
「みるる様、お久しぶりでございます。再開がこのような状況で少し悲しくもありますが、わさびと約束した通り一仕合お願いします」
えっと……聞いてない。そんな話しは聞いてないぞ! 憧れの剣聖先輩を一蹴した魔人に勝てるとは到底思えない。
「みるる様、ユングと密約をしていたのです。どれが探している二人を匿う代わりにアトラク=ナクアにお灸を据えるって」
う、聖一先輩とふぁそらのことを持ち出されたら断れるわけがない。
「分かったよ、剣聖先輩が負けるくらいだからあんまり期待しないでね」
手をヒラヒラさせて頭を掻きながらアトラク=ナクアに対峙する。歪んだニヤニヤした顔がとても怖い。
「あんたがユング様のお気に入りかい。そんな軽装でアトラク=ナクア様の攻撃をまともに受けられると思わないことだね」
シミターの刃を舌先でベロりと舐める。学生時代にこんな状況に陥ったら恐怖で足は竦み、尻もちをついて後ずさりをしただろう。それが今やこんな状況になっても平然といられる。
勝ち負けよりも青水があれば死なない安心感が精神の崩壊を防いでくれているのであろう。
「みるる様、勝ち負けではありません。アトラク=ナクアにお灸を据えるのが役割ですからね」
「まったくユング様もわさび様もこのアトラク=ナクア様がその男に敵わないような言い方をしやがって。勝ったら上位魔人にでもしてもらおうかねぇ」
「アトラク=ナクア、いいですよ。妾が約束します」
「え、良いのかい。それなら本気を出さなくっちゃねぇ」
アトラク=ナクアの気合と共に腿下が蜘蛛の形へと変化していく。その姿は、真っ黒いクモ。身体は金属のように黒く光沢を帯びて節々が赤く光っている。頭から大腿部までが埋め込まれた黒髪の女性、手は鋭く長いシミターのような月型の刃に変態した。
うぉ……ジアンは煙になるし、アトラク=ナクアは蜘蛛に……魔人ってみんな姿かたちが変わるのか。
左指を4本立てる。魔人ジアンを倒したパンチで様子を見る。これでダメだったら5本にして体が動く限り頑張ってみよう。
「ちょ、ちょっと待て。やっぱヤメといてやるよ。さっきの弱っちい兄ちゃんで充分だ……疲れたから先に戻って休むことにするよ。お前ら、戻ってふたりをあいつらに合わせてやりな」
アトラク=ナクアは人形に戻ると、面倒そうに取り巻きを引き連れて中へと入って行った。
「え、え、え? 何故? 僕は一体何だったんだろう……」
体の中に溜めた気合が空回り、空気が抜けたように霧散して抜けていくのを感じた。
「さすがは妾が見込んだ殿方です。あなたの力に気圧されたようです」
指示倍加、このスキルはチート過ぎないか。英雄と呼ばれている剣聖が手も足も出なかった魔人をオーラだけで退けるなんて……。
「|\ ( * ⌒ ▽ ⌒ * ) /《笑顔いっぱい》」
「みるる殿、すごいでござるな」
「みるる様、魔人ジアンを退けたことでレベルが上がったようですね。あの時より力強いオーラを感じました」
仲間たちが褒めてくれる。悪い気はしないが照れ臭かった。しかし神妙な面持ちでこちらを見ている女性がいた。
――どれみ。
「どういうことなのみるるくん。幻族が強い者に惹かれるという話しを聞いていたからお願いしたけど剣聖くんを倒した魔人を退けるなんて……」
「い、いや……。偶然だよ。戦ってみたら分からないよ」
「まあまあ、どれみといいましたよね。あなたが探しているふたりは残念ですがここにはいません。人族としてのつながりを諦め別の形で一緒になったのです」
そう言って一つの珠を取り出した。水晶玉大の珠を……。
「すごいでござるな、いろいろな色が渦巻いているでござる」
「<●><●>」
ユングは珠を僕に手渡した。
「みるる様、その珠をその収納袋にしまっておいてください」
