第30話 国境での不運
「魔人は元々この地に住む種族。後からこの世界にやってきて支配者のように我が物顔で生活する人形こそが魔人に見えます」
「…………」
「みるる様が気に病むことはないのよ~。強い者が勝つ、それが世界の理なのですから。勝った者が正義、歴史はそうやって繰り返されるのです」
「わたしたち半亜人は人形として認識されているんですよね?」
「そうですね。ミミたちの種族も元を辿れば人族や獣族といった人形ですからね。魔人は首に『W』の刻印があるから直ぐに分かりますよ。隠しながら人形として生活している者もおりますが、魔人同士ならすぐに分かるのです」
ん? じゃあベオカに向かう途中で襲った魔人や隠れ里で戦った魔人は何だったんだろう……見えない所に刻印があったのかな。
「|( ^o^)/*∞C<( -_-)?《ねーねー》」
ひなつは1枚の布を取り出すと背中にかけて両手を広げ、ギャーッと仕草で襲い来るドラキュラを演出、チラリと見えた長い八重歯が可愛い。
「わさび、白粉を塗ったような青白い顔をしたマントを羽織ったドラキュラみたいな魔人に襲われたんだけど、あれはなんなの?」
「|(゜ω゜)(。_。)ウンウン《腕を組んで大きく頷く》」
「そうでござったな、拙者では手も足も出なかったでござる。みるる殿とひなつ殿は拙者と出会う前にも別の魔人と遭遇したと言っていたでござるな」
「みるる様、あんこは聴力が無いと話されていましたよね、普通に会話されているようですが」
「ああ、それは僕とミミは言葉をスキルで伝えているんだよ」
「そうなのですね。ひなつは喋れないからわたくしの言葉は補完しているわけですね」
「|ε٩(๑> ₃ <)۶з《プンスカプー》」
「その言い方だとひなつが仲間外れにされているように感じるみたいだね」
「|(゜ω゜)(。_。)ウンウン《コクコク頷く》」
「みるる様はひなつの言葉が分かるのですね……。ひなつ、申し訳ありませんでした」とわさびは深く頭を下げる。「それでみるる様のいう魔人ですが、幻族では異魔人と呼んでいます。全ての個体が同じような姿に見える不思議な種族なのです。どこから来てどこに帰るのかは謎に包まれています。分かっているのはSランクスキル持ちを狙うということだけしか……」
つながった……。ベオカ、アイソレイトで出た魔人、ひなつを狙っていた理由……『言霊詠唱』はSランクスキルなのであろう。僕がひなつを連れまわしたせいで……いや、この事実はひなつだけには知られるわけにはいかない。
スキルは書き換えてある。きっともう大丈夫だろう。あれからは1度も現れていないのだから。
「みるる殿、顔色が悪いでござるよ」
「ああ、少し疲れたみたいだ。馬車を牽いてもらってるのに悪いけど少し休ませてもらうよ」
ひなつのマントに模した布を枕にひとやすみ、ミミが「気にしないでください、お願いしているのは私たちなので」と耳に入ったが意識が遠のいた。
* * *
「あぁ……いい匂いがする。それに肘に腿の柔らかい感触。まさか!」
慌てて起き上がると右にはひなつ、左にはわさびが寝ていた。
「みるるさん起きましたか」
馬車を牽きながらミミとあんこが御者席で隣り合って何やら話しをしていた。
「みるる殿、ミミとゆっくり話しをしたでござる。拙者はみるる殿とミミ殿とだけしか話ができないので嬉しいでござる」
前方から強い風が吹き込んでくる、あんこの長い髪は鯉のぼりのように泳ぎ、ミミの耳は起き上がってブラブラ揺れていた。女の子がにこやかに会話する姿を眺めているとほっこりするものが心の中に生まれた。
「ふぁぁぁ」
大きく伸ばして体の違和感を取り除く、視界の先には大きな砦が立ち塞がり、彼方まで続く壁に世界の広大さを感じる。
「国境です。あそこを越えればロンリは直ぐそこです」
ミミの指さす先に2つの砦、遠くからだと重なって見えなかったがスカイプ側には西洋風の砦、バチ側はお洒落な市役所のような建物が見えていた。
「なんで2つの建物が隣り合ってるんだろう」
「あれはですね、競っているのですよ」
「あっ、わさび……おはよう」
「おはようございますみるる様ぁ」と笑顔、「あの国境はスカイブとバチ、お互いの国を牽制しているのです」と不穏さを感じさせた。
いつもの巨大なアーチ状の扉、くぐり抜けると数人の衛視たちに馬車を止められた。
「ちょっと待ちなさい」
「何か問題がありましたでしょうか」
「君たちはこの国境を通ることは出来ない。戻って許可をとってきたまえ」
「どういうことですか。鍵集めの冒険者は国境を通してもらえると聞きましたが」
これは魔人の村で教えられた知識である。冒険者ギルドに所属し鍵集めをしている者はアーチ状の扉で引っかからなければ無条件で国境を通れるルールとなっているようだ。
「みるる様、こやつらは人を見ているようですね、いじわる気を発してますので」
「あたしたちが通るのに何の問題があるってのよ。いじわるしないでよー」
ミミの言葉にフフンと楽しんでいるかのように衛視たちの表情が変わった。
「あのなぁ、俺たちはスカイブのためにお前たちを通さないんだよ。鍵集めと偽ってバチに情報や資材を持ち出すかもしれないじゃないか。そんな気がないんだったらすぐにでも許可証は発行してもらえるだろうよ」
「こやつらには何を言っても無駄でしょう。みるる様~今日は近くにマタシバという町があるのでそこで一緒に寝ましょうよ~」
「<●><●>ジー」
「ひなよ、構わないですぞ」
「(o゜-゜o)?」
「ひな?」
「ひなつはひな、あんこはあん、ミミはミミですね」
「|(ノ≧∀≦)ノ…━━★ ピキューン!《嬉しそうにしている》」
「なにやら楽しそうでござるな。何を話しているでござるか」
「わさびさんが、ひなつさんをひな、あんこさんをあんと呼ぶって話です」
「あんとは……始めて呼ばれる名でござるな」
「そういえばわさびさん、さっき言いかけたのはなんですか。構わないって」
「ひなよ、ユニコーン族は強い者に惹かれるのは当然と考えるのです。強者の子孫を残したいと思うが故ですね。デイモーン族のユングもみるる様のことを見初めていたようですしひながみるる様を独り占めしたいと思うなら一波乱も二波乱もありますよ」
しっかりとみんなの会話は聞こえていた。しかし僕には聞こえないふりをすることしかできなかった。
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《登場人物紹介》
・速水 三流 所持金:金1000:大銅2
ミミをデミハーフの村に送り届けるのが今の使命
・日向夏
猫耳ヘアーの女の子。喋れない。
・餡子
巫女のような服を着た女の子。聞こえない。
・山葵
ユニコーン族王女、オッドアイだが目が見えない。
・ミミ
ハーフデミの子、馬車を牽くのが得意。意外におませさん




