第17話 溢れる力とハプニング
『このスキルを与えましょう』
ボヤっとした淡瑠璃色の光が体に入り込む。体の中をまさぐられているようでなんだかむずがゆい。
『表示詐称スキルを手に入れました』──プレートを介して脳内に響く。
光が離れていく。まるで魂が抜けていくように。
「ひょうじさしょうすきる?」
『あのね、今のあなたの力だとLV1のままだと怪しいでしょ。そのスキルを使ってプレートを書き換えなさい』
「それって大丈夫なの?」
”表示詐称”をイメージしてプレートに触れるとぼんやりとした光を指に感じ項目が脳内に展開される。
『書換えると勝手に値が変動しないから適宜書換えなさい。レベルはそうね……15位、スキルは衝撃波とかにしておけばプププ……僕の考えた最強の攻撃が使いやすくなるんじゃない……』
まったく……いつまで引っ張るんだ。あぁ、こんなことなら調子に乗るんじゃなかったぁ。廚二病をこじらせたネトゲ仲間が頭に浮かぶ。
「えっと、レベルは15でスキルは衝撃波っと……」
『大切なことだからもう一度言うけど、あくまで表示だけだからね。中身は変わってないからね』
「分かったよ。そういえばこれって誰の表示も詐称できるの?」
『そうね、それは出来るけど無闇矢鱈に使っちゃだめよ』
「分かってる」
そう、ひなつの『言霊詠唱』のスキルを書換えられないか考えていたのだ。
『それとね、最後に大サービス。君の今持っているスキルを教えてあげるよ』
①絶対パリィ …… どんな攻撃でもタイミングよく捌けばダメージを受けない。
②物理組換 …… 物理的な物体の形を変える事が出来る。ただし質量は変えられない。
③指示倍加 …… 指を伸ばしている倍数分パワーアップできる。ただし伸ばしている間しか効果はない。
④癒付与 …… 他者に癒しを与えることが出来る。物にも付与できる。
⑤表示詐称 …… プレートの表示を詐称することが出来る。ただしメモリ機能はいじる事が出来ない。
「物理組換? こんなスキルいつの間に……。ねえ?」
既に淡瑠璃の靄は消えていた。
「あれ? いない」
草葉の陰から覗いているような淡瑠璃色の女。いつかきっと出会う予感がする。
なんか久しぶりに人と話をした気がする。って、人じゃないか。いつのまに心の不安が払しょくされていた。
「よし、ひなつ、あんこ直ぐに探し出してやるからな!」
ゴドン! 後方に何かが落ちた音、ビクッと体を震わせる……
「ん? 近づいてくる?」
徐々に音が大きくなる。近づいてくる……もしかしてこれはお約束の……ゆっくりと後ろを振り返る。
「あ”ぁぁぁぁ」
巨大な丸石、一気に駆け出そうと足がもつれ宙を舞う。青水青水……四足歩行で手足をバタバタさせながら青水コーティング。
あれ? スピードが遅い。緩い坂をゆっくり転がってくる。
「なんだよビックリさせやがって。僕の考えた最強の攻撃2倍」
攻撃を受けた丸石はビクともしない。気のせいか怒りマークが浮き出たような……
「ひゃぁぁぁ」、物凄いスピードで転がり出した。必死に走る、走る、走るー。
迫る丸石、どう考えてもおかしい。この緩い坂であのスピードは……絶対に狙われてるぅぅぅ
一直線に続く通路を懸命に走る。通路の広さと丸石の直径がピタリ一致、避ける場所なんてどこにもない。お約束なら窪みや落とし穴があるはずぅぅ……
ズドーン、辛うじて突き当りの小部屋に逃げ込んだ。丸石が扉に遮られたおかげで助かった。へたり込んで一息つく。
丸石から現れたのは、吊り上がった目に唇をひん曲げた口。しっかり怒りマークもついている。
「なにしとんじゃわれ、散歩してたらいきなり殴りつけおって。舐めたらあかんぜよ。今度やったらただじゃおかないからな!」
そう言い残すと怒りマークを破片のようにまき散らしながら緩い坂道を上っていった。
ハァハァハァ「あんな生物もいるのか」。手を膝について息を整える。顔上げると正面にアーチ状の扉。手前には一冊の本が落ちていた。
本には鍵がかかっており、裏面には名前らしきサインが書かれているが読み取ることは出来ない。とりあえず預かって持ち主が見つかったら返そう。
いくらでも入る異次元ポケットにとりあえず突っ込んでしまうのが癖になっているようだ。
アーチ状の扉、ぼやぼやぼやけたうねうねする青い光に一歩踏み込む。あれ、床がない…… 吸い込まれるように落下した。
また落ちるのかぁぁぁ──
* * *
──ぁぁぁぁ。
ボッチャーン!
なんだここ……。温かい……ってお湯? あぁー溺れる~。
バシャバシャ手足を動かし懸命にもがき脱出を試みる。何か、何か掴むものを……『ぷにぃ』。何かを掴んだ、助かったぁ、ってここ足がつくじゃないか。
手の感触。柔らかい……僕が経験したことのないような触り心地。充満した湯気が晴れた先にいたのは。
「ひなつ!」
「ΣΣ(゜Д゜;)」
じゃあこの手が掴んでいるのは……右乳房。初めての感触……脳の処理装置は100%が胸に向けられる。他に何も考えられない。
ぐいっと顔を寄せるひなつ。ヤバイ! 一気に血の気が引き見下ろすひなつの目に視線を移していく。毛虫を見るような一葉の目が頭に浮かぶ。
慌てて手を引きバンザーイ。何もしてませーんと誤魔化すときのお決まりのポーズ。
大きな水の音と共に裸のひなつに抱き着かれた。顔は『(o^-^o)』からの『(´;ω;`)』体に感じる柔らかい感触。両肩を掴んで彼女をゆっくり引き離した。
「ひなつ……」
「(ღ✪v✪)」──ぱぁっと笑顔になる。
「突然で悪いんだけど……裸だよ」
「ΣΣ(゜Д゜;)(゜д゜lll)……(///△///)……((((((((((っ・ωΣ……」──行ってしまった。
薄暗い天井に掘られたお風呂……そういえば、ひなつが髪を下ろしているの初めて見たな。でも頭に角みたいなものが見えたような……水に濡れて猫耳が細くなったのかな。
ハハハ色々あって少し疲れてるんだな。でも、ここはどこだろう。
ぴちゃん。波紋を作りお湯から出る。岩風呂のようにゴツゴツした岩に囲まれた場所。ちょろちょろとお湯が出ており近くのスーパー銭湯にでも来たような気分になる。
濡れた服の温度が一気に下がり冷たいし気持ち悪い。滴る水滴に冷えた体、久しぶりのお風呂にゆったりと浸かりたい気分だがひなつを放っておけない。
ひなつがお風呂に入っていたという事はここに何かがあるのだろう。ゴツゴツした地面を出口に向かって歩いていく。
出口の先で見た物は……
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《登場人物紹介》
・速水 三流 所持金:金1,008枚大銅4枚
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:15(詐称) スキル:衝撃波(詐称)
淡瑠璃色の少女によって力を得た。隠しなさいとアドバイスを受ける。
・日向夏
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:8 スキル:言霊詠唱
猫耳ヘアーの女の子。喋れない。お風呂場で再開した。
・餡子
ランク:3流 ギルド:冒険者(黄)
レベル:16 スキル:武器長短
巫女のような服を着た女の子。聞こえない。ひなつとともに行方不明。




