第31話 桜子の事情
「すごいなマタシバは」
国境で買った地図を見ていた。――V字型の町で中央を分断する基幹道路が通り、西には賭場を中心に建物が配置され、東は情緒あふれる住宅――
「みるる様、この場所にわたくしたちの隠れ家があるのでそこを使いましょう」
東の住宅エリアにある1軒、一際大きな古い温泉宿にあるような情緒豊かな和風の建物、隣には神社が面していた。
昔は神社に良く願掛けにいったなぁ。実家の近所にあった大きな銀杏の立つ神社を思い出す。
「みんなは先に休んでいて、僕は町を把握しておきたいんで」と建物を後にしようとすると、
「σ(o^_^o)」「拙者も参るでござるよ」ど一緒に行くと言ってくれたが、神社に願掛けに行くなんてしられるのはなんだか恥ずかしい。「長旅の疲れをゆっくり癒してね」とひとりで足早に向かう。
鳥居には釈梵天神社と書かれた石板が掛けられ、長い石畳の先に小さく本殿が見える。
なんか懐かしい。拝殿にぶら下がっている大きな鈴と吊るされた麻縄、子供のころに思いっきり振って鈴を落としたっけなぁ……ふふ、あの後すごく怒られたっけ。
石畳をあるいていると、横切るように吹き抜けた風に乗った葉が頬にあたり現実に引き戻す。目線の先には拝殿に向かってお祈りをしているひとりの女性がいた。
「あれ?」
日によって作られた長い影がさらに長くなっていく。そんな様子を遠目に見ていると、拝殿に大きくお辞儀をして振り向いた。
「あれ……桜子さん?」
高校のクラスメート、あいさつ程度しかしたことないが将来看護師になりたいと友人と話しをしていたのを覚えている。
僕の気配に気づいたのか、「あれ? みるるくんじゃない」と返してくれた。
彼女の目の周りには涙痕が目立ち、瞼は赤く腫れぼったい。視線に気づいたのか目をこすると誤魔化すようにドモリ、「ひ、久しぶりねぇ、こんな所で会うってことは賭場の願掛けかなぁ」と愛想笑いを浮かべる
「そういえばここは賭場があるってわさびが言ってたな」
「山葵? お寿司のさびが喋るの?」
「いや……わさびって一緒に旅をしている仲間なんだ」
……
「あっ、私そろそろ仕事があるから行くね。酒場で働いているから今度そのわさびさんって人と遊びにきてね」
靴音を響かせ石畳を走って行った。徐々に遠くなる足音にさっきの涙痕が重なって不安が募る。いくら話したことがないと言ってもクラスメイト、なんとかしてあげたいという気持ちが強かった。
「みるる様、さっきの女子のことを気にしておられるのですな」
本殿からゆっくり歩いてきたのはわさび。
「あれ、なんでここに? それより目が見えないって言ってたけど大丈夫なの?」
「この神社は幻族のアーチ状の扉がありますので。ここは人形が神頼みをする生物ですので情報収集も兼ねている場所でもあります」とクスリと笑った、「目は気を感じとれば見えているのと同じですので御心配には及びません……でも、みるる様のお顔は拝見したいですけれども」
そのまま歩みを続けるわさび。あっ──
石畳に落ちていた小石に足をとられ前方に飛ぶように倒れこむ。慌てて彼女を受け止める。まじまじと見つめるオッドアイは吸い込まれそうなほどに美しい。
そんな目心の奥底を見透かされているようにも思えた。
「わさび、大丈夫?」
「ふふふ、ありがとうございます。そんな不安な気を出さなくても大丈夫ですよ。わたしはなんとなく気で感情が読み取れる程度です。石ころのような気の小さい物は分かりずらいので手助けしてもらえると嬉しいです」
わさびが右手を振り上げると。本殿の扉がひとりでに開き中からもやっとしたもの……粒子の集まりがこちらに近づいてくる。目の前まで来ると粒子が形成している形がはっきりする。
「──目?」
「幻族に伝わる魔法|壁に耳あり障子にメアリー《ホルスの目》です」
「この目みたいなのは何なのですか?」
「名をメアリー、恥ずかしがり屋なので優しくしてあげてください」