「えっ」と驚きの表情を見せるどれみ。確かにそうだ、直径15センチ程ある珠を普通に考えたらポケットに収納できるはずがない。
「ユングさんは僕のポケットを知っていたんですね」
小さく頷き答えた「わさびの角が見えるということはあなたが別次元とつながる何かを持っていると思ったからです。あなたの場合はポケットなのですね」
えっ……もしかして思いっきりカマをかけられたんじゃあ。確かにユングは収納とは言ったけどポケットとはいっていなかった」
「わたくしのユニコーンの角がある次元。みるる様のポケットがつながる次元、そしてその珠の中にある次元は全て繋がっております」
「(o゜-゜o)?」
「えっと……それはどういう」
ポケットの中にある次元の中に、同じ次元がつながる珠を入れる? 世界の中に世界を入れる?? 全然分からない。
「みるる様、妾が優しく教えてあげたいところですが今はそういうものだと思っておいてください。見えないけどきちんとある、そんな世界です」
「そっか、ある意味ふたりを守ってくれたんだね」
「いえ、そういう訳ではありません。この村は特に人形が嫌いです。もしどれみとみるる様の出会いが遅ければ殺されていたでしょう」
どうやら、僕がどれみと出会ったことで聖一とふぁそらのことをわさびが知り、ユングに伝えこの村を調べに来たところ、ちょうどふたりが辿り着いたようだった。
「ふたりの気持ちを汲み取り、ふたりの核をその珠にひとつとして封じたのです。それ以外の余った部分はアトラク=ナクアに、もう一つはみるる様が適任でしょうね」
ユングは僕にビー玉大の真っ赤な珠を渡した。手の上で転がる珠、動くたびに珠の記憶が僕の中に入ってくる。
聖一への想い、高校入学、中学時代、どれみとの思い出、両親、幼稚園、ファーストキスや初恋なんて記憶もあった。「姉さんごめんね。わたしは聖一と一緒になることにしたわ。もう普通の結婚は望めない。それなら……」僕の口を介して出てくる言葉。
崩れ落ちるどれみ、そのまま泣き崩れた。
「ではみるる様、その珠を青水を使ってどれみの体内に埋め込んでください」
「え?!」
「みるる様が見たのはふぁそらの記憶、その珠はふぁそら自身だと思って下さい。みるる様や他の人形に埋め込んでも良いですが、どれみが適任でしょう」
アトラク=ナクアが剣聖の脇腹を突き刺したのは、聖一の珠を体内に埋め込むためだったようだ。
「どれみはどうする? さっきの剣聖先輩を見てさすがに怖いよね。心が決まるまで僕が預かっていようか」
「みるる様、その珠はあまり時間を置くと消失してしまいますよ」
えっと、どうしよう。……「じゃあ、ぼくがふぁそらを受け取ろうか?」
「ΣΣ(゜Д゜;)」
「みるる殿、それはふぁそら殿をみるる殿の体に宿す……つまりひとつになるということでござるか」
「ウフフ、みるる様は浮気者ですねぇ。わたくしだとは思いますが誰が本命なのですか」
え、ええぇ……。これってそんなに深い意味があったのか。でも、人の体に埋め込むのは気が引けるよなぁ……。
「やるわ! 死んでもいい。大事な妹の魂ですもの。私がしっかり受け止めるわ。さぁやってちょうだい、思いっきり私に突き刺して」
どれみの表情は真剣。決意が体から溢れていた。
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《登場人物紹介》
・三流 LV35(??):衝撃波(絶対パリィ)
所持金:金2,260:銅1
・日向夏LV35(38):猫耳髪作成(言霊詠唱)
猫耳ヘアーの女の子。喋れない。
・餡子 LV35(32):武器長短
巫女のような服を着た女の子。聞こえない。
・山葵 LV35(25):精密射撃
ユニコーン族王女、オッドアイだが目が見えない。
※カッコ内は本来の値
IN 魔人の村
・どれみ 中学生の頃好きだった女性
・ユング 魔人の王女




