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第34話 ギャンブルの呪縛

「わーい、みるる様~勝ちました」


 今までのクールな印象から一転、両手を挙げて子供のように喜びながら抱きついてきた。


『金貨1,524枚(*1)が支払われました』 ──脳内に響く声



「ちょっとわさび、これは君が勝ったんでしょ。僕はこんな大金いらないからわさびが持ってなよ」

 

 手が震える。体の中に目の眩むような大金があると思うと安心できない。財布に10,000円入っていただけで何度もポケットを確認してしまう僕にとって。

 あ、ひなつたちが金貨100枚を拒否したのはこういう感覚か!


 抱きついたままわさびは、耳穴に吐息を当てるように小さく呟いた

「わたくしは激運スキルをもっていますの。賭け事で負けるなんてありえません。彼には折角稼がせてあげたのに最後に余計な欲を出しちゃいましたね」


 僕の友人を助けてくれようとしてくれたんだ。でも虎太郎先輩は金貨200枚の借金を作ったけどこれからどうするんだろう。


「みるる様、ここで彼を助けてしまってはあの人のためになりません。他にも勝負に負けた人たちもいます。同じように借金を作った方もいるかもしれません。荒療治にはなりますが、暫くは賭け事の出来ない極貧生活を送ってもらって下さい」


 この場で助けたらまたギャンブル生活に逆戻りだろう。この世界に来てから元いた世界で僕たちがいかに守られていたのかが分かる。明日は我が身、仲間を守るためにここは心を鬼にしなくては。


「分かった。もし次に会った時、桜子さんを泣かすようなことをしていなかったら助けることにするよ」

「そうですね。それで良いと思います」


 

 その夜、酒場に来ていた。いつもは賑やかな雰囲気だが客もまばらに落ち着いていた。人が少ないせいか話題は筒抜け、賭場(カジノ)の話しでもちきりだった。


「なんかよー、賭場(カジノ)で大勝ちした奴がいるんだってよー」

「だからか客が少ないのか、みんな絞られちまったのかもな」

「そういえばよ、調子に乗って大負けしたバカがいるんだってよ」


 

 聞いてて後ろめたい気持ちになってくる。 


(o゜-゜o)?(ハテナ)

「ごめん、なんでもないんだ。知り合いの先輩が立ち直ってくれたらいいなぁってね」

「みるる殿、意味が全く分からぬでござるよ。昼間にわさび殿と行った()()()とかいう場所が原因でござるな」


「みるるくん、ちょっと一緒にいいかしら」


 首を垂らし力なく声をかけてきた女性、桜子さんだった。


「桜子さん……ごめん」

「うんうん、いいの。今日はお客さんが少ないから久しぶりに友人とご飯を食べてきなさいってマスターが」

「そっか……」

「あのね、最初はとても優しかったの……」



 桜子は語り始めた──


 虎太郎とはこの場所に飛ばされて知り合ったの。学校で話したことは無かったんだけど同郷ということもあって一緒に働いているうちに惹かれ合って付き合うようになったの。

 でもね、私には人の酔いを抑える『酒精軽軽』スキルがあったおかげで収入が高くなったの。……それがいけなかったのね。最初は良かったんだけど彼にとって面白くなかったみたいで


「そんなことがあったんだ」

「男のプライドというやつですね」

(o゜-゜o)?(ウンニャー?)


 あんことミミはシリアルな雰囲気をよそに楽しそうに雑談をしながら食事をしている。


「最初は勝ってたのよ。その快感が忘れないようでどんどん深みにハマっていったの」

「ビギナーズラックを自分の実力と勘違いしたのでしょうね」

「桜子さんはこれからどうするの?」

「わたしはこのままここで働くわ。1年1年彼の気持ちを見定めていこうと思う。ほら、私たちってまだ17歳じゃない。高校じゃあ彼氏と別れるなんて話は日常茶飯事だからね」


 桜子の目には涙、手が震えている。ぐっと我慢しているのだろう。


「桜子と言いましたね。君たちはまだ若い、いくらでもやり直しがききます。彼がまじめになって戻ってくるのか。はたまた堕落し続けるのか見定めてあげなさい」


「ハイ。虎太郎は兵士として借金を返しながら働くことになりました。きっと肉体的にも精神的にも立派になって戻ってくると思います」

「虎太郎先輩の更生を祈っているよ」


p(*^-^*)q(この料理美味しい)


「さーて、話もまとまったことだし食事にしようか……って、あー」


 テーブルに置かれた皿は空、既にあんこたちによって平らげられていた。


「みるる様、わたくしたちも食べましょう。マスターどんどん持ってきてください」

「桜子さんもどんどん食べてね。虎太郎先輩のお祝いは更生してから開こう、今日は桜子さんの新しい門出となるお祝いパーティーだね」


 僕たちは閉店するまで飲んで騒いで楽しい時間を過ごしたのであった。



* * *




「じゃあ桜子さんまた来るね」


 大きく手を振る桜子、僕たちは国境を超える許可を得るべくスカイブ首都に向かうのであった。


「スカイブってどんなところだろう」

「わたしは言ったことないけど、とても巨大な町だと聞いてます。わたしたち隠れ里(アイソレイト)の民は怖くて入ったことがありません」


「そう、そのことなんだけどちょっと試したいことがあるんだけどいいかな」

(o゜-゜o)?(ナニナニ)

「みるる殿、どうしたでござるか」

「みるる様が行くところならどこにでも行きますわよ」

「みるるさん、どこに行くのでしょうか」


「ミミ、北の方に向かってもらっていいかな。みんなの実力を知っておきたいんだ」


 この世界は僕が生きてきた世界とまるで違う。いつ何が起こるか分からない。彼女たちを守るためにも彼女たちの力を知る必要がある。そして瑠璃色の靄に言われた『過ぎたる力は異端、どの国でも迫害されてしまうかもしれない。なるべく彼女たちと協力して力を隠しなさい』という言葉を思い返す。


 あの言葉が正しいとすれば、緊急時以外は守ってもらう必要がある。それが彼女たちを守ることにもなるのだから。

==========

 *1:日本円で約76,200,000円

《登場人物紹介》 

 ・三流みるる 所持金:金2,422:銀1大銅1銅1

   ミミをデミハーフの村に送り届けるのが今の使命   

 ・日向夏ひなつ

   猫耳ヘアーの女の子。喋れない。

 ・餡子あんこ

   巫女のような服を着た女の子。聞こえない。

 ・山葵わさび

   ユニコーン族王女、オッドアイだが目が見えない。


 ・ミミ

   ハーフデミの子、馬車を牽くのが得意。意外におませさん


○欲望と情緒のマタシバ

 ・桜子さくらこ 酒場の看板娘

  高校のクラスメイト。お酒の味はそのままに酔いを抑えるスキル(酒精軽軽)をもっている。

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