わさびの角が光りだすと、天の川のようにメアリーに注ぎ込まれていく。ホルスの目の瞳孔が光り出すと照らされた地面かた拡張現実でお祈りする桜子の姿が映し出された。
……これは「桜子さん?」
『虎太郎が賭場から足を洗ってくれますように……。お願いです……真面目な……真面目な彼に戻してください』
目に涙をため一生懸命に訴える桜子の姿がそこにあった。
「…………」
「みるる様は虎太郎とかいう者を知っておられるのですか」
「元の世界で僕が入っていた剣道部の先輩なんだ。とてもまじめでトップ5の実力者だったんだ」
「けんどうですか、意味は分かりませんがとても強い方というのは伝わってきました」
虎太郎先輩がカジノにハマっている……まじめだった先輩がなんで賭け事なんかに。
「みるるさーん、わさびさーん。夕飯行きませんか~」
遠くからミミの声が聞こえた。小さな体からいっぱいに伸ばした手がかわいい。
「ありがとうミミ、じゃーみんなで夕飯にしようか」
* * *
店先にある暖簾をくぐり、ガラガラ音を立てる扉を開くと。奥にあるカウンター手前にはテーブルがいくつも置かれ、壁にはビッシリとメニューが貼られている。
外まで聞こえていた喧騒はボリュームを上げて更なる賑わいを見せていたが、陰キャだった僕には悪口を言われているように聞こえた。
教室で孤独に座っていると、聞こえてくる雑談が悪口を言われているんじゃないかと……そんな風に思っていた時期があった、心に遺っているものってふとしたキッカケで引っ張り出される。
「あらみるるくんいらっしゃい。早速来てくれたのね、どうぞ奥のテーブル席が空いてるから座って」
木製コップを片手に大笑いをしている客やテーブルにこぶしを叩きつけ「クソっ、今日は大負けだったよ」なんて声を上げている客もいた。
「みるるくん、注文はどうする?」
「初めてだからみんなの分もお任せでお願いしていいかな」
「了ー解。みるるくんは可愛い女の子たちと一緒なのね。高校では一葉さんと一緒だったからみんな近寄りがたかったけど、ヤンキーになっても一葉さんをいっつも気にかけていたみるるくんは優しいってファンもいたのよ」
「Σ(ОД○*)」
「みるる様は優しいですからねぇ。あんまり優しくし過ぎると勘違いされますわよ」
「ふふふ、わたしも好きになるならみるるくんのような人を好きになれば良かったわぁ」
「Σ(ОД○*)」
「ごめんなさい、わたし、酒を運ばなくちゃいけないから……。じゃあお任せで持ってくるわね」
桜子は笑顔で軽く会釈をするとキッチンの方へと走り去った。
「みるる殿、今の女子は誰なのでござるか。随分と親しげでござったが、ひなつが悲しそうな顔をしていたでござるよ」
「(´;ω;`)」
「そんなんじゃないよ、ただの同郷の仲間だよ。こんなに話したのも初めてだし」
「一緒に修練した仲間というのは絆が深いですからね。何かのキッカケで再会した時に、マイナス感情が強ければより大きな絆となって蘇ってしまうモノです。だから同窓会というのは特別なのです」
「ひなつ殿大丈夫でござる。みるる殿はひなつのことを一番大切ににしているでござるよ」
「|ヾ(๑❛ ▿ ◠๑ )《テヘペロ》」
ひなつの表情は気合が入っていた。こんな時にドラマなら優しい言葉でもかけてあげるべきなんだろうが、女子といったら妹と一葉くらいしか接してこなかった経験しかないので、所詮、無理な話しだった。
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《登場人物紹介》
・速水 三流
ミミをデミハーフの村に送り届けるのが今の使命
・日向夏
猫耳ヘアーの女の子。喋れない。
・餡子
巫女のような服を着た女の子。聞こえない。
・山葵
ユニコーン族王女、オッドアイだが目が見えない。
・ミミ
ハーフデミの子、馬車を牽くのが得意。意外におませさん
○欲望と情緒の町
・桜子 酒場の看板娘
高校のクラスメイト。お酒の味はそのままに酔いを抑えるスキル(酒精軽軽)をもっている。




