第36話 わさびの力
わさびの実力はどの程度なのであろう。この時レベルという数字に捉われてしまっていたのかもしれない。
「みるる様はパリィが得意なのですよね。わたくしは矢を真っすぐ放ちますので捌いてみてください」
小さく頷く。わさびは弓を構えるとどこからともなく光の矢が出現、ゆっくり弦を引くと一気に放った。
音もなく一直線に向かってくる光の矢、音もなく迫ってくる……。音がないというだけでタイミングが計りにくい、スキルを使う感覚に誤差が生じ一気に難しくなる。
フワンッ、ズドン!……捌いかれた矢が地面に突き刺さる。
「どんどんいきますわよ」
弓に自動的にセットされる矢、矢筒からセットする時間が無い分、速射された矢はレーザーとなって襲い掛かる。
渦のような軌道へと変わると、とても絶対パリィでは捌ききることが出来ない。青水手甲を使って軌跡を逸らしていく。
「すごい攻撃だね……。これはパリィ出来ないよ」
「みるる様、まだまだ行きますわよ」
攻撃が止んだ。目線の先一直線にある鏃、ギリギリと弦の音が聞こえてくる……が、その狙いはゆっくりと地面の方へ。
放たれた。狙いは足元、「どんどん行きますわよ」の言葉と共にあちらこちらに矢が居られる。全ての矢は地面へと突き刺さって行った。
ズドン、ズドン、ズドン……どんどん地面に突き刺さる。刺さった矢にえぐられたかのように破片が跳ねた。石に矢に木に様々な物が襲い掛かる。避けても避けても追いかける破片が不思議でならない。
「みるる様、ラストですわ」
放たれた1本の矢、中空で分散すると、時計の分針目盛りが如く広がって一気に襲いかかってきた。連続した攻撃はパリィできず青水シールドで全てを防ぐしかない。
これって……青水が無かったら絶対にヤバかったやつだ。タカトスの衛視に言われた『レベルは頑張れば上がる。しかしスキルだけは持って生まれたものだから変えようがないからな』という言葉が思い返される。
ひなつ、あんこ、ミミは『( ゜д゜)ポカーン』といった表情。
「わさびの攻撃は凄いね。弓に矢はどこから出てくるの」
「これは角を介して魔力を物体に具現化するユニコーン族の固有スキルです」
「じゃあどんなものでも出せるってことだよね」
手に握られた弓が剣へと変わり、斧へと変わり、槍へと変わる。
「そうです。具現化には魔力を伴うので、魔力値の低い個体は変化をあまり伴わない武器を選択する傾向にあります」
「外れた矢が地面で爆発して跳ねた石とかが僕を狙ってきたけど……そんなことまでできるの?」
「あれはあみるる様も知っている『激運』スキルです。なので、狙った訳ではなく、たまたまみるる様に飛んでいったと思って下さい。難点はわたくしの矢にはひなやあんのような威力がないことです」
「あれで威力がないの?」
「ええ、爆破魔法が付与された普通の矢と同じといったところでしょうか」
ん? 爆破魔法が付与された普通の矢? 良く分からない……でも、普通の矢より威力が高いことだけは分かる。
「それなら激運スキルで石とかを跳ねてぶつけるより直接狙った方が強いんじゃないの?」
「こういった場所ならそうかもしれません。矢の軌道って読みやすいですし、曲げるとその分威力が弱まりますので、わたくしにすら分からない攻撃が激運スキルによって生み出されれば相手は避けにくいです。特に落石や地割れが起こりそうなところだと効果が高いんですよ。そして」
「そして……?」
「何かが起こることがあります」
「?」
わさびは矢を真上に向かって放った。真っすぐ上空に向かって飛んでいく。
「キャーーーー」
遠くから聞こえる声、小さく見える3人と追いかけてくる巨大な蟹、あれ? 蟹なのにまっすぐ走ってる。
各々が叫び声を上げながらこちらに駆けてくる。どうも蟹に追いかけられているようだ。
「ごめん」と男が一言発して横をすり抜けていく。蟹のターゲットがこちらにロックオン、巨大な足音を響かせながらわずかに向きを変えてこちらに突っ込んできた。
──ストン。上空に放たれた矢が蟹に直撃。蟹の生気が薄れそのまま前に絶命した。
「と、いう訳です。きっといい場所に刺さったんでしょうねぇ。でも激運スキルはみんなには内緒ですよ」
人差し指を唇に当ててウィンクするわさび。
「みるる殿、わさび殿、この蟹は旨そうでござる。調理しても良いでござるか」
「あらぁ、あん、それはいい考えですね。今日はカニ鍋にしましょう」
「(ღ✪v✪)」
「じゃあ足を切り落として食べやすい大きさにするでござる」
袂から刀を取り出すあんこ。目と口は既に蟹鍋に意識が乗っ取られているようにさえ思える。
「そういえばあんこはわさびに応答してなかった?」
「そういえばそうでござるな。普通にわさび殿の言葉が聞こえたでござる」
トンットンッと角をつつくわさび、「これですわ。直接思念をあんに飛ばしたらうまくいきました」
「(o゜-゜o)?」
「なるほど、ユニコーンの角ってなんでもできるんだね」
「なんでござるか、角? わさびの額に角が生えているでござるか?」
「まあいいじゃない。ほら、蟹を早く調理しないと鮮度が落ちるわよ」
和気藹々と夕飯の話しで盛り上がったころ、
「あの……」
ひとりの男が話しかけてきた。
蟹に追われていた3人組。可愛らしい女の子、太った男、スリムな男。どうやら冒険者のようだ。
あんこが着地、『パチン』と鞘に収めた音に反応したように大きな蟹は崩れ落ちた。
「ああ、すいません。みんな蟹鍋が食べられるって夢中になっちゃって」
「いえ、私たちの方こそ申し訳ありませんでした。海辺で今日の食料を確保しようとスモクラブを探していたら、ジャックラブに見つかっちゃって逃げてきたんです」
「ホント申し訳ありませんでした」
女性に続いて男たちが深々と頭を下げた。
「そうだったんですか、もし良かったら一緒に夕食でもどうですか」
「え、本当ですか! 助かります! 今日は夕食抜きかぁって困っていたんです」
「ちょっとセイロン、こんな所で小屋を作っている人たちを簡単に信用していいのかよ」
「利幸はいつも慎重すぎるんだな。もう少し気楽に生きた方がいいんだな」
「そうそう、ポンヤの言う通りよ。利幸はもう少し気楽に行きなさい」
にぎやかな3人組を交えて蟹鍋をつつくことになったのだった。
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《登場人物紹介》
・三流 所持金:金2,422:銀1大銅1銅1
ロンリに向かう前にサバイバルスキルを身に着ける
・日向夏
猫耳ヘアーの女の子。喋れない。
・餡子
巫女のような服を着た女の子。聞こえない。
・山葵
ユニコーン族王女、オッドアイだが目が見えない。
通りすがりの冒険者
・セイロン 可愛らしい女の子。同じ年位。
・ポンヤ パンダ体型の男性
・利幸 普通の男性、慎重らしい。




