第33話 わさびのスキル
「すごいなぁ、ここ」
太陽は傾き赤い光が世界を照らしている。場所は賭場場前、派手な建物の前にドキドキしながらわさびと立っていた。
カジノと言えば蝶ネクタイをした紳士や、ドレスアップしたレディたちが気品漂わせゲームを楽しんでいるイメージがあったが、そんな人はほぼ皆無、普段道理の格好で出入りをしていた。
「みるる様、着ている洋服で金持ち度や人脈を作るべき存在か把握するのです。これから先、長い目で見ればきっと役に立つこともあるでしょう」
赤い絨毯の敷かれたお城のようなエントランスを抜けると巨大な空間が広がっている。正面にデカデカと掛けられた案内板には、地下1階はお金やコインを使ったショップが立ち並び、1階、2階は宿泊スペース、3階と4階に賭場が広がある。
「5階~7階は何も書かれてないけど、何があるんだろう」
「お客様、5階より上は名誉会員様だけになります」
さっとコンシュルジュらしき亜人に声をかけられた。どうやら初めて来たことを見破られたのだろう。
「みるる様、口が開いていましたよ」
「ははは、冷静なフリをしてもやっぱりドキドキしちゃうね」
「雰囲気だけには飲まれないようにしてください。でもみんなを置いてきてしまって良かったのですか」
「うん。なんか彼女たちの保護者のような気持ちになっちゃって……人をダメにするギャンブルを見せたくないなぁってね」
「ウフフ。身の丈にあった遊び方をすればとても楽しいのですよ」
わさびに渡したのは金貨100枚、これで一体どうしようというのだろう。
「みるる様、あそこ」
一般人が入れる最高レートの場所。順調に勝ち進んでいるのか見たこともない笑顔で喜びを表現しウハウハの虎太郎先輩がいた。
「先輩……」
なんだろう、とてもいい笑顔だが嫌悪感しか沸かない。
「みるる様、もう少し様子を見てください」
順調に勝ち進む虎太郎先輩。ウハウハで闊歩している。
「よっしゃー! コイン1000枚いったぜー!」
叫ぶ虎太郎先輩。あんなにホクホクして狙われたりしないのかなぁ。
「それではみなさん、スペシャルイベントが開催されます。参加希望者は中央テーブルにお集まりください」
館内放送が流れるとザワザワしだす場内。所々で「行くぜー」やら「見に行こうぜ」と盛り上がりをみせる。
「じゃあみるる様いきましょう」
※金貨100枚(日本円で約500万円)=コイン1000枚
円卓テーブルに座ったのは10人。その中には虎太郎先輩がいる。ちょうど対面向き合うようにわさびが座った。
「それでは本日のスペシャルイベント『最強ギャンブラー』を始めます。ルールは簡単、……」
①最低賭金コイン100枚 (金貨10枚)からスタート
②参加者全員が同意するまで賭金をつり上げていく。途中で逃げることも出来るが現状の賭金を支払う義務が生じる。
③残った参加者全員の同意を得た時点主催者1名をプラスする。 (=挑戦者)
④挑戦者でさいころの目を予想、6名以下ならサイコロ1個、12名までなら2個を使う。
⑤予想できる数字は挑戦者で平等に分ける。端数は主催者を除いた挑戦者でジャンケンをして決める。
⑥サイコロを一投、出た目を予想した者が勝者となる。
⑥勝者は集まった賭金を総取りし、同額を主催者から支払われる。
緊迫した雰囲気の中、わさびが唐突に「わたくしは先に宣言しておきます。勝負からは絶対におりませんし、最終勝負での予想する目は1つで構いません」
なっ、なんてことを言うんだ。周囲がザワザワ騒ぎ出す。そんな状況でも主催者は冷静、「分かりました。その言葉は覆りません」と一言。
「もちろんです」
笑顔でわさびが返すと、主催者は「それではみなさま、中央にプレートを接続してください」と告げる。
参加者がプレートからテーブル中央に向かって指を払うと、合成音声で「プレートの接続が完了しました」とアナウンスが流れた。
「それでは、つり上げタイムです。プレートに入っているコイン以上に賭ける事もできますが、借金になりますので注意して下さい」
