3-6 リオンの昔話
こっちの馬車にも、衝撃吸収の魔法をかけて、乗り込む。キャラバンは全部で10台。
うち3台は人間が乗るもので、6人くらい乗れた。後部スペースには荷も載せてあるが、荷物専用馬車に比べるべくもない。
後の7台は御者席しかないものだ。助手席はあるので、そこへ冒険者達が納まっていく。リオン以外の5人、ベックのチームが2人以外で5人。一応、ジョンソンがリオンの乗るVIP車両の助手席に乗り込む。
リオン達が乗り込む馬車はアリオン商会の馬車で、4台持ち。荷物は高価な香辛料に酒、その他の嗜好品である。今日組んだキャラバンの中では一番大きい商会だ。他の商会の積荷は、小麦、干し肉、野菜、衣料品などの比較的安い物品である。
荷馬車は木の枠に幌がついただけの粗末な物だ。アリオン商会のは些か上等なものであるが、まあたいした違いはないようなものだ。その上等な荷馬車を選んだのも、途中で車軸が折れて荷を捨てていかないといけなくならないようにとの、商売上の配慮からだ。他の商会には、その余裕が無いだけである。
人が乗るものは、もう少し上等に出来ている。きちんと木のフレームで全体が出来ており、中はそれなりのクッションの効いた、革張りの椅子が据付られている。
他の商会のは、かなりくたびれており、また古くて狭い。執事さんが交渉の際に、それらを見て、この馬車を確保したのだろう。
リオンは、そういう商会のせちがらい一面を垣間見て、気を引き締めるのだった。お嬢様は、窓から景色を見て、はしゃいでいる。こんな風なお出掛けは初めてなのかもしれない。
この街道にも、盗賊や魔物が出る。そのための護衛だ。冒険者を配置しているのを盗賊に知らせる目的で、冒険者は助手台に乗る。稀に馬に乗った、冒険者を配置する場合もある。
「さて、リオン。話を聞かせてくれ」
と、ジョニーが話を切り出した。
「そうね。まあ、職人として頑張ってたんだけど、商会作るのに思ったよりお金や後援者とかがいることがわかってさ。コンクールにも出したんだけど、インチキコンクールで、お話にもならなかったわ。王都でセシリオさんっていう、オリハルコンの冒険者に会ったの。あれくらいの人にならないと駄目なのかもって思ったのもあって。まあ、どこまでやれるか」
「オリハルコンって、リオン……」
マークも呆れたように言う。
オリハルコンの冒険者。そう、それはSSSランク。どうやったら、そんなものになれるかも、よくわからないほどの領域。
助手台で、話を聞いていたジョンソンもさすがに苦笑している。
だが、ジョニーは呟いた。
「もしかしたら、リオンならやっちまうかもな」
「えー、ジョニー、さすがにそれは。ぼく達にだって、夢はあったけど、この8か月弱の間に現実ってものを知ったばかりだよね?」
しかし、ジョニーは、頭を振って、
「リオンは俺達とは違うよ。お前も知っているだろう。完全に規格外だ。この世界の理から、はずれているんだ。そんな事があったとしても、別に驚きはしないさ」
「う、ううっ。それを言われると否定出来ないなあ」
慎重なマークも、腕組みをして唸る。
ジョンソンも2人の会話を、興味深く聞いていた。
リオンは笑って、
「そんな先の事より、仕事よ仕事。初仕事。頑張るわよお」
張り切るリオンに、商人も執事さんも、微笑んで見守るのだった。マークとジョニー以外は、リオンのやらかしぶりを全く知らないので、笑っていられるのだ。
大人しく外の景色を見ていたミランダは、飽きたのかリオンに話かけてきた。こういう展開を見込んで、リオンがミランダのお向かいにいるのだ。
「ねえ、みんなは、どんな冒険をしたの? 冒険者さんなんだよね」
確かに理屈には合っている質問だ。微妙にずれているが。
「そうね! あれは、私達が10歳になったばかりの時だったかしら」
リオンは昔の話を始めた。リオンが今の力に目覚めたのは約2年半前。9歳の秋頃である。
「その頃、まだ私達は本当にひよっこで、ただのいたずらな子供に過ぎなかったわ」
そう語りだすリオンに、マークは色々突っ込みたそうな顔だ。何せ、ひよっこもへったくれもない。リオンなどはこれが初仕事なのだ。
「当時、私達は孤児院にいて、その界隈では有名な悪餓鬼だったわ」
主にお前がな、と顔に書いてあるジョニー。
「当時、王都には怪盗ルーベンスを名乗る泥棒がいたの。愉快犯というか、義賊気取りというか。あくどい商売をしていた商会や悪さをしているような貴族から、お金を盗んで貧乏人に配っていたの。うちには来てくれなかったけれど。
ある日商会や貴族の人達が集まって、そいつに懸賞金をかけたの。冒険者ギルドにも、依頼が出たわ」
「また、懐かしい話が出たな……」
まるで、昔見た悪夢を思い出した、みたいな表情でマークが。
「私達は、そいつを捕まえることにしたわ。この2人に、私の親友バネッサを交えて、いつもの4人組でね。将来に備えて、懸賞金が欲しかったの。うん、けして、うちに来てくれないのを怨んでたわけじゃないのよ」
いや、あれはやっぱ結構怨んでたんじゃねえの? みたいな顔をしている、思い出し顔のマーク。
ミランダはわくわくしている。
「ねえ、それから、それから?」
ジョンソンは神妙な顔をして聞いている。何か禄でもない話が待っていそうな気がするのだろう。そして、その冒険者の勘は、けして間違ってはいないのだ。




