第20話 魔人の血
「だめぇーー」──透き通りながらも美しく、優しくも激しい声が部屋中に響き渡った。
震える空気、空気を消し去るように渦を巻きながら飛んでいく雷。一直線に魔人に向かって飛んでいく。声の方向にいるのは……ひなつ!?
圧縮された竜巻のような雷、この神々しさはまるで神の裁き。あまりにも美しい攻撃に闘志を削がれてだらんと肩の力が抜けた。
焦点が合わず揺れる水面越しに見ているようなボヤっとした感覚で行く末を見守っていた。
魔人は禍々しいオーラを纏っている刀を右手で縦に持ち、左手の平でミネを支えると、顔が強張り唸るような声を上げて刃で雷を受け止める――
金属が削られるような音が空間を包み込む。あまりにも強烈な不快音に耳を押さえてしまう。
徐々に押され始め額に血管が浮き出てくる、強張った顔が徐々に苦痛に歪んでいくのが分かる。
神の裁きが如く雷が魔人の刀を纏う禍々しいオーラを薄めていく……
バッキーーン! 刃が折れる音と共にひなつの雷も分断、折れた刃は魔人の腹に突き刺さり雷は天井を突き抜け風穴を空けると遥か彼方に消えていった。
風穴からは一気に太陽の光が流れ込み地面を照らす。魔人の腹からは大量の血液が入口まで流れ出す。その血は陽の光を浴びて葡萄ジュースのような透き通った美しい道を作った。
血液の道は僕の足元を濡らしひなつを濡らす。魔人は腹を抑えて風穴から飛んでいった。
『能力吸収スキルを手に入れました』──頭に響く声、それより今はひなつだ。
「ふぅ」
一気に肩の力が抜け、溜まりに溜まったため息を大きく口から吐き出すとひなつの元に走った。擦れ違うように半亜人たちが血で出来た道を走ってホッキョクへと走っていく。
ひなつを抱き起こしたあんこが一言呟いた「百花繚乱でござるか」。追うように半亜人たちから、「「外観詐称?」」やら「「スキル?」」という声が次々と追いかけた。
そういえば魔人の血がきれいに無くなっている。あれほどの量がどこへ……
能力吸収……。女魔人を倒した時にもそうだ。魔人の血に触れたときか。あんこは百花繚乱、半亜人たちは「外観詐称」。ひなつは意識を失っているので分からない。
あれ、ひなつの猫耳はほどけ頭に角、腰からは羽が生えている。コスプレ?
「o_ _)o…… (o- -)oムクッ」──ひなつが目覚めた。右手はゆっくりと頭の方へ伸びていく。その手が角へ……『(゜д゜lll)』──勢いよく起き上がるとフワァっと角と羽が消えていった。
一体何が起こったのだ……呆気に捉われているとひなつがものすごい勢いで駆け寄るとグイグイ袖を引っ張ってくる。
「((-ω-。)(。-ω-))フルフル」──高速で首を振っている。
目には涙、『(。゜っ´Д`゜)。っ』と必死な表情。
「みるる殿、ひなつ殿は半亜人でござる。吸血鬼と教えてくれたでござる」
「吸血鬼?」
──あんことの会話は青水を使った骨伝導で繋がっております──
「そうでござる。外観詐称というスキルで隠していると教えてくれたでござる」
「それで必死に……」
「(。゜っ´Д`゜)。っ……((-ω-。)(。-ω-))フルフル」
ひなつの両肩を掴んでじっと見つめる。そしてゆっくりと抱きしめた。僕の心臓はバクバク、抱きしめるなんて経験がない。でもこうやった方が良い気がしたのだ。
「大丈夫だよ。僕はひなつ……あんこだってそうだ。家族みたいなものだからね。ひなつが何であっても仲間だよ」
「。・゜゜ ‘゜(*/□\*) ‘゜゜゜・。」
「ちなみに拙者も半亜人でござるよ」
「え”。どこも変わった様子は……、あんこも外観詐称スキルを?」
「違うでござる。拙者はそのスキルを使えないでござる。強いて言えば容姿でござろうか」
「容姿? 可愛らしいその姿のどこに半亜人の要素があるの?」
「可愛らしくはないでござるが……背でござる」
「背?」
「拙者は座敷童でござる。だから背が伸びないのでござるよ」
あぁ、妙に納得してしまった。話によるとあんこはひなつや僕と同じ17歳。でも……うんうん。分かる分かる。座敷童かぁ。
「みるる殿、その顔は失礼なことを考えているでござるな」
「ごめんごめん」──破顔して謝る。
あんこの頭をポンポン叩く。フワフワする髪の毛が気持ちいい。幸せを運んでくれる座敷童かぁ。
「みるる殿~! 子供扱いをするのはやめるでござるよぉ~!」
低い声と吊り上がってくる目に恐怖を感じる。慌てて手を引いて「ごめんなさい」と頭を下げた。目線には鞘から抜かれた刃がチラリと光った。
「そういえば刀、折れちゃ──」
「みなさん」
僕たちの会話を遮ったのは老人の半亜人、明らかにヤギだろう。
「はい……」
「皆様のおかげで魔人を追い払うことが出来ました。ホッキョクは残念でしたが、皆様方のおかげで生き抜く力を手に入れることができました」
ホッキョクは助からなかったようだ。彼の亡骸に突っ伏して泣いている子供たち、その涙でホッキョクの血が洗い流され地面で滲んでいた。
「こちらこそ……ホッキョクを助けられなくて申し訳ありませんでした」
「気になさらないでください。あなた方がおりませんでしたらこの村は全滅していたでしょう」
(……女魔人の時もそうだった。あきらかにひなつを狙っていた)
「元村長としてお礼いたします。ホッキョクを失ったことは今更嘆いてもしかたありません。しかし、我々がずっと望んでいた外観詐称スキルを皆が得ることができました」
「そのスキルは何なのですか?」
「体の一部を変化させることが出来るのです。変化中は魔力を消費し続けるので我々は数時間しか使えませんが、買い物やギルド手伝いなど生活が楽になります」
「それは良かったです」
「ただひとつだけ気がかりなのが、この世界の理では、ひとりに一つスキルが割り振られ、複数の所持できないはずなのです。なにか枠を増やせるアイテムがあるとか聞いたことはありますが……」
ん……スキルはひとり一つ? 枠を増やせるアイテム? 半亜人全員がスキルを得た? ……ポンポさんが高額で買い取ってくれた…… 蛙牛。導かれる答えはこれしかない
「そ、そうですか……不思議ですねぇ」
としか返せなかった。
「百花繚乱でござる」
あんこの声が小さく響いた。
《登場人物紹介》
・速水 三流 所持金:金1008枚大銅4枚
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:15 スキル:衝撃波
スキルの秘密を知った。
・日向夏
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:8 スキル:言霊詠唱
猫耳ヘアーの女の子。喋れない。バンパイアのハーフデミ。
・餡子
ランク:3流 ギルド:冒険者(黄)
レベル:16 スキル:武器長短
巫女のような服を着た女の子。聞こえない。座敷童のハーフデミ。
隠れ里
・トカラ(ヤギのデミハーフ)
長老。元村長で博識、高齢のためホッキョクに村長を譲った。
・ホッキョク(白熊の半亜人) 村長
魔人によって命を落とした。