審判の開始の合図によって『最強ギャンブラー』の幕が開けた。
「110枚!」……「115枚」……
徐々につり上がる賭金、留まる事をしらず上がっていく。
わさびは目をつぶったまま黙って様子をうかがっている。虎太郎先輩は対照的に前のめりになって血管が浮き出る程に力強く拳を握りしめ鬼のような形相。
「150枚」、「151枚」、「152枚」……
150枚を超えたあたりから、参加者は1枚づつ刻んでくる。今の所脱落者はいない。参加者の顔に汗と緊張が浮かび始めると、
「500枚」
わさびの一言に会場がざわついた、「やってらんねぇ」「なんだこの女は」と4名が脱落。
「では、800枚」
とわさびの一言で「何だこの女、捨て身か……」と下りていった。
「まだいける、まだいける、これで勝てば……」
虎太郎の目が血走る。
「せん、1000枚でどうだ!」
大声で宣言する虎太郎。この言葉で3人が下りた。どれだけアドネラリンが出ているのだろう。……恍惚の表情を浮かべる虎太郎、小さくガッツポーズが見えた。
「よし、この勝負もらった! そこの女はサイコロの目を選ぶのが1つ、残った5つのうち端数は客だから俺は3つ選べることになる!」
「2000枚、あなたがこれに乗れば勝負しましょう」
「ぐぐぐ……」
わさびの一言に歯ぎしりが聞こえてきそうな程の虎太郎。いつのまにか野次は消え失せ、まばたきをするのも忘れてしまう。
「ぐぐぐ……うぅぅ。ここで負けたら俺はまた逆戻りだ」
力強く握られた拳からは僅かに血液が流れていた。
「どうしますか?」
虎太郎は思いっきり立ち上がり、叫ぶように「のった! 俺は金持ちになるんだ! 勝率は50%、絶対に勝ってやる」
「それでは、賭金である7,620枚と主催者支払い分7,620枚。総額15,240枚を賭けてサイコロの目を振ります。どうぞ参加者側からお選びください」
「わたしは残った数字1つを選ばせていただきます。あなたから3つどうぞ」
あっけにとらわれる虎太郎、すぐさま自分を取り戻し、「1,3,5だ」とテーブルを叩く。
「それでは主催者側は、2と6を選択します」
「ではわたくしは4ですね。もしよろしければイカサマをしていないという証拠にあそこの彼にさいころを振ってもらってはいかがでしょうか」
わさびは虎太郎を指名。主催者はそんな勝手を許すのであろうか。
「いいでしょう。当賭場はイカサマはありませんのでその要望にお応えしましょう」
小さなサイコロが虎太郎に手渡される。受け取る手は震え、今にも死にそうな顔をしている。
「それではお客様、このラインを超えるようにお投げください」
いつのまにか観客は増え一切の音が消える。多くの客がいるフロアが静まり返っていた。
震える手を左手で抑えながら「頼む」と小さく呟き、賽は投げられた。
空中で激しく回転する。今までこれほど注目されたことがあったのだろうかとというほどにサイコロに集まる視線を感じる。
──ストン
サイコロは半円状の窪みに落ちた。衝撃を吸収されたように跳ね返ることもなく留まり中央に滑っていく。その目は『4』。
割れんばかりの歓声が会場を包む。と同時に、虎太郎の人生が終わった瞬間でもあった。
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《登場人物紹介》
・速水 三流 所持金:金999:大銅1銅1
ミミをデミハーフの村に送り届けるのが今の使命
・日向夏
猫耳ヘアーの女の子。喋れない。
・餡子
巫女のような服を着た女の子。聞こえない。
・山葵
ユニコーン族王女、オッドアイだが目が見えない。
・ミミ
ハーフデミの子、馬車を牽くのが得意。意外におませさん
○欲望と情緒の町
・桜子 酒場の看板娘
高校のクラスメイト。お酒の味はそのままに酔いを抑えるスキル(酒精軽軽)をもっている。
・虎太郎
ギャンブルで金貨200枚の借金を作った。




