第32話 虎太郎の事情
「いやぁ美味しかったなぁ。お金払っちゃうから外で待ってて」
いつの間にか混雑した店内。迷惑になってしまうので、彼女たちには外で待ってもらう。
費用は銅貨1枚ほど、便利なもので注文した記録はプレートに自動保存され、支払いをイメージするだけで指を払えば支払える。
「おい、さっき出て行ったの死神じゃないか」
「まさか、こんな町にはいないだろ」
入口付近で飲み食いしていた客が不穏な話しをしていた。思わず身を乗り出してしまう。
「すいません、死神って何ですか」
必死な表情で話しに割ったせいで、客は目を見開いて驚くと、大きくため息をついた。
「さっきの黄色い姉ちゃんだけどな、『死神』と呼ばれる女に似てたんだよ。魔人を呼び寄せ一緒にいる者を死に至らしめるってな」
「そそ、そんな女の人がいるのですね。え、えっと彼女は違いますよ。うん、違います。僕はこの世界に来た時から彼女と一緒にいますので」
「そうか、俺たちの勘違いだ。それは悪かったな」
「教えてくれてありがとうございます。僕も似た女性を見かけたら気を付けます。そうだ! 僕に食事を奢らせてください。冒険者にとって情報は貴重ですからね」
「桜子さん、この人たちの食事を奢らせてください」
僕はプレートから桜子さんに向かって『金貨1枚』を指で払う。「残った分は桜子さんへのチップにしてください」と店を出た。
ひなつが死神。出会いを考えると逃げてきた? ──「いてっ」
扉の下桟に足を引っかけて転んでしまった。
「|"( *´д)/o(_ _)o」
「大丈夫でござるか」
「みるるさん大丈夫ですか」
ひなつ、あんこ、ミミが慌てて起き上がれせてくれる。わさびはじっとこちらを見つめていた。まるで揺れる心を見透かしているように。
──その夜
神社に来ていた。境内の隅にある石椅子に座って空を見上げる。夜は更け月は十日夜の月は涙の形に見えた。カジノの方が明るいせいか星も少なく見える。
「死神か」
空を見上げる。初めて会ったひなつの状況と酒場での言葉。たった2つの出来事が絡み合い色々なことを想像させる。
「みるる様、ひなのことを考えていたのですね」
「……わさび」
「死神ですか。ひなつのことですね」
「わさびは知ってたの?」
「ええ。スキルのせいですね。みるる様と出会うより前、この町で見かけたことがあります。Sランクのスキル反応がありましたから異魔人を引き寄せていたのでしょう」
「ああ、そういうことか」と口からもれる。思い返すと初めての依頼で冒険者がふたり、アイソレイトでホッキョクが……それもこれも異魔人のせい。やっぱりひなつを狙っていたのは気のせいじゃなかった。
「その感じは心当たりがあるのですね、不思議と今はSランクの気配が消えています。あれなら異魔人を引き寄せることはないでしょう」
「不思議な世界だよね。何者かにスキルを与えられ、鍵を集めてもいいし好きに生きても良いって……鍵を集めた先に何があるのだろう」
「そうですね。それは幻族である我らにも分かりません。『シンオウ』なるものが──」
「──頼む! 明日こそは絶対に勝たせてくれ! 金貨1枚が手に入った。これで勝てば借金を返せるんだ!」
拝殿に向かって叫んでる男がいた。「虎太郎先……輩?」と口をつく。髪は乱れ必死な形相。あまりにも変貌した姿に声をかけることが出来なかった。
「釈梵天様は勝負の神様なんだろ! 借金をチャラにしたら賽銭を恵んでやる。絶対に勝たせろよ!」
吐き捨てるように腕を振り払い帰って行った。擦れ違うように拝殿へと走り寄る女性。桜子さんだ。
「釈梵天様ごめんなさい、彼はおかしくなっているだけなんです。普段は優しい人なんです。だから……だから彼のことを許してあげてください」
桜子は深くお辞儀をする。頭を上げたと同時に振り返って虎太郎を追うように走りだした。
「待ちなさい!」
ビクッとする桜子、時季外れな一筋の冷風に震えるようにこちらに顔だけ向ける。
「みるる様のご友人、あなたは何かを勘違いしています」
腕に手を絡ませ引っ張られながら参道へと歩いていく。わさびの顔つき、怯える桜子、交互に目線を移す。
「みるるくんとわさびさん? 怖い人に声をかけられたのかと思ってビックリしちゃったよ」
「本来なら手助けなんかしませんが、みるる様のご友人とのことなのでアドバイスをさせていただきます」
「アドバイス。ですか?」
「あなたと虎太郎という方がどういう関係かは知りませんが、男をダメにしているのはあなただということに気づきなさい」
「わたしが彼をダメにしている?」
「わさび、どういうことだい」
「彼女は、落ちぶれた彼を自分が何とかしなくてはならないと思っている」
「そうよ、彼は私がいないとダメなの」
「それは、男がギャンブルに依存しているようにあなたは彼に依存しているのよ」
「わたしは虎太郎に依存なんてしていないわ。虎太郎を助けたいだけ」
どういうことかサッパリ分からない。友人を助けようと思う心が依存している?
「みるる様、彼女は彼をダメにするだけです。真っ当に生きる機会を潰しているのです」
「生きる機会?」
「そうです。食料の捕り方を教えるのではなく食料を与えるだけの甘やかし。ダメにしているのに彼を助けているという自分に酔っているだけ」
「みるるくん、この人さっきからなんなのよ!」
「さっき彼が金貨1枚手に入ったと言っていました。あんな状態でお金が手に入るとは思えません。きっと彼女がギャンブルをやるお金を渡したのでしょう」
桜子は酒場で渡した金貨1枚。僕が奢ると言ったお客が「失礼なことを言ったのに奢ってもらう訳に行かない」と、お金を払っていったようだ。そのお金を僕に返そうとしたが、彼に話したら資金があれば増やせると言われて渡してしまったらしい。
「みるる様、あそこまで依存状態になったら治すのは無理です。わたしが彼に引導を渡しますので金貨を100枚ほど融通してもらっていいですか」
「それって大丈夫なのか? 引導って……」
「ええ、一度彼と彼女には離れてもらう必要があります。荒療治にはなりますが、それで彼が這い上がってこれる落ちるかですね」
僕はわさびに言われた通り金貨100枚を渡した。
「みるるくん、そんなにお金を持ってるなら彼にも貸してあげて。そうすればきっと満足してギャンブルも止めると思うの」
彼女の言葉に僕は「ごめん」としか言えなかった。
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《登場人物紹介》
・速水 三流 所持金:金899:大銅1銅1
ミミをデミハーフの村に送り届けるのが今の使命
・日向夏
猫耳ヘアーの女の子。喋れない。
・餡子
巫女のような服を着た女の子。聞こえない。
・山葵
ユニコーン族王女、オッドアイだが目が見えない。
・ミミ
ハーフデミの子、馬車を牽くのが得意。意外におませさん
○欲望と情緒の町
・桜子 酒場の看板娘
高校のクラスメイト。お酒の味はそのままに酔いを抑えるスキル(酒精軽軽)をもっている。
・虎太郎
真面目で男子剣道部ではベスト5に入る実力者で合った。今はギャンブルに依存してどうにもならない状態に。